第27話 事故


「代表、大変です。今、ホテルから連絡があって……」


 事務スタッフが耳打ちをした。その途端に代表の顔色が変わる。


「おい、ユミ!」


 呼び捨てでユミちゃんのテーブルへ駆け寄り、大声をあげた。


「お前、トラブルのメイク落としたか⁈ 髪色は⁈ あのまんまか⁈」


 ユミちゃんは驚きながら「そうよ。シャワーで落ちるから。洗顔料も渡してあるし。なんなの?」と、怪訝そうに答えた。


「なんで!」と、代表は言葉を失った。周りに向かって叫ぶように聞く。


「トラブルと帰ったスタッフって誰だ?」


 それもユミちゃんが答えた。


「うちのソヨンよ。代表、何かあったの?」


 代表はメンバー達にチラッと視線を向けた。


「トラブルがテオと間違われてファンの将棋倒しにあった。一緒にいたスタッフも巻き込まれて、ファンにもケガ人が出ているそうだ」


「うそ…… 」と、ユミちゃんは息を飲む。


「トラブルは車で帰ったのか?」


 突然、セスが口を挟んだ。


 放心状態のユミちゃんの手を握り、他のメイクスタッフが答える。


「徒歩です。歩いて20分位だからって」

「ホテルの正面にから入ろうとしたんだな」


 セスの言葉にノエルはうなずく。


「で、ファンに見つかったんだね」

「何人くらいに……」


 テオは青い顔をしてつぶやく様に言う。


「将棋倒しって言うくらいですからね、2、3人じゃないでしょうね」


 ゼノは今にも倒れそうなテオの肩を抱いた。


 いくら酔っていても緊急時の代表は心強い。


「俺がホテルに戻って状況確認をしてくる。連絡があるまで、お前達はここで待機。ケガ人がいる以上、ニュースになると思え。記者会見はまぬがれない。すでにホテルにマスコミが来ている可能性もある。ゼノとマネージャーはコメントを考えておけ」


 代表は矢継ぎ早に指示を出し、風の様に部屋を飛び出して行った。


 ユミちゃんは放心状態から戻れないでいた。


「うそ、うそ……」

「ユミちゃん、トラブルに連絡しよう」

「そうだよ、テオの言う通りだ。メールで状況を聞こうよ」


 ノエルに言われても、ユミちゃんはトラブルの連絡先を知らなかった。


「僕達も分からないよ」と、ノエルは大道具スタッフを見る。


「すみません、俺達も聞いていません」と、大道具達は顔を見合わせた。


「ジフン、お前、トラブルと食事に行ってたよな?連絡先、聞いていないか?」

「いえ、聞いていません」


 カン・ジフンは頭を振った。


 トラブルと食事をした? メンバー達は驚くが、今はそんな事を言っている場合ではない。


「これだけ一緒にいて、誰も知らないのか……」

 

 セスが眉をひそめる。


「トラブルはいつも、どこかにはいて、必要な時には現れるから…… 」と、大道具達は再び顔を見合わせる。


「ソヨンに電話してみるわ」


 ユミちゃんは、そう言いながら電話をかけてスピーカーフォンにした。


「もしもし、ソヨン? 大丈夫なの?」

『ユミちゃん〜、大丈夫じゃないです〜』


 鼻をすする音が混ざる。


「今どこ?」

『部屋にいます』

「何があったの?」

『トラブルとホテルの横のコンビニに寄ったんですー……』


 ソヨンはしゃくり上げながら説明をした。


 コンビニ内で4、5人の女の子に「テオ?」と、話しかけられた。違うと言いコンビニを出ると、その子達がテオだと思い込み追い掛けて来た為、トラブルがソヨンの手を引いて走り出した。


 トラブルの帽子が脱げ、その子達の『テオだ!』と叫ぶ声を聞き付け、ホテルの前にいたファンにも追い掛けられる事態になった。


『私、足が遅くて……トラブル1人なら逃げ切れたのに手を離してくれなくて。私、転んじゃって。トラブルが助けに戻ってくれたけど、立ち上がれなくて、あとは、どんどん上に人が…… トラブルがずっとかばってくれていて、ホテルの警備員が引っ張り出してくれて、警備員室でテオじゃないって怒られて、トラブルはずっと頭を下げてて、私は部屋に帰ってなさいって、なって、えっと、えっと……』

「分かったわよ、落ち着いて。あなたはケガは大丈夫なの?」

『はい、私は足を踏まれた程度です。トラブルは私の上で踏まれ続けていたから、全身に踏まれた後があって、かなり痛がっていました』


 ユミちゃんは「そんな…… 」と、天を仰ぎ「ホテルに帰れたら行くから。今は休んでね」と、通話を終わらせた。


「何で、テオじゃないって怒られなきゃならないの?」


 ノエルはセスを見た。


「混乱を引き起こした、ってとこだろうな」


 セスは渋い顔をする。


 テオがつぶやく。


「トラブルのケガの状況が分からないって……ヤだな」

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