第213話 ノエルとソヨン
「疲れている時はラベンダーの香りがいいよ。お風呂に一滴垂らしてもいいし、枕に振ってもリラックス出来るよ」
「詳しいですね」
ノエルとソヨンは雑談しながらゼノの元へ行く。
「ゼノー、メイク直しするってさー」
「はい、今、行きます」
トラブルは脚立に立ち、壁に歌詞の英訳を書いていた。
ふと、
「何ですか?トラブル」
トラブルは、脚立の上でバランスを取りながらスマホを探す。
手話の読めるソヨンがゼノに伝えようとすると、ノエルが先に口を開いた。
「 r か er か、聞いてるよ」
「あー、erです」
トラブルはノエルにgoodと親指を立てる。
ソヨンが驚いてノエルを仰ぎ見た。
「ノエルさんは手話が聞けるのですか!」
「まあね、勉強したわけじゃないから何となくだけどね」
「毎日、忙しくしているのに凄いです」
「ありがとう。僕に手話を教えてくれる?」
「は、はい。いつでも、聞いて下さい」
「ソヨンさんは優しいねー」
ノエルは流し目で微笑んでソヨンを見下ろす。
ソヨンの顔が再び赤くなり「控え室にー」と、また逃げて行った。
ゼノが、ノエルから不穏な空気を感じ取り、注意をした。
「ソヨンさんをファンにして、どうするつもりですか。その気もないのに勘違いをさせて、泣かせないで下さいよ」
「分かってるよ。面白いなぁって思ってさ」
トラブルが脚立から飛び降り、ノエルを
「何?トラブル」
面白くありません。人の心を操る様なマネを身近な人にしてはいけません。
「えっと……」
ノエルもゼノも、早い手話が読めず困惑した。
「『いけません』は、分かりました」
「うん、泣かせたりしません」
トラブルは怖い顔のまま、見張っている、と指で自分の目を
「怖っ! はい、すみません!」
ノエルはゼノの腕を引き、そそくさと控え室に帰って行った。
監督に呼ばれ、テオが壁の前に立つ。
「凄くカッコいいセットになったね」
トラブルはテオに褒められ、肩を上げて微笑み返す。
テオの撮影が始まるとトラブルは控え室のノエルの元に向かった。
ノエルはゼノのメイク直しをするソヨンの顔を、じっと見つめていた。
ソヨンは気が付かない振りをしているが、顔が真っ赤になっている。ノエルを気にしつつ、ゼノのメイクに集中しようと努力をしていた。
トラブルは、わざと乱暴にノエルの右手を取る。
「痛っ」
ノエルの視線はソヨンから右手に移動した。
「痛いよー、トラブル」
トラブルはノエルを無視して、
「全然、痛くないよ。大丈夫」
ノエルの右手は
(朝から、動かしているからな……)
トラブルは保冷剤を当て、三角巾で右手を
次々とメンバーが呼ばれ、個人撮影が進む中、テオが戻って来た。
顔が紅潮している。
「暑いー。目にライトを入れるからって、顔のこーんな近くから照らすんだもん。焼けちゃうかと思ったよ」
「え、全員やるのかなぁ」
「たぶん。セスの『バカかっ』が聞こえた」
「あの人、スタッフにもバカって言ってるんだ」
ノエルとテオは笑い合う。
ノエルの出番が来た。
トラブルは新しい保冷剤を持ち、ノエルに付いて行く。
残されたテオは、気になっていた事をソヨンに聞いた。
「ソヨンさんがツアーに来るの? それとも、ユミちゃん?」
「あ、私です。アメリカの3日目にユミちゃんと交代します」
「交代? どうして?」
「あ、あの、弟の具合が悪くて。日本なら何かあれば、すぐに帰る事が出来るので日本ツアーだけ参加する予定にしていたのですが、母がせっかくの機会なのでアメリカも行って来ていいと言ってくれて。でも、全行程は、母の負担が大きいのでユミちゃんに頼みました」
ソヨンの家には男親がいない。詳しい事情は知らないが、長女のソヨンと母親で
「そうだったんだ……トラブルは知っているの?」
「いえ、言っていません。心配させちゃうから。トラブルは同行しますよね?」
「ううん。行けないんだって」
「そうなんですか……ノエルさんの手が心配ですね」
「ねえ、ソヨンさん、ノエルの事……」
言いかけた時、セスとゼノが入って来た。
「あちー!」
セスは保冷剤で顔を冷やす。
「あー、メイクがー……」
ソヨンの控えめな悲鳴にゼノが笑う。
「もう、溶けてますよ。やり直して
「はいー……」
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