第403話 ニアミス
翌朝、テオが目覚めるとトラブルの姿はなかった。
ベッドに体を起こしてボーッと夢から覚めないでいると、バスルームからタオルを体に巻いたトラブルが現れた。
おはようございます。
「おはよ。……シャワー浴びたの?」
はい。
「僕も浴びたい」
どうぞ。
「連れて行って。引っ張って」
トラブルはいつもの笑顔でテオの手を引き、バスルームに連れて行く。
テオは鏡の前で、トラブルを背後から抱きしめた。
「見て。僕達ってお似合いだよね?」
双子の様に瓜二つだった2人は、鏡の中のお互いの変化を見る。出会った頃よりテオの背はぐんと伸び、肩幅が広くなっていた。
(私は相変わらず貧相だな……)
トラブルは自分の顔から目を
テオは恋人から立ち上る湯気とシャンプーの香りを胸いっぱいに吸い込んだ。
「トラブル、痩せた? 昨日の夜は何を食べたの?」
テオの質問にトラブルは正直に答えた。
何も食べていません。
「え! どうして⁈」
食欲がありませんでした。
(テオから連絡が来ると思っていたから……)
「もしかして、僕とご飯するつもりだった?」
いいえ。疲れていたので……。
(昨夜の様に困らせては、いけない)
「トラブル。僕、それを信じちゃうよ。いいの?」
はい。
「……分かった。じゃあ、朝ご飯をたくさん食べようね」
テオはトラブルの肩にチュッとキスをして、パジャマを脱ぎ始める。
トラブルは鏡越しにたくましくなった体を
「あの、見られてると恥ずかしいんですけど。それとも、一緒に浴びる?」
トラブルは、笑いながら手と首を振ってバスルームを出ようとする。
(良かった……いつものトラブルだ……)
テオはトラブルの手首を
「一緒に浴びようよ。昨日はフラれちゃったし」
トラブルが答えを考えていると、2人のお腹がグーっと鳴った。
「あはっ! 腹ごしらえが先だね。先にルームサービスを、あ、イン・ルーム・ダイニングって言うんだっけ? 頼んでおこう」
テオは上半身裸のまま部屋に戻り、メニューを見る。トラブルはハンバーガーの文字を指差した。
「朝からガッツリだねー。僕はアメリカンブレックファーストにしようかなぁ……あれ? ない」
トラブルは笑いながら手話をした。
ここはアメリカなので、朝食はすべてアメリカンブレックファーストですよ。
「あ! そうか! じゃ、電話するね」
テオは内線電話で注文を済まし、トラブルに向き合う。
「あのさ、昨日、セスの部屋で寝ちゃったの覚えてる? セスが部屋の前で寝ていたって教えてくれたんだ。覚えてる?」
テオはトラブルの腰に手を回しながら、恐る恐る聞く。
トラブルはセスの胸で泣いた事を思い出した。
(そうか、あの後、そのまま寝てしまったんだ。泣いた事はー……テオには言わないでくれたんだな……)
トラブルは
「そっか。あのね、僕、
テオ、気にしないで下さい。私の居場所は生まれた時から、どこにもありません。私がいたい場所が居場所です。
「いたい場所が居場所っていうのは理解できるよ。でも、生まれた場所が居場所じゃなくても、きっと、どこかにトラブルの居場所はある。今は僕の前。あ、隣? んー、上じゃないし下は変だしー……前。いや、やっぱり、隣。うん、隣がしっくり来る」
トラブルはテオの笑顔を
はい、私の居場所はテオの隣です。今は。
「『今は』を強調しないでよ。ずっとだよ。僕はずっとトラブルの隣にいたいよ」
ありがとう。私もそうだったら良いと思っています。朝食が来る前にシャワーを済ませて下さい。
「うん、トラブルも服を着てね。イイ眺めだけど……」
チラリと見える浅い胸の谷間から目を
部屋のドアがノックされ、朝食が運び込まれた。ホテルのルームスタッフは、女性が部屋にいる事に眉をひそめるが、そこは外国のアイドルスターの部屋だからと笑顔を取り
トラブルは料理のクロッシュ(ドームカバー)を開け、ナイフとフォークをセッティングする。
昨夜から何も入っていない胃は、早く何かを入れてくれと
(
速攻で食べ終わり、ポテトをかじっているとドアがノックされた。
指を舐めながら、ドアを開ける。
そこには、見知らぬアジア人の女性が立っていた。女性はトラブルに驚きながら、韓国語で独り言を言い始める。
「あら⁈ あの……お部屋を間違えたかしら……確か、ここだと……ごめんなさい。お邪魔致しました……」
トラブルは、笑顔を返しドアを閉める。
(上品な人だな。
テオがシャワーから出て来た。スウェットに着替えている。
「誰か来たの? あ、もう食べちゃったの⁈ 待っててくれてもイイじゃーん!」
テオはワゴン前に座り、食べ始める。
「トラブルも食べて。こんなに量が多いとは思わなかったよ。ところで、さっき誰が来てたの?」
部屋を間違えてノックをした様です。
「ふーん、そう」
韓国語を話していました。
「……どんな人?」
40代後半くらいの上品な方でした。
「それって……女の人?」
はい。綺麗な……そういえばテオに似ていました。
「そ、そ、それ、母さんじゃん!」
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