第419話 いやらしい事
ノエルがLiveカメラのスイッチを点けた。
しばらく画面に向き合った後、低い声で話し始める。まずは、今の自分達の状況をファンに説明して、誤解を招く様な事をしたと謝罪した。
そこにゼノからラインが届く。
(という演技をする)
ノエルは、ゼノが一緒に話をしに来てくれると連絡をくれたが、これは自分が向き合わないといけない問題だからとファンに向けて言い、ゼノからの申し出を断る演技をした。
しばらく、ファンからの質問に答えていると、絶妙なタイミングでドアがノックされる。
ノエルは「もー、ゼノってばー……」と、ドアを開けると、そこにはセスが立っていた。
「セス!」
ノエルの演技に気付くはずのないファン達は、普段、塩対応のセスが現れた事に、ハートの数を跳ね上げ、そして《セスが来た!》と、自身のSNSで拡散させた。
セスはいつもの無表情で、ノエルの肩をポンと叩いただけで、Liveカメラの前に座る。
ノエルは戸惑いながらセスの隣に座り、画面を見るセスの横顔を見つめた。
沈黙の後、セスが「フッ」と鼻で笑い、ノエルに「お前、本当は誘ったんだろ」「バニーガールの
ノエルは、腰を曲げて笑いながら「何でそんな事言うんだよー」「分かんないよー」と、困った顔を見せる。
セスの、冗談なのか本気なのか分からない、絶妙なトーンで
セスが、少しづつ質問をずらし始める。
まずは、ノエル達が聞いたバニーガールの条件や仕事の内容。次に彼女から聞いたコンサートの感想からラスベガスのファンの印象に移し、そして、ラスベガスの歴史についてウンチクを披露する。
ノエルは「そんな話し、皆んな、眠たくなっちゃうよねー」と、いつもの様に優しく、ゆっくりとした口調で髪をかき上げた。
ゼノの部屋では、ジョンが「ゼノ!ノエルが髪をかき上げたよ!」と、スマホの画面を指差しながら、横にいるゼノに叫ぶ。
「そんなに大きな声を出さなくても、見ていましたよ。合図ですね。行って来ます」
部屋を出るゼノを見送り、ジョンとテオはスマホに目を戻す。
「ねぇ、テオ。僕達の合図は何だっけ?」
「呼ばれたらだよ」
「誰に?」
「え。知らない……」
「誰に呼ばれたら行くの?」
「えっとー。とにかく、呼ばれたら行けばいいんだよ」
「そっか。分かった」
「……分かりやすく呼んで欲しいね」
「うん。いっそ迎えに来て欲しい」
2人は緊張した
ノエルの部屋では、セスのラスベガスウンチクから、ゴールドラッシュつながりで、台湾で19世紀に実際にあったゴールドラッシュについて話が飛躍していた。
ノエルは、呆れた顔でセスを見ていたが、心の中では(ゼノ、早く来て〜)と、祈っていた。
セスの話が、台湾のゴールドラッシュから日本の統治時代へ移ろうとした時、ドアがノックされた。
ノエルは「テオかなぁ?」と、ドアを開ける。
「ゼノ!」
ノエルは大袈裟に驚いて見せる。ゼノは打ち合わせ通り「何の話をしているのですか? 大事な事は伝えたのですか?」と、怒ったフリをする。
セスはカメラに背を向けて、ゼノに(
ゼノは、椅子をカメラの前に移動させ座り、ファンに挨拶をした。
珍しいスリーショットに、ファンのコメントから文章が消え、ハートのスタンプだらけになる。
ゼノは自室でLiveを見ていたが、話が脱線して来たので修正する為に来たと説明した。
「あー、そうだよね。皆んな、ごめんね」
ノエルが
ノエルは、始めてのカジノで、はしゃぎ過ぎたと反省し、バニーガールがコンサートを見たと、話し掛けて来てくれて嬉しかったと本音で話した。
セスは、いつもの様に鼻で笑いながら「可愛い子だったんだろ」と、皮肉めいて言う。
「可愛い子だったよー……ほら、この子」
ノエルはロゼが投稿したツイッターをセスに見せる。
セスは「ふ〜ん……お前の高校の時の彼女に似てないか?」と、打ち合わせにはない、そして、見た事もないノエルの元カノに言及した。
これを聞いたファン達は、ひと目、顔を見ようと躍起になってロゼのツイートを探す。そして、ロゼのコメントをバニーガール姿の写真と共に、ノエル達の潔白の証明だと拡散させた。
ノエルは「似てないよー」と、笑い「でも、スタッフ以外の女性と話したのは、久しぶりで楽しかったよ」と、嬉しそうに言う。そして、(しまった!)と、ゼノを見た。
ゼノは、ため息を
「青春してないって、何だよ」
セスが、鼻で笑う。
「セスも高校以来、彼女がいないんじゃありませんか?」
「バカかっ。大学時代にもいたさ」
「え! 本当ですか⁈ セスと付き合えるなんて、どんな方ですか?」
「どういう意味だっ。どんななんて、言えるかっ」
「じゃあさ、セスの好みの女の子はどんな子?」
「あー。身長160㎝、体重50㎏」
「具体的! ……こんな話、していいのかなぁ」
「良い機会ですよ。ノエルの好きなタイプは?」
「えー、言っていいの? んー、女の子らしい人かなぁ。窓辺に花を飾る様な」
「素敵ですね」
「本当に、こんな話、してていいの⁈」
「まあ、普段は会社から止められていますが、我々も人間ですからね。恋をする事もありますよ」
「うわ、ゼノ。ロマンチックだね」
「実際、作詞をしていて恋する気持ちを想像で書くのは限界がありますよ。セスもですよね?」
「ああ、素材が無いのに有るフリをしても、嘘とバレるからな」
「そうですよね……恋してないですねー」
「嫌だなぁ。ファンの前で、しみじみと言わないでよ」
ゼノの部屋のジョンとテオは、同じ様に眉間にシワを寄せて、スマホを
「テオー。これって演技なんだよね?」
「そうだ……と思う……たぶん」
「打ち合わせしてたもんねー?」
「うん。恋愛の話に持って行くって言ってたから、計画の内だと思うよ」
「ここに僕達は、どうやって入って行けばイイの?」
「え、えーと、呼ばれてから……」
「呼ばれてから、どうすればイイの?」
「えー……ノエルに身を任せて……」
「ええ⁈ いやらしい事されるの⁈」
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