第322話 トイレで隠れて
「何事ですか⁈ あ! ノエル!」
セスの声を聞きつけたマネージャーがトラブルよりも先に飛んで来た。
「マネージャー、トラブルがどこにいるか知っていますか?」
ゼノは、痛みを
「クソ女ー! ノエルの緊急事態だぞー!」
セスは再びマイクに向かって叫ぶ。
日本人スタッフはマイクテストではない、その声に手を止め、韓国人スタッフはその内容に耳を疑った。
「セス! やめて下さい!」
ゼノはセスを止めるが、セスは「効率がいいだろ」と、肩をすくめる。
「もう、大丈夫。痛みは引いて来たよ。一瞬、体重が掛かっちゃっただけだから。大丈夫」
「お前の大丈夫は、信用出来ない」
「セスの言う通りですよ。診察して
「俺が⁈ 無理だろ」
マイクが声を拾う。
「頼みましたよ。そのマイク、切って下さい」
ゼノはノエルを立たせ、控え室に押して行く。
「あー! 何でこんな所で寝ているんですか! 風邪を引きますよ!」
マネージャーは、幸せそうに眠るテオとジョンを見て叫ぶ。
「じゃ、起こしておいてくれ」
セスはここぞと寝ている2人をマネージャーに任せ、ゼノの後を追った。
控え室周辺では、ゼノの指示で韓国人スタッフが総出でトラブルを探した。
ア・ユミとダテ・ジンも加わり、ドアというドアを開けて行くが、トラブルは見つからない。
「ゼノさん。トイレにもいらっしゃいません。また買い物にでも出たのでしょうか? 連絡も取れませんか?」
「ア・ユミさん、ありがとうございます……セス、トラブルはどこにいますか?」
「分からない。お手上げだ」
「ゼノ、セス。僕は大丈夫だから」
「いや、今はお前が問題なんじゃない」
「え、どういう意味?」
「テオが起きる前に、あいつを見つけておかないと」
「そうですよね。トラブルが消えたなんてテオが知ったら……」
「マズいじゃん!」
「マズいですねー……」
その頃、自分が大捜索の対象になっているとは
(昨日、打ち忘れるなんて。しかも、テオのキスで
自分の腕から針を抜き、止血する。
(絆創膏を貼ったら気付かれちゃうか。あー、でも血が止まらない。どんだけ薄いんだ私の血は……)
トラブルは腕の針穴を押さえたまま、目を
(
注射器類を手早くリュックにしまい、控え室に向かう。
控え室に、マネージャーに叩き起こされたテオとジョンが寝ぼけ
「テ、テオ! おはようございます」
「ゼノ、何? どうしたの?」
「いえ、あの、ノエルの手が痛くなってー……」
トラブルから意識を離そうとするが、裏目に出た。
「え! ノエル、大丈夫⁈ トラブルに
セスはゼノに向かい「バカ」と、声に出して言う。
ゼノは顔を覆い、小さく「スミマセン……」と、
「トラブル、いないの⁈ ラインしてみるね」
テオがスマホを取り出す。
ア・ユミはテオの行動を見て、ある事に気が付いた。
(そうよ。普通、先に電話して探すわよね……テオさん以外はトラブルさんの連絡先を知らない? そんな事ってあるかしら……? このグループ、何かおかしいわ……)
テオがラインを送信すると、控え室のすぐ外で着信音が聞こえた。
ドアが開き、トラブルが顔を出す。
「トラブル! 探していたのですよ」
ゼノがホッとした声を出す。
トラブルは笑顔で手話をした。
トイレに行っていました。
「トイレに行ってたんだって」
テオが通訳をして伝える。
(嘘。私がトイレを探した時はいなかったわ)
ア・ユミは言葉には出さないが、その表情でセスに気持ちを
「おい。ア・ユミがトイレを探した時、いなかったぞ。本当はどこに行っていた?」
「え? そんなに探していたの?」
大捜索を知らないテオはア・ユミの顔を見る。
トラブルは肩をすくめながら、来場者のトイレに行っていましたと、手話で言った。
テオは通訳をしながら「なんで、お客さんのトイレに行っていたの?」と、皆を代表して聞く。
トイレ掃除をしていました。
「トイレ掃除⁈ そんな事しなくてもいいのに!」
驚くテオにトラブルは笑ってみせた。
「おい、ア・ユミ。皆にトラブルは見つかったと伝えてくれ」
セスはア・ユミにそう言い、ダテ・ジンと共に控え室から追い出す。
「トラブル、ノエルが痛み出したんだって」
テオはノエルを
その顔から笑みが消える。
セスが怖い顔をしてトラブルを
トラブルが動くより早く、セスはトラブルの腕を
「右じゃない! 左を見せろ!」
「セス! 何するんだよ!」
テオが止めるのも構わず、セスはトラブルを離さない。
「暴れんなっ!」
セスは逃げようとするトラブルの左腕を壁に押し付け、シャツの袖をまくり上げた。
「思った通りだ……」
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