第507話 精神科医の子供
ノエルはポカーンと口を半開きのまま、シンイーを見る。シンイーはギュっと目を
「シ、シンイー? その顔は……する前の顔じゃん?」
パッと見開いた目の周りから、どんどん顔が赤くなる。頭の中では爆弾が四方から飛び、カラフルな煙を上げて炸裂していた。
自分の行動が信じられないと、シンイーは口を押さえる。
「あはっ! 白昼堂々、外でキスをされたのは初めてだよー」
ノエルは髪をかき上げながら、照れて笑った。
「ごめんなさい……」
「ううん。本当はこういう事は男の僕からするモノだよね」
ノエルはシンイーの首に手を回し、引き寄せてキスをした。
今度は目を開けているシンイーにクスッと笑う。
「今は目を閉じててよ。ね、やり直し…-」
首を傾けて、シンイーの唇を優しく包む。少し長いキスをしてノエルは顔を見るのが恥ずかしいとシンイーを抱きしめた。
「青い
「?」
「シンイーの気持ちが見えるって言ったでしょ? 寂しい時は青い滴か灰色の尻尾」
「そういう風に見えてたんだ……」
「シンイーには、自分の気持ちが色と形で見えないの?」
「見えない。ノエルが何かを見ているって感じるだけ」
「そうだったんだー。じゃあ、これは全部、僕の力なのかなぁ」
「パパに聞く?」
「あー、そうだね。機会があれば会いたいけど……今日は僕と会うって知っているの?」
「言ってない。隠す」
「そっか。パパに僕の事を聞かれたら話してイイからね。もちろんママにも」
「うん」
「シンイー、大好きだよ。次もたくさん話をしようね」
ノエルはシンイーから体を離して、手を振って階段を降りて行った。
振り返り見上げると、シンイーは静かに見送っている。
ノエルは大きく手を振ってからマスクを着けた。
(さて。えーと、確かこっち……)
小走りで路地を抜け、ビルの脇に出た。行き交う車の中にタクシーを見つけ、手を挙げるが、それは乗合タクシーだった。
(危なっ。優良タクシーは拾えないかなぁ……時間が……)
通り沿いを歩きながらタクシーが通り掛かるのを待つ。
やっとの思いでタクシーを拾い、ノエルは宿舎に急がせた。
(あー、寝る時間がなくなっちゃったよー)
宿舎に入り、その足でバスルームに向かう。
熱いシャワーを浴びながらシンイーを想っているとドアがノックされた。
「ノエル! 帰って来たのですか? そろそろ出る時間ですよ!」
ゼノがドアの外で叫ぶ。
「分かってるよー。もう出るからー」
バスタオル姿で出ると、全員が支度を終えてノエルを待っていた。
「ノエル、遅ーい!」
「えー? まだ10分あるでしょ?」
「10分前行動ー!」
「ジョンにそれを言われるとは思わなかったよ」
「早く、着替えて来て下さい。ご飯は食べたのですか?」
「うーん、食べた様な食べてない様な?」
「会社に行けば何かあると思いますから、早く」
「はい、はい」
ノエルは服を着て、濡れた髪を拭きながら靴を履く。
移動車の中でテオはノエルに耳打ちした。
「シンイーさんと会えた?」
「うん、会えたよ……テオ、あー……なんだかスッキリした顔してるねー」
察しのいい幼馴染にはすべてがお見通しだった。
「え! そ、そんな事してないよ!」
「『そんな事ないよ』でしょー? もー、隠せないんだからー」
「う。そっちこそ、どうだったのさ」
ノエルはシンイーとのキスを思い出した。
「ふふっ、秘密ー」
「教えてよ!」
「たくさん話しをして彼女の事を知ったよ」
「例えば?」
「家族の事とか。あ、調べようと思ってたんだ」
ノエルはスマホで『児童発達心理学 大学 教員』と、検索した。
国内の子供の心理学科のある大学の中から教員紹介文を探して読む。
(あった。たぶん、この人だ……リム・ヨンス、精神科医師。韓国における小児心理学の第一人者。オックスフォード大卒! すごっ! 中国人の夫人と1人娘……夫人は著名な彫刻家リム・ランリ……)
ノエルは『リム・ランリ』を検索する。
(うわ、綺麗な人……どこか浮世離れしているけれど……世界で活躍か、シンイーがファザコンなわけだ……)
続いて『テキスタイル』と検索する。
(ふーん……布の職人ねぇ。シンイーらしいな……浮世離れした芸術家と精神科医の子供……とても、一般家庭とは言い難いけどシンイーみたいな子にはピッタリなんだな。いや、その2人だから生まれたのか……)
「ノエル? 何を調べているの?」
「うん、ちょっとねー」
「教えてくれないの?」
「それよりも、テオー、宿舎でってトラブルは嫌がらなかったの? 皆んながいたのに」
「嫌がった……けど……」
「けど?」
「倦怠期は乗り切れたかと」
「えー? それ大丈夫なの?」
「なんで⁈」
「なんでって……ま、2人の問題に首は突っ込みませーん」
「問題なんか起きてないよー」
「ふーん。ま、いいけどー」
ノエルは首をすくめて目を
テオは、さっぱり分からないと、ノエルの隣で口を尖らす。
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