第309話 永遠と一生とずっと


 セスは寝返りを打つ。


(なぜ俺に話した…… いや、俺が知りたがったからだ。あいつは自分が証人だとは気付いていなかった。そして、その話を聞いた俺もそうなるとは思ってもいなかった。あいつ、話してはいけない秘密を俺に話したのでは……俺は知りたがっては、いけなかった?)


 セスの背中に鳥肌が立つ。


(もし、あいつが俺に話したと代表が知ったらどうなる? これ以上、拡散しない為に俺を監視下に置くか。俺には、あいつより手離したくないモノが多い……今の地位、メンバー達。それらを人質に俺をコントロールしようとするか? それとも、黙らせる為にアメを与えるか……)


 天井を眺めながら、考える。


(いや、待てよ。あいつが代表に連絡する時間は充分にあった。この引っかかっている感じは……代表と話した後に感じるモノと似ている。代表は真実しか語らないのに、いつも何かおかしいと感じる。語っていない真実を、語った真実で隠している様な……そうだ、あいつは代表の指示で俺に話したんだ。俺にはあいつの嘘は通じない。だから、俺に知られてはいけない真実を隠す為に、真実で隠す方法を代表から教わったんだ。俺を、国家を揺さぶる生き証人にしてまで、隠したい事は何だ⁈ )


 セスは目をつぶった。


(まだ、終わっていない……終わってないぞ、ミン・ジウ……)






 テオとトラブルはベッドの中にいた。


 2人は見つめ合いながら、お互いの頬を撫でる。


「夢みたいだよ。日本のホテルで、こうやって一緒にいられるなんて……本当、夢みたいだ。トラブル、消えないでね?」


 トラブルは微笑みながら、小さく手話をして見せた。


消えませんよ。私の方が夢を見ている様です。


「なんで?」


あなたは優しくて、純粋で……キラキラして綺麗です。


「キレイ?」


はい。あなたといると私も優しくて純粋になれます。


(そんな気に、なるだけ……)


「僕もだよ、トラブルといると僕は強くなれる。上手くいかないと、すぐにあきらめるタチだったけど、トラブルを想うと力がいて来るんだ。不思議だね。人を想うと、こんなにも勇気が出せる」


はい。あなたは強くてカッコイイ。


(守ってみせる……)


「僕はトラブルといると、強くてカッコ良くなれて、トラブルは僕といると、優しくなれるの? なんか、反対じゃない?」


そうですか?


「ま、いっか。今夜が永遠に続けばいいのに。ずっと抱き合っていたい。朝も朝ごはんも来なければいいのに」


朝ごはん?


(永遠になんか存在しない。でも、あなたには、あるのかも)


「朝ごはんの時間の事です」


朝ごはんは食べたいですね。朝食を抜いて昼ごはんにする?

 

「朝が来なければいいのにって事を、分かりやすく例えたんですー。朝ごはんの時間が来ないって事はー……」


分かっていますよ。からかっただけです。


「もー、意地悪だなぁ」


ごめんなさい。


「……意地悪な僕のお姫様からは、これから、どんな秘密が出て来るんだろう……」


(え!)


 トラブルは目を見開いた。


「いいんだよ。驚いて動揺するけど絶対に嫌いにならないからね。喧嘩するかもだけど絶対に一生大好きだからね」


……あなたが言うと『絶対』も『一生』もある気がして来るのは、なぜでしょう?


(キラキラして、まぶしすぎる)


「あるからだよ!『絶対』も『一生』も、ある!」


そうですね。テオを信じます。


(太陽の子は時に残酷だな……)

(第1章第60話参照)


「うん。僕達2人でいれば怖いモノなんかない。悪い夢は、お互いに起こせば消えるんだ。優しくて強いなんて最強だよ」


そうですね。


(悪い夢は起きれば消える……か。テオ、消えない悪夢もあるんだよ……)


「トラブル? 何を考えているの?」


あなたを、どうやって寝かせようかと考えています。


「うん、安心して。大人しく寝るから」


いい子です。


「また、子供扱いするー。こっちに来て」


 テオは腕枕をして、トラブルを抱きしめる。


 トラブルはテオの背中に手を回し、首筋からマッサージを始めた。


「ん、痛い……」


 テオの首のりは、以前よりもひどくなっていた。


 トラブルは身を起こし、テオをうつ伏せにさせる。背中をまたいで体重を掛け、本格的なマッサージに切り替えた。


「ああー、痛、気持ちいいー……」


 肩から肩甲骨、背中から腰を丁寧に指圧して行く。


(腰の張りがひどいな。あの、背筋ダンスのせいだ……)


 テオの体から力が抜けて行った。すーっと、寝息が聞こえ始める。


 トラブルは、そっと手を離しベッドを降りた。


 テオの様子をうかがいながら、スマホに《無事任務完了》と、入力して送信する。


 しばらく東京の夜景を眺めた後、壁のドアから自室に戻り、ベッドに入った。


 ピンと張られた、しかし、なめらかなシーツに心地よい眠りに誘われる。


 そのまま、逆らう事なく落ちて行った。

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