第249話 親戚のお姉さん⁈


 顔合わせの時間になり、大会議室に続々とスタッフ達が集って来る。


 舞台監督、演出家から大道具、小道具まで、ツアーに参加する者すべての顔を合わせる。


 当然、メンバー達とトラブルの姿もある。


 代表が全体を見回しながら妙な事を言い出した。


「日本スタッフはいないな…… よし、皆んな、聞いてくれ。知っての通り、ファンの心情に配慮する為、メンバー達の周りに女性スタッフは最小限にして来た。しかし、ノエルの一時帰国の際など、こいつ……トラブルと写真を撮られる可能性は大だ」


 代表は一呼吸おいた。


「認めたくないが、こいつは美人だ。で、身内という事にする。俺達はすっかり見慣れているが、こいつはテオとそっくりだ。テオの親戚か従兄妹いとこって事で、口裏を合わせてくれ。余計なスキャンダルを防ぐ為だ。何か質問は?」


 スタッフから手が挙がる。


「親戚の方だと思っていました」

「だろ? そうだよ。それでいいんだ。話は終わりだ。あの2人はどこだ?」


 遅れてユミちゃんに連れて来られた日本人2人は、恐縮しながら自己紹介を済ませた。


 代表は日程と行程表の説明が終わると、メンバー達とトラブルを会議室に残し、顔合わせを終了させた。


 すべてのスタッフが去った後、満足気に言う。


「どうだ、いいアイデアだろ? これで、お前がこいつらの周りをうろついていても、テオと親しげにしていても言い訳が出来る。最悪、疑いを持たれたら、ゼノとデキているって事にしておけ」

「私とですか⁈」

「最悪の事態に備えての話だ。お前なら世間は、すぐに収まるさ。次にセス、ノエル、ジョンの順番だ。テオだけは絶対に疑われるな。2度目は、ないからな」

(第1章第48話参照)


 代表は指を差して強くクギをさす。


 テオは顔を強張こわばらせた。


 トラブルはあきれた顔で代表を見た。


(また、勝手に決めて……)


テオの家族からすぐにバレますよ。


 トラブルの手話を聞いても、代表は動じない。


「その時は、その時だ」


 やはり何も考えていないと、トラブルは天を仰ぐ。


「テオ、良かったね」

「え? ノエル、何が良かったの?」

「だって、トラブルと遊んでも、ご飯しても従兄妹いとこのお姉さんって事で、堂々としてられるじゃん」

「そうか!」


“いとこ” 同士とは、どのような態度が適切ですか?


「え、えーと……適切な態度?」

「兄弟みたいに、していればいいんじゃん?」


兄弟の態度……? 分かりません。


「親しげで、思い合って、の自分が出せて、お節介せっかいをやいて、時に鬱陶うっとうしく、有り難くもあり……」

「ゼノ、それトラブルじゃなくても分かんないよ。代表、この作戦は失敗です」


 ノエルは笑顔で言い切る。


「ノエル、やってもいない事を失敗と言うな。ま、どうにかなるさ。現地スタッフさえだませればいいんだ。どういう関係? と、聞かれたら “ 親戚です” と、答えればいいんだよ。じゃ、セス、後は頼んだぞ」

「え! 卑怯ひきよう……」


 あんぐりと口を開けるセスに後を託し、代表は会議室を出て行った。


「親戚のお姉さんって、どんな感じでしたかね?」


 ゼノが首を傾げる。


「イメージはくけど、トラブルとつながらないよね」

「なんかさー、髪が長くて、ワンピースを着て、優しくて、お小遣いくれて、いい匂いがするってイメージ!」

「ジョンのは、ただの妄想だ」

「セス、ひどい!」


「なんか困るよ。他人行儀でいる方が簡単だよ」


 テオの言葉にトラブルも大きくうなずいて同意する。


「セス、どうにかして下さい」


 代表の思惑通りになるのはシャクに触るが、仕方がないので知恵を絞る。


「あー……テオはそのままでいい。トラブルに手を振りたければ振ればいいし、話しかけたければ話しかければいい」

「うん、でも、トラブルは?」

「お前はテオを、パク・ユンホみたいに扱え」

「パク先生?」

「そうだ。遠くから見守って、いざという時は駆けつける。で、からんで来たら突き放す。お互いの望みは最大限の努力をして叶える。しかし、甘やかさない」

「うわ、セス。すごくまとを得ているよ。テオとトラブルも分かったでしょう?」


 ノエルは目をキラキラさせて言うが、テオとトラブルは顔を見合わせて、首を傾げた。


 セスはさらに、どう言えば伝わるか考える。


「……お前はノエルに付き添う看護師として、日本に行くだろ? でも、俺達の健康管理の仕事も継続されている」


 トラブルはうなずく。


「体調に変化はないか。メシは食えているか。昨日は良く眠れたかと、気にかけてくれ。で、テオだけには甘やかさないで厳しく接するんだ。あなたは自分でやりなさい、と」


 トラブルは大きく頷きながら、それなら可能ですと、手話をした。


「セス! 天才だよー!」


 ノエルの賞賛にセスは両手を広げてドヤ顔で応える。


 テオは不満な顔を見せた。


「なんで、僕は甘やかしてはダメなの?」

「身内には、愛を持って厳しくするものなのですよ」


 ゼノはねるテオを慰める。


 ノエルがテオの耳元でささやいた。


「僕とトラブルの部屋が近かったら、代わってあげるね」


 テオの顔がポッと赤くなった。

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