第263話 プランBを探せ


「バカとしか言いようがないだろ」


 セスは冷ややかな目をテオに向ける。


「ゼノは、お前を無理矢理スタジオに戻しても、集中出来ない事は目に見えているし、こいつの元に残しても、こいつの貧血が治るはずもないし……で、両方を助けるすべがないって言ったんだよ。 バカ」

「僕が、言う事を聞かないからだと……」

「お前が、言う事を聞かないなんて今に始まった事じゃないだろ。解決策は、テオが安心してこいつを預けられる場所……かつ、ケアしてもらえる人のいる……」


「そんな所、ある?」


 ノエルがテオにティッシュを渡しながら言う。


「んー……。あ、あった。あの医者の所は病院か?」

「うわー! セス、天才! トラブル、イム・ユンジュ先生の病院は入院が出来るの?」


 ノエルは、テオの肩をみながらトラブルに聞く。


 トラブルは、ゆっくりと腕を上げた。


「いいから。読むから言ってみろ」


 セスはトラブルの腕を下ろさせながら読唇術を使う。


「診療所。入院設備はない……そうか。パク先生の所は? お手伝いさんがいるだろ?」


「夜は不在……か……」


「あ? 寝てれば治るってのは、一晩とか明日1日ってレベルだろ? どうするか……」

「宿舎に連れて帰れば? それなら、テオも安心でしょ?」


 ノエルはテオの肩に肘を掛けたまま「ねー」と、テオに笑顔を向ける。


「しかし、夕飯はどうしましょうか。先生は、しっかり食べさせろと言ったのですよね。我々は外食予定でしたが……」

「冷蔵庫の中は空っぽだな。こいつが外食出来るとは思えないし、それに……」

「それに?」

「1人で歩けるか? 俺達が肩を貸していたら目立つぞ」

「そうですね……宿舎に入る時は、別々でないと」


 セスは腕を組む。


「仕方がない。俺達が終わるまで、お前はここで寝てろ。で、歩けるなら宿舎に連れて行く。メシは出前だな」

「歩けなければ?」

「……プランBだ」

「どんなプランですか?」

「その時、考える。いいなテオ」

「う、うん……」

「そうと決まれば、急いでスタジオに戻りましょう。テオ、顔を洗ってから来て下さいね」

「はい……」


 ゼノら3人は、テオを残し医務室をあとにした。


 テオはトラブルを抱き上げ、ソファーベッドに横たわらせる。


 トラブルはテオの首に回した腕を引き寄せ、キスをした。


ここで待っています。しっかり練習して来て下さい。


「うん、ごめん……僕、行くよ」


迎えに来て下さいね。


「勿論だよ! さびしくない?」


さびしいです。早く、ゼノのOKをもらって迎えに来て下さい。


「うん、遅れを取り戻してみせるよ。集中! 集中!」


 テオは顔をパンっと叩き、気合いを入れる。


 トラブルは笑顔でテオを見送った。






 静かになった医務室の天井を見上げ、トラブルは子供の頃を思い出していた。


(迎えに来て……か。いつからだろう、置いてけぼりにされても泣かなくなったのは……)


 トラブルは、目をつぶり睡魔に身を任せて落ちて行った。






「寝てるよー」


(ジョンの声だ……)


「寝ていますね」


(ゼノの……)


「顔色は良くなったんじゃん? 起こす?」


(ノエル……)


「起こしたら可哀想だよ」


(テオ……テオが来た。約束通りに……)


 トラブルは、目を開けた。


「トラブル、具合はどう? 迎えに来たよ」


(テオ……)


 トラブルは体を起こす。


 その背中をテオが支える。


眩暈めまいは多少はするな……)


 足を下ろして座る。すると、意識がすーっと、遠のく感じがした。


(ダメだ。気合いを入れなくては、テオが帰れなくなる)


 トラブルが意識を外に飛ばそうと努力をしていると、ゼノがトラブルの肩を押した。


「ダメですね。横になって下さい」


 テオがトラブルの足をソファーに乗せる。


「顔が、みるみる白くなったよ! こんなの初めて見た! マンガみたい!」

「こら、ジョン、そんな事言ってはいけませんよ。セス、宿舎に連れてはいけませんね。プランBが必要なようです」


 セスは顎に手をやる。


「またまた、もったいぶっちゃって。あるんでしょ? プランB。ずっと、考えてたじゃん」


 ノエルが肘で突く。


「ある事にはある。が、テオの許可がいる」

「どういう事? セス」

「……俺が、こいつを家に連れて行く」

「1人で⁈ ていうか、2人きり⁈」

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