第652話 活用方法
「セスが買ってくれたんです。あと、ゼノも。2人で両隣りを」
「両隣り⁈ 土地を買ったのかね⁈ 」
「はい。隣に何か建ったら隠れ家にならないし……ノエルは道路から入る道を、ジョンは
「なんと……5人で周囲を固めたのか」
ノエルが髪をかき上げた。
「トラブル、知ってた? あの砂利道、無断通行だったんだよー。勝手に道を作っちゃってたんだってさー」
「なんで、
「ジョン、それは説明したでしょ」
「分かんないんだもん!」
「バーカ」
「うが。反論出来ない」
5人はいつもの様に笑い合った。
「僕はシンイーとデートに使わせて
「僕はランニングして行って、大きいテレビでゲームするの! 時々、寝ちゃうけど」
「私は1人になりたい時にお邪魔しています」
「1階は俺の機材とパソコン部屋になってる。テオ、片付けない服は捨てるからな」
「えー! だってクローゼットに入り切らないんだもん」
「だからって階段に置くなっ」
「僕のだけじゃないよー」
トラブルは大きな口を開けて笑う。
「良い家主に使って
「幸せ? トラブルは今、幸せなの?」
「はい。とても幸せです」
「そっか。今夜はどこに泊まるの? 家に来る?」
元カレの言葉に皆は、えっ!と、テオを見た。
「テオちゃ〜ん、誘ってんの?」
「違っ! そんな意味じゃないよー!」
「未練タラタラなのかと思っちゃったよー?」
「違います! 懐かしいかなぁって思って」
「それだけ〜?」
「それだけです!」
トラブルが相変わらずのテオに腕を組んで呆れていると、パン・ムヒョンが立ち上がった。
「さてと、言いたい事は言ったし、知りたい事は知ったし……あとは若い者に任せて仕事に戻りますか」
トラブルは慌てて引き止めた。
「仕事をしてはいけません。私と病院に行きましょう」
「ふむ……確か君は、余命半年と言われたパクを10
嬉しそうに目を細めるパンにトラブルは何も言えなくなる。
「セスくん、今日からでも私のミキシングマシンもパソコンも好きに使って良いから。では、遺作を完成させに行ってきますよ」
よいしょと、歩き出す作曲家に代表は「お前らは休暇に戻れ」と言い、付き添って出て行った。
あーあーと、ノエルは髪をかき上げる。
「なんか、すごい話を聞いたけど僕達は変わらないよねー」
「そうですね。我々は我々の仕事をするだけです」
ゼノの言葉にテオだけが
久しぶりに会った元カノは、もはや障害者ではない。そして、苦手な優等生タイプでもなかった。
日に焼けた褐色の肌と無造作に結んだ髪が、健康的で活発な女性に見せた。
「トラブル、すごく……何か、変わったね」
「そうですか? 太った……」
なぜか声帯が萎縮した。
咳払いで誤魔化す。
「太りました」
「そうだよー。ちょっと、太り過ぎじゃない?」
ノエルは、あのピルエットは、もう出来ないだろうと、鼻で笑う。
トラブルは、バックパックを脇に追いやり、ノエルに向かって姿勢を正した。腕を輪にしてバレエのポーズをしてみせる。
皆が、まさかと思った瞬間、クルクルっと左足を軸にして、2回転、回って見せた。
「うわー! 完璧じゃん! 本当、
したり顔で微笑むトラブルは異国の空気を
テオは誘わずにはいられなくなる。
「ねえ、本当にどこに泊まるの? もし、良かったら……あの、ホテル代とかもったいないしさ……」
「そうですよ、つもる話もありますし」
ゼノは、テオが宿舎に誘ったと思い込んでいたが、ノエルには青い家で2人きりになりたいのだと勘付く。
(まったく、テオがどれだけ苦しめたかも知らないで……困った子だなぁ。ほら、トラブルの声が出にくそうだって気付けないんだから)
ノエルは髪をかき上げて幼馴染を見る。
「テオー、そんなの決まってるじゃん」
「え、そうなの?」
「ねー、トラブル?」
「はい。ユミちゃん家に泊めて
「ほら、やっぱりねー」
「そっか……じゃあ、ユミちゃんは喜んでいるね」
愛するトラブルとの再会を邪魔すれば、どんな恐ろしい事になるのか想像が出来た。
では食事でもと、誘いたいが、さすがにしつこいだろうと口を閉じる。
トラブルはバックパックを肩に掛けてゼノにペコリと頭を下げ、手を振るノエルとジョンに微笑んで会議室を後にした。
残されたメンバー達は、しばらく放心状態になる。
「帰りますか」
ゼノに促され全員が立ち上がるが、セスはスタスタと窓に向かい、下を見下ろした。
「セス、どうしたの? 」
「見ろ。ご対面だ」
眼下の駐車場にユミちゃんの車がトラブルを待っていた。
建物から小走りで駆け寄るトラブルを見つけ、ユミちゃんが車から降りる。
そして、胸の前で手を振るトラブルの頬を思いっきり引っ叩いた。
「うわ、痛そう〜」
ジョンは自分の頬を押さえる。
「ふん。やはりな」
「お約束だよねー」
ユミちゃんの、バカバカと言う声が途切れ途切れに聞こえて来る。
トラブルはユミちゃんを抱きしめて体を揺らしていた。
「恋人同士の再会だねー」
笑うノエルの隣でテオは複雑な思いを
いい思い出しか、思い浮かばない。
始めて目があった時のドキドキやチョコレートケーキを舐めて笑い合った事。
愛し合った日々しか心に残っていなかった。
自分のわがままを棚に上げて、2度と戻らない寂しさが募って行く。
そんな気持ちを察したノエルは、そっとテオの背中を押す。
「帰ろ?」
「うん、帰ろう……」
ノエルは幼馴染の肩を抱いて、その場を離れた。
セスは最後まで窓を離れなかった。
まだ、プンプンとふくれているユミちゃんを助手席に押し込み、運転席に乗り込んだトラブルがシートベルトを
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