第281話 ジョンの独り勝ち
メンバー控え室に入り、練習着に着替える。
「そういえば、練習室は使える様になったのですか?」
ゼノの質問に、サブマネージャーは慌てて「確認して来ます」と、出て行った。
「いえ…… 内線で確認すればーって、もう遅いですね」
サブマネージャーの戻りを待つ間、メンバー達は思い思いの方法で時間を潰していた。
控え室がノックされ、ソヨンが困り顔で現れる。
「おはようございます。あの、今日、朝イチで髪を染める予定なんですけど……」
ユミちゃんだったら怒鳴るところを、ソヨンは控えめに言う。
「ええ⁈ それは、スミマセン。えっと、サブマネージャーの電話番号……」
ゼノは電話をして確認を取った。すると、ソヨンの言う通り、メイク室に顔を出す予定になっていた。
要領が悪いと思うが、まだ慣れていないからだと、ゼノは諭すように言う。
「練習室の確認に行く前に、我々に行けと言って下さいよ。で、練習室は使えるのですか? そうですか。分かりました」
ゼノは電話を切り、メイク室に行く様にメンバーに伝える。
「練習室は使えるそうですよ」
メンバー達がメイク室に到着すると、サブマネージャーは走って来たのか、息を切らせながら入る。
ソヨンが5人全員を鏡の前に座らせ、カラー見本を見せた。
「ノエルさんはピンク系、テオさんはブルー系、ジョンさんはイエロー系、セスさんは茶系、ゼノさんはアッシュ系なら何色でも良いです。皆さん、今、あまり明るい髪色ではないので、ハッキリとは入らないと思って下さい」
いの一番に末っ子が手を挙げる。
「僕、金髪!」
「ジョンさん、明るい茶色になりますが良いですか?」
「うん! ケーキ買って来たから、皆んなで食べて!」
「ケーキ? ですか?」
「うん、ソヨンさんにあげる! 皆んなで食べて!」
「は、はい。ありがとうございます……では、染めて行きますね」
ソヨンは他のメイクスタッフに指示を出し、ジョンの髪を染めさせる。
「ノエルさんは、決まりましたか?」
「オススメはどれ?」
「このピンクは、脱色をすれば綺麗に発色すると思いますが、ノエルさんの今の髪色からだと、こちらのピンクがオススメです」
「じゃ、それで、お願いします」
「テオさんは?」
「僕、こんな感じがいい」
「良いと思いますよ。ノエルさんと並ぶと可愛いですよ」
「昔、こんな髪色のキャラクターがあったよね?」
「ありましたねー。今でも人気がありますよ。私、ハンカチを持っています」
セスは色見本を見る気もない。いつもお任せだと分かっているが礼儀として一応、聞く。
「セスさんは決まりましたか? あまり明るくするとジョンさんとカブってしまうので、この位が良いですかね」
「ん。それで」
「では、始めますね。ゼノさんは、いかがですか?」
「ソヨンさんが決めて下さい」
「以前、シルバーにした時、好評でしたよね。今回はこのアッシュグリーンに挑戦してみます? 少し、黒さを残して大人っぽく」
「あー、いいですね。それでお願いします」
ソヨンは4人の毛染めを他のスタッフに頼み、自分はノエルの髪を染め始めた。
ノエルは髪をとかされながら敵に塩を送る。
「ソヨンさん、ジョンは本当はソヨンさんにケーキをプレゼントしたかったんだよ」
「私にですか⁈」
「そう。でも、1人に買って来ても食べにくいでしょ? だから、他のスタッフにも配って欲しいんだってさ」
「そうでしたか……ジョンさん、ありがとうございます」
「どういたしまして! ……僕、そう言ったよね?」
「ぜんぜん、伝わってなかったけどな」
セスの皮肉にソヨンは慌てて手を振る。
「いえ、伝わりましたよ。ありがとうございます。皆で頂きますね」
「うん!」
「あーあー、伝わってないよー」
ノエルが笑う。セスも同意した。
「ジョンは、まだまだ、だな」
「1000年どころか、2000年掛かっても僕は
「お前の女ったらしは天性のモノだからな」
「人聞きが悪いなぁ。セス、愛のキューピットって言ってくれる?」
「自分で
「食い散らかしてないでしょー!」
「散らかしてないだけで、
「
「最近は、だろ?」
「今も昔も、ですー」
「本気、出していないだけか?」
「そうだよー。僕が本気を出したら会社の女の子達なんて……」
「ノエル!」
ゼノが鋭い声を出して、ノエルを止める。
ノエルは、ハッとして鏡越しにメイクさん達を見た。
ソヨン始め、メイク女子達はノエルから視線を
ノエルは「しまった!」と、顔をしかめた。
セスはニヤニヤと、そんなノエルを見ている。
「セスー……」
「何だよ」
「セスに、まんまとハメめられたよ」
「何の事ですか?」
白々しく耳に手を当てるセスに「クッソー……」と、鼻にシワを寄せる。
ゼノが呆れながら、2人に言う。
「ノエル、私もセスの策略にハマった事がありますよ。セスと言い争って勝てる人はいません」
(第2章第223話参照)
「セス、頭の良さを、こんな事で消費しないで下さい。まったく、2人ともユミちゃんがいたら頭を叩かれていますよ」
ノエルは口を尖らせて黙ってしまった。セスは肩をすくめる。
末っ子のジョンは今がチャンスだと髪色をチェックするソヨンに話しかけた。
「ねぇねぇ、ソヨンさん。僕、日本で美味しいラーメン食べたいってリクエストしたんだー」
「えー、良いですね。私、日本のラーメンって食べた事ありません」
「一緒に行こうよ」
「わ、嬉しいです。ぜひ、お願いします」
「ソヨン、いいなー」
「ずる〜い」
他のメイク女子達が騒ぎ出す。
「皆んなで行こうよ!」
女子達はジョンの周りに集まりだした。
「私、日本始めて!」
「私もー!」
「ジョンさんは、何回目ですか?」
「うーんと、6回目かな」
「えー!すご〜い!」
「美味しいお店、知ってそう!」
「うん、知ってるよ」
「キャー!すご〜い」
「楽しみです〜」
ジョンはメイク女子達の間から、ノエルにピースをして見せた。
「ジョン、日本は4回目じゃーん。何、盛ってるんだよー」
ノエルは「ちぇっ」と、舌打ちをする。
ゼノがセスに耳打ちした。
「ノエルの完敗ですね」
「だな。1000年分を
「ノエルには、いい薬ですよ…… もしかして、セス、これを狙っていました⁈」
「気付くのが遅い」
「本当に、あなたって人は……」
リーダーのため息に、セスはしたり顔を返す。
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