第51話 契約完了


「ノエルー!」


 テオが抱き付いた。


「大丈夫なの?」と、言いながらノエルによじ登る。


 ノエルは、自分をおぶらせようとするテオに慣れた様子で「お腹が空いたからー……お前を食べちゃうぞ!」と、テオをソファーに投げ飛ばし、覆いかぶさって、ガブガブ!と、食べるマネをする。


 子供のようなテオの笑い声が響く。


「僕もー!」


 ジョンが2人の上にダイブした。


「ジョン、重い〜!ブタ〜」

「豚って言うなー!」


 じゃれ合いが止まらない。




 キッチンでは、セスが味噌チゲを味見して「もう少し、辛味を足そう」と、鍋にトウバンジャンを入れようとする。


 トラブルが待ったをかけ、一人前、器に取り分けた。


「俺達は辛いの平気だぞ」


 トラブルは、自分の分と、ジェスチャーで言う。


「辛いの苦手? 意外だな」





「いただきまーす!」


 ジョンの元気な声で遅い昼食が始まる。


「トラブルの鶏料理じゃないじゃん」と、ノエルはヤンニョムチキンを箸でつまむ。


「マネージャーが鶏肉をぶつ切りにしちゃったから、変更です」と、テオは言い、そして「あと、なんだっけ? 何肉だっけ?」と、キッチンにいるトラブルに声をかけた。


 トラブルは手話で答えた。


 セスが「鶏のむね肉だと」と、伝える。


「そう!これは、むね肉なので脂が少なく揚げ物に適しています!」

「下手な食レポだな」


 テオはめげない。


「この巨大なキンパは、海苔を贅沢に3枚も使っております」


 セスがやり返す。


「この痩せているキンパは海苔1枚を3重に巻いております」


「セス、上手い! 1ポイント!」と、ノエルが手を挙げる。


 悔しがるテオ。


 賑やかにランチタイムが進む。


「ねぇ、トラブル。何やってんの?」


 テオはキッチンで1人、立ったまま食べているトラブルに声をかけた。


「もー、本当にお行儀が悪いですねー」と、テオはトラブルを引っ張って来る。


 テオは座らせようとするが、トラブルはテーブルの空いた皿を重ねてキッチンへ持って行き洗い出した。


「もおっ」


 憤慨ふんがいするテオにセスは「放っておけ」と、鼻で笑う。





 ノエルはトラブルを観察していたが、よく分からない。


(普通、気になる人を目で追ったりしない? テオに好意があるって本当? どっちかと言うと、セスと恋人同士のように見える時がある……こういうの見抜くの得意なんだけどなー)

 




 ゼノが疑問を口にした。


「トラブルは契約なんですか? あれ? 直接契約しているわけではないですよね? パク先生との契約の中にトラブルの仕事内容も含まれているのですか?」


 うなずくトラブル。


「契約はいつまでですか?」


 全員がトラブルに注目する。


 トラブルは洗い物の手を止めて手話をした。


「!」


 セスが音を立てて立ち上がった。


 その驚き方にテオは「トラブル何て言ったの? ねぇ、トラブルは何て言ったの⁈ 」と、不安を隠さない。


「今日までだと……」

「うそ、本当⁈ 」


 テオはトラブルを見るが、トラブルは返事をしなかった。


「テオ、トラブルと話をした方がいい。話をしなくちゃいけない」


 ノエルはテオとトラブルをつかみ、テオの部屋へ押し込んだ。

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