第277話 カップ麺は茹でて食べるべし


「ねぇ、セス。ジョンが面白い事してるかも」


 ノエルが、キッチンのジョンを指差す。


「あ?」


 振り向いたセスは、鍋にラーメンを入れるジョンを見て、慌てて止めに入った。


「バカっ、何してんだよ!」

「へ? 美味しくな〜れ〜って」

「全部、入れたのか⁈」

「うん、時短じたんです」

「はぁー」


 セスは空いた口が塞がらない。


 ノエルは床に転がって、笑いが止まらないでいた。


「セス、何が問題なのですか?」


 ゼノが鍋をのぞく。


 セスは、ゼノに聞かせる為にジョンに質問をした。


「ジョン、麺が3、麺が3。で? 鍋に入っている数は?」

「6でーす!」


 ジョンは元気に答える。


「え? 6? 3ではなく? あっ、カップ麺も鍋に入れたのですか!」

「だから、時短だって言ったじゃーん。そろそろ、いい感じ? では、スープ投入!」

「待て! 味が違う……のが、混ざったな。キムチ味が3袋と塩と醤油と……トマト⁈ 」

「ジョン! なんて事を!」


 ゼノの叫とは裏腹に、ノエルはゲラゲラと笑いながら涙を流す。


「朝ごはんが、闇鍋やみなべになっちゃったよー!」


 ジョンは口を尖らせた。


「大丈夫だよー。たぶん……ねえ、味見してみて」

「自分でやれ。どうだ?」

「うがー! しょっぱい!」

「だろうな。廃棄はいきだな」


 もったいないと肩を落とすセスとゼノにテオが声をかけた。


「ねぇねぇ、トラブルが味見させてだってさ」


 トラブルの隣でセス達のやり取りを聞いていたテオは、小皿にスープを入れてトラブルの元に運んだ。


 ベッドに肘をついて横になっていたトラブルは、体を起こしてスープを口に含む。


 舌に転がしてしばらく考えた後、セスに向かい手話をした。


「ああ? あー……やってみるか」


 セスは鍋に水を足し、溶き卵3個を回し入れる。昨夜の残りの長ネギと豚バラ肉を投入し、味見をした。


「んー、まだ、塩辛いな……」


 トラブルが指をパチンと鳴らした。


「ん? ハチミツ? あるのか? どこだって?」


 トラブルは寝転がったまま、腕を上げて手話をする。


「おい、何言ってんだか分かんねー。起き上がれよ」

「戸棚の上だってさ」


 トラブルの隣でベッドに座るテオが、セスに伝えた。


「上? ああ、あった。お前、その角度でよく読めたな」

「うん、まあね」


 テオはトラブルの耳に口を寄せて「いろんな角度で試したもんねー」と、笑う。


「お、スープは良くなったぞ。問題は麺だな」

「カップ麺って鍋で茹でたら、どうなるんだろうね」


 ノエルがゼノと並んで、興味津々と鍋をのぞき込む。


「のびてしまうのでは?」

「じゃあ、美味しい麺だけ選んで食べないとね」


「ねぇ、トラブル。麺は、どうにかならないの?」


 テオは聞くが、トラブルはニヤリと笑うだけで、答えない。


「まあ、食べてみましょうか」


 ゼノに言われ、セスが器に取り分けて行く。


「見た目だけなら、立派な料理だよね」

「僕が先! いただきまーす!」


 ジョンは、ズズッと麺をすすり、驚いた。


「ラーメンだ!」

「ジョン、何言ってんの? ラーメンを作ったんでしょー?」


 ノエルが、呆れて笑う。


「違う違う!すんごく美味しいラーメン!」

「本当に?」


 ノエルも左手でフォークを持ち、麺をすする。一口食べて、驚いた顔のまま、もう一口食べる。


「ノエル、美味しいのですか?」


 ゼノが心配そうに聞く。


 ノエルは、うんうんと、うなずき、手で『食べて』と、ジェスチャーで言った。


 ゼノとテオも騙されたと思って麺をすすってみた。


「これは! ジョンの言った通りですよ! 麺が本格的です!」

「うん、すごく美味しい! 驚きだよ!」


 セスは堪らずノエルから器を奪い、味見をした。


美味うまっ。何だ、この麺」

「トラブルは、知っていたの? 美味しくなるって」


 トラブルは、はいと、答えた。


以前、箱買いしたカップ麺が不味まずくて、美味しく食べる方法を探した時に発見しました。


「すげーな。袋麺が混ざっても関係ないのな」


 セスに褒められたと、トラブルはピースをして見せた。


「いや、お前を褒めてない。女がカップ麺を箱買いするな」


 トラブルはケッと、ピースを下げる。


「僕のお陰でしょー!」


 代わりにジョンが両手でピースをした。


「うん、ジョンのお陰様だよー」

「テオ、テオ語になってるよ」


 ノエルの言葉に、皆で笑い合う。


「さぁ、ご馳走様でした。帰り支度を始めて下さいよ。テオ、トラブルの血圧を測ってあげて下さい」

「うん。トラブル、先に測るよ」


 トラブルは食事を中断して腕をテオに差し出す。


 血圧計は100台を示した。


「おお、いい感じですね。今日の食料はどうしますか? 今なら、コンビニに行ってあげられますよ」


 トラブルは少し考えて、チョコレートケーキと、手話をした。


「チョコレートケーキ⁈ それだけじゃ、ダメだよー。うん、それも買って来てあげるから、他には?」

「おい」


 セスが声をかける。


「明日から日本だろ。 冷蔵庫を空にしてやるから、今日のデザートだけにしておけ」


 セスは、そう言って冷蔵庫の食材を取り出し料理を始めた。


「僕も行く!」

「いいよ。ケーキ屋さんは少し歩くよ」


 ゼノの心配顔をよそに、ジョンとテオは意気揚々と、家を出て行った。


 セスは、チャーハンを作った。


 残りのご飯を1膳づつラップで包み、冷凍庫にしまう。


「あとは……」


 鍋と食器を洗い、シンクの生ゴミをまとめる。ゼノはマットを畳み、掃除を始めた。


 ノエルは、ベッドのトラブルを見下ろし「お嫁さんにするなら、ゼノとセスのどちらが良いかなぁ」と、笑う。


 トラブルは、両方と、口パクで言った。


「両方? 第1夫人と第2夫人的な? あはっ! そうだねー!……セスがねそうだけど」


 ノエルは笑いながらベッドに腰を掛け、トラブルを見る。そして、おそらくテオが1番気になっている、しかし、怖くて聞けない事を口にした。


「ねぇ、そんな体の調子で本当に日本に行けるの?」

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