第291話 みんな、ひどい
リハーサルが開始された。
舞台上で細かい動きを確認して行く。
ステージ下で、笑顔のア・ユミがテオに向かい、左を指差していた。テオが左を見ると、トラブルがヘルメット片手に立っていた。
「トラブル!」
テオが思わずマイクに言い、皆はテオの視線の先を見る。
トラブルは笑顔で手を上げて応えた。
「なんで〜メットを〜持ってるの〜〜」
ジョンは自分のパートの替え歌でトラブルに聞く。
トラブルは上を向いて笑った。
「元気そうで良かった……」
テオはマイクに拾われない様に小さな声で
ゼノはテオが舞台に集中する為には彼女と話す必要があると分かっていた。リハーサルは始まったばかりだが、監督に休憩を依頼する。
「テオ、10分だけですよ」
「うん、ありがとう」
テオはステージを飛び降り、トラブルの元に駆け寄る。ジョンも付いて走り出すが「こら!」と、ノエルが捕まえて止めた。
テオとトラブルは、ステージ下の一角で向き合った。
「心配したよ。先に来ているはずが、いないんだもん」
入国審査に時間が掛かりました。
「うん、ア・ユミさんから聞いたよ……ダテ・ジンさんのお父さんが助けてくれたの?」
いいえ? ダテ・ジンさんのお父さんとは、何の話ですか?
「あ、いや、あの、大佐とは連絡が取れたんだね……」
はい。すでに定年で除隊されていたので確認に時間が掛かりました。
「そうなんだ……」
(否定しないんだね……)
「定年って、
(あー、何を言っているんだ。トラブルに言っても、しょうがないのに……)
そうですね。パク・ユンホの幼馴染みで親切な紳士です。
「トラブル、会った事あるの⁈」
ありますよ。戸籍に入る前にその方にお世話になりました。
「……お世話にって、知っていたの⁈ 知っていて、そんな事をしたの⁈」
はい。パスポートを取る為でした。
「何で! 何で、そんな事したんだよ!」
テオ? 私の戸籍は、あってないようなモノです。私にとって戸籍とは、生きて行く上で邪魔になる
「簡単に言わないでよ……こんな大事な事。何で僕に隠していたんだよ……」
(ゼノ、違うじゃん。トラブルは相手を知っていて結婚したんじゃん……)
テオ、なぜ、泣きそうなのですか?
「泣くに決まってるよ! 何でトラブルは平気なんだよ! いつも、そうやって1人で抱えて、1人で解決して、平気じゃない時も平気な顔をして! 僕は何なの⁈ 必要ない⁈ おかしいよ! 普通じゃ……」
「そこまでだ」
いつの間にか、後ろにいたセスがテオの口を
「テオ、声が大き過ぎますよ。スタッフが見ています」
セスはゼノと
ノエルはトラブルに「行こう」と声を掛け、背中を押した。
皆の後ろをジョンが小走りで付いて行く。
ゼノはメンバー達を入れ、控え室のドアを閉める。
セスはテオの口を塞いだまま、耳元で
「確認したい事がある。お前はしゃべるな。いいな」
テオは小さく
セスはテオから手を離し、トラブルに向き直る。
「お前、さっきテオに『戸籍に入る前に』と、言ったな? それは、どういう意味だ?」
意味? 文字通り、大佐の戸籍に入る……
「『婚姻関係を結んだ』では、ないんだな?」
婚姻⁈ まさか! 養女になっただけです。
「やっぱりな……テオ、こいつは結婚していない」
結婚⁈ 何の話です?
「ダテ・ジンの勘違いだ。入国審査官の韓国語のやり取りを聞いて、陸軍大佐の身内を家内とでも聞き間違えたんだよ。それをア・ユミに報告して俺達の耳に入った」
何で私が、あんなお爺さんと結婚すると思うのですか。
「パク・ユンホなら、やりかねないと思ったんだよ。パスポートを取る為に手段を選ばないとな」
テオも信じたのですか?
「あ、う、ごめん、トラブル」
それで『そんな事』『こんな事』と言っていたのですね。
「ごめん」
ん? では、私はパスポートを得る為に偽装結婚をしたと本気で信じたのですか⁈
「ごめん!」
皆んなも? 誰も疑わなかった? そんな事するはずがないでしょう!
「もう一つ、確認したい事がある」
セス、謝罪は?
「代表は、なぜ、お前の赤いパスポートを知っていた? なぜ、日本行きが困難だと予測していた?」
その前に、疑ってスミマセンでしたは?
「答えろ」
セスの低い声に、控え室に緊張が走る。
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