第264話 プランB発動


「セスが1人で、トラブルを家に連れて帰るの? なんで⁈」


 テオは立ち上がり、眉をひそめてセスを見た。


「まあ、聞け。一度、全員で宿舎に帰る。で、ゼノの車で俺がこいつを迎えに戻る。こいつを家まで送り、メシを作って、俺は宿舎に帰る」

「なんで、セス1人なのさ、僕も一緒に……」

「テオ、人数が多ければ多いほど目立つよ。セスならトラブルに栄養のあるご飯を作ってあげられるし、一人前ならコンビニで買い物もまかなえる。ね? ここは、セスに任せようよ」


 ノエルはテオを説得する様に肩を叩きながら言うが、テオは不安を隠せないでいた。


「僕は、何も出来ないの?」


 また涙を浮かべるテオに、ゼノはため息をく。


「セス、ベストなプランですが、最良の解決策とは言えない様です…… 本当は、皆をしっかり休ませたいのですが、仕方がない…… 全員でトラブルの家に行くのは、どうですか?」

「やった! 勇者の家!」

「わー、始めて行くよー」


 ジョンとノエルは、手離しで喜ぶ。


「あ、僕が我慢すれば、皆んな休めるんだよね……」


 うつむく幼馴染の性格をノエルはよく分かっていた。


「テオ、我慢なんて出来ないじゃん。どうせ、心配で眠られなくなるでしょ? それに、セスの手料理が食べられるよー」

「いや、こいつの分だけパパッと作って帰って来ようと……」

「セスー、豚足が食べたい! あとねー……」

「自分の足でも食ってろ」

「ひどい!」

「セス、僕も手伝うからさ」

「左手だけで、何を手伝うって言うんだ? あー、こうなる予感がしたから言いたくなかったんだよ! 6人前作ったら、酒飲んで寝てー!」


 ゼノは、そうだと膝を叩く。


「では、泊まりますか。トラブル、テオ、いいですか?」


 ジョンは「テオ、お願〜い」と、テオの肩に甘えてみせる。


「僕の家じゃないし……トラブル、いい?」


 トラブルは、微笑んでうなずいた。


 ジョンはテオに抱きついて喜ぶ。


「やったー! お泊まりだ!」

「では、一度宿舎に帰って、各自、必要な物を持って行きますか」

「トラブルは後で迎えに来るの?」

「どうしましょうか」


 全員がセスを見る。


「一緒に出た方が早いな」

「分かった」


 テオはトラブルのリュックを背負い、トラブルを抱き起こそうとする。


「テオ、リュック持つよ。お姫様抱っこしなよ」


 ノエルはテオからリュックを奪う。


「うん、ありがとう」


 テオはトラブルを抱き上げた。


「階段の方が、近いですね。ジョン、手伝って下さい」


 ゼノがドアを押さえ、トラブルを抱いたテオを先に行かせる。


 ノエルとセスで医務室の戸締りをして、後を追った。






「テオ、助手席に」


 ゼノが移動車のドアを開けると、運転席で待っていたマネージャーは悲鳴をあげる。


「いったい、何事ですか⁈」

「トラブルの具合が悪いので、宿舎で私の車に乗り換えて、家に送ります」

「具合が悪いって、病院は?」

「医師の診察は受けています。皆んな、乗りましたね。さ、出して下さい」

感染うつる病気とかでは、ないですか?」

「大丈夫ですよ。車を出して下さい」

「しかし……」

「家に送り届けるだけです。早く」

「は、はぁ」


 マネージャーは、渋々、車を発進させた。


 時々、チラリとトラブルを見ながらも何も聞かない。


「トラブル、もう少し座席を寝かそうか。辛かったら、足を上げていいんだからね」


 後部座席からテオが声をかける。


 トラブルは、浅くうなずいた。


 宿舎の駐車場に入ると、ゼノは素早く降りて自分の車のドアを開けた。


 テオが助手席からトラブルを引き寄せるが、トラブルの体はぐったりと完全に力が抜けている。


「ゼノ!トラブルが!」

「また、意識を失っていますか。後部座席に横にしましょう」


 テオとゼノ、ジョンの3人がかりで、ゼノの車に乗せ換える。


「テオ、トラブルに付いてな。お泊まりセットは僕が作って持って来るよ」

「うん、ノエル、ありがとう」


「お泊まりセットって? あなた達、何をやろうとしているのですか⁈」


 マネージャーは声を荒げた。


 ゼノはテオを車に押入れ、ドアを閉める。


「部屋で話しますよ」


 そう低く答え、マネージャーと3人を引き連れてエレベーターで上がって行った。


 テオは、皆の背中を不安そうに見送る。


(僕が、もっと強ければ……皆んな、ごめん……でも、トラブルを誰かに任せるなんて出来ないよ。トラブルには僕しかいないのだから……)






 宿舎のリビングで、ゼノとマネージャーは対峙たいじしていた。


「私の判断に口を挟まないで下さい」

「ゼノ!」

「あなたの指示に従う必要はない」

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