第276話 アイスの記憶喪失


 ジョンは両手いっぱいに、コンビニの袋をぶら下げて立っていた。


「ジョン! どこに……コンビニに行っていたのですか?」

「うん! 皆んなの、朝ごはん買って来たよー!」

「1人で、大丈夫でしたか? 誰かに気付かれたり、追い掛けられたり……」

「ぜんぜん大丈夫だったー!」

「お金は?」

「ピッて!」

「ジョン、チャージしてたの?」


 スマホを振るジョンにノエルが意外だと言う。


「ああ、以前、何かあった時にと私が入れておいたのですよ」

「うん! ゼノ、ありがとう! 始めて使った!」

「で、何を買って来たんだ?」


 セスがジョンの袋を奪い見た。


「んーとねー、いっぱい!」

「ジョン、朝から元気だねー。そんなに楽しかったの?」

「うん! 1人でコンビ二行って、1人で買い物した!」

「それが、楽しかったって事か」

「うん! 始めて!ドキドキしたー!」

「うるせっ。さぁ、食おうぜ」


 5人は車座になって座り、ジョンの獲物を広げる。


「これが朝ごはん?」


 ノエルが笑う。


「コンビニって、何でもあるんだよー! 知ってた?」

「で、靴下とパンツを食えってか?」


 セスは、明らかに食べ物ではない獲物を放り投げる。


「欲しかったんだもん!」

「何これ、消臭剤に制汗剤は分かるけど、CD-ROMって何なの。え、今どきカセットテープなんか売ってるんだ!」

「このリップの色イイね。ジョン、僕にちょうだい」

「いいよー。あ、靴は売ってなかったよ」


「…… それ、人前で言わないで下さいね」


 ゼノは、恥ずかしいと、手で顔を隠した。


「ゼノ、だから言っただろ? 罰ゲームでも何でもいいから、1人で外出させろって」


 セスは、パンをかじりながらゼノに言う。


「はいー、気が付けば成人していましたね……反省しています」

「その、ラーメン僕の!お湯沸かしてー」


 ゼノは、ジョンの自立を今月の努力目標に設定した。


「……ジョン、自分で作ってみて下さい」

「ラーメンくらい、作れるもん!」

「では、私のもお願いします」

「僕のも」

「僕も」

「俺はいらん」

「まかせといて。トラブルは? 食べる?」

「あれ、トラブル、どこ?」


 テオはバスルームにトラブルを探しに行った。


「トラブル? 朝ごはんにラーメン食べる? ……どうしたの?」


 トラブルは洗面台に手を付き、難しい顔をしていた。


 テオを見て、さらに眉間にシワを寄せる。


テオ……。


「ん? 何?」


記憶がありません。


「ええ⁈ 記憶? 記憶がない⁈」


アイスの記憶が……途切れて……。


「アイス⁈ アイスの記憶って何の話⁈」


食べていて……眠くなって……シーツに落として……洗濯しなくてはと思って、で、ないの……。


「アイスが、なくなったの?」


いえ、記憶が……。


「トラブル、わけ分かんないよー。とりあえず、ラーメン食べる?」


はい、食べます…… いえ、食べていたんです。なのに…… あれ?テオ、聞いています?


 テオは、とっくにバスルームを出ていた。


「ジョンー、トラブルも食べるってさー」

「OK! 全部で6個ね」

「俺は、いらないぞ」

「うん、僕が2個」


 ジョンはお湯を沸かしながら、ラーメンの袋を開けて行く。


「テオ、トラブルどうかしたの?」

「うん、何か、記憶がないんだって」

「はあ⁈」

「よく、分かんないんだけど、アイスの記憶がないんだって」


 セスが「ブッ」と、パンを吹き出しそうになる。


 それをノエルが指差して笑った。


「セスが何か知っているみたいだよー」

「セス、何? 何なの?」

「いや……あー」

「教えてよ!」

「大した事じゃない、夜中に……」

「夜中に何⁈」

「テオ、落ち着けって。あいつが夜中にアイスを……グッ!」


 トラブルが真っ直ぐセスに走り寄り、首を締め上げた。


「トラブル!」


 テオは、トラブルの手をセスから離そうとするが、その手は緩まない。


 セスは顔を真っ赤にして、トラブルの手首を叩きギブアップの合図を送る。


「トラブル! セスが死んじゃうよー! 離して!」

「今、言おうとしていましたよ! 離して下さい!」


 テオとゼノが2人がかりでもトラブルを引き離す事が出来ない。


「手を離さないと言えないよー?」


 ノエルの言葉に、トラブルはハッとして手を離した。


 セスは、ヒューッと音を立てて息を吸う。


 トラブルは、まだ目を白黒させているセスに手話をした。


私のアイス、どこ行った?


「そこかよっ!バカ女!」


 セスが声を絞り出すと、トラブルはこぶしを高く振り上げた。


「顔はやめてあげて!」


 セスが、殴るのをめろよと、突っ込む前に、テオが叫ぶ。


 しかし、トラブルの拳は降りて来なかった。みるみる間に顔色が悪くなり、前に倒れかかる。


(またか!)


 セスは、すんでの所でトラブルを抱き止めた。


「おい!ったく。テオ、この狂犬を運べ」


 セスはトラブルをテオに渡す。


 テオは「もー、大人しくしてなきゃダメだよー」と、言いながら、トラブルをベッドに寝かせた。


 ノエルは腹を抱えて笑っている。


 ゼノは、首をさするセスに「セスが、勿体もったいぶっているからですよ」と、たしなめる。


「セス、狂犬が2頭になる前に早く言った方が身のためだよ」


 ノエルがテオを指差す。


「だから。あいつが夜中に冷蔵庫を探り出して、アイスを持って立ち上がったら、また、ふらついてベッドに倒れ込んだんだよ。で、様子を見に行ったら半目でアイスを食べていたんだっ。で、落としそうになっていたからシンクに投げ込んだんだ!」


 セスは一息で話切り、再びヒューッと音を立てて息を吸った。


「あ、これ? アイスの棒、ここに捨ててあるよー」


 ラーメンを作るジョンが、シンクから棒を拾ってテオに見せた。


「ああー…… だってトラブル。記憶喪失でなくて良かったね」


 テオはトラブルの頭をポンポンと叩く。







【あとがき】

 ヌンはお酒が弱いので記憶を失いまくりです。

 このアイスの記憶喪失は実話ですw

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る