第275話 ジョンの失踪


 トラブルはベッドに倒れ込む。


 横になると眩暈めまいは、すぐに消えた。


(危なかった…… このまま少し体を起こして…… よし、アイスを食べよう)


 半分、食べ終えた所で睡魔が襲って来た。


(あ、眠れそう。でも、アイスが……歯磨きが……)


 トラブルは睡魔と戦いながら、手からアイスの棒を落とすまいと必死に耐える。しかし、睡魔の方が何倍も強かった。


(もう食べられない……シーツ……明日、洗濯しよー……)


 半分残ったアイスがトラブルの手から倒れる瞬間、なぜかアイスはキッチンのシンクに飛び、上から水を掛けられた。


「バカが」


 水を止め、手を拭きながらセスはつぶやく。


 冷蔵庫をあさる音で目を覚ましたセスは、一部始終を見ていた。


 セスはトラブルの毛布をかけ直す。そして、じっと、寝顔を見下ろした。


 アイスの付いた唇に手を伸ばすが思い直す。


(こんな夜中に、1人で立ち歩くからだ。朝まで大人しくしていろよ……)


 セスは、自分の寝床ねどこに戻った。






 翌朝、快適に目覚めたジョンは、隣に寝ているトラブルに驚いた。


 リビングを見ると、ゼノら4人はまだぐっすりと眠っている。


(あー、ここで寝ちゃったんだー。お腹空いた……ゼノ……寝てるし……)


 ジョンは顔を洗いにバスルームに行く。


 鏡を見て、さらに驚いた。


(うわっ、髪の毛が無重力!)


 水で頭をバシャバシャと濡らし、なで付ける。


 歯を磨くと、お腹がグーっと鳴った。


(ごはん…… そうだ! いい事、思い付いた!)


 バスルームを出たジョンは、物音を立てない様に手早く着替えを済ませ、スマホを握りしめて1階に降りた。


 床がきしまない様に祈りながら、玄関に向かう。


 玄関横に置かれたマスクをして、帽子をかぶる。


 そして、青いドアの鍵を回した。


 カチンッ


 思わぬ大きな音に、ジョンはドアに向かい「しーっ」と、しながら、そっとドアを開けて外に出る。


 早朝の空は澄み渡り、雲一つない快晴だった。


 少し湿気を含んだ新鮮な空気を、ジョンは胸いっぱいに吸い込む。


「うーん、気持ちいい! よし、いざ出陣!」


 ジョンは腕を振って砂利道を登り、幹線道路に向かい歩き出した。






 一方、2階で眠るゼノは玄関の鍵の開く音で目が覚めた。


 しばらく、ぼおーっと天井を眺めた後、体を起こす。隣でセスが、その向こう側でノエルとテオが抱き合って寝ていた。


 視線を上げ、ベッドを見る。


 トラブルの足が見える。


 ゼノは、ポリポリと背中をきながら立ち上がり、トイレに行きがてら、ベッドを見る。


 なぜか口の周りに、べったりと茶色いモノを付けて眠るトラブルの顔をいぶがしげに見ながら、ジョンの姿を探す。


「ジョン? トイレですか?」


 ゼノはバスルームのドアをノックするが、返事はない。


 中を確認して見るが、やはり、ジョンはいなかった。


「ジョン?」


 ゼノは皆を起こさない様に、小声で呼びながら、クローゼットや階段下を見る。


(ジョンの靴がない……)


 ゼノは嫌な予感を振り払い、1階に降りて階段下のトイレをのぞく。


(いませんね…… あ、帽子がない。まさか、1人で走りに行った⁈)


 ゼノは外に出て、ジョンの名前を呼ぶ。


 川原に行き、ジョンの姿を探すが、やはり見つける事は出来なかった。


「これは、まずいですよー……」


 ゼノは家に走り戻り、2階で眠るトラブルを揺すり起こした。


「トラブル! 起きて下さい。ジョンがいません。前に2人で走りに行った時のルートを教えて下さい!」

(第2章第231話参照)


 ゼノの大きな声で、セス達が目を覚ました。


「どうした、ゼノ」

「ジョンが、いません。1人で出て行った様です」

「本当?トイレとかじゃなくて?」

「靴も帽子もありません。トラブル、起きて下さい! どこを走りに行ったのか、教えて下さい!」


 トラブルは、寝ぼけながら起き上がった。


「口! 何それ⁈ 昨日はそんなの付いていなかったよ⁈」


 テオに言われ、トラブルは自分の口元を手でぬぐった。


(あれ……? チョコレート? そうだ、チョコアイス……)


 トラブルは自分の周りを見回し、何かを探す素振りを見せる。


「どうしたの? トラブル?」


いえ、アイスが……。


「アイス? 何の事?」


 テオはトラブルの顔をのぞき込み、首をかしげる。


「そんな事より、以前、2人はどこを走ったのですか? 探しに行かないと!」


 血相を変えるゼノに、後ろから声がかかった。


「何? どこか行くの?」


 全員が振り向く。

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