第10話 代表の思い
一方、目撃者となった5人は、それぞれ眠れない夜を過ごした。
誰かに説明をして欲しかった。どう考えて、どう対処すれば良いのかまるで分からない。
単に目撃しただけなのだが、ただ、恐ろしかった。
翌朝、リーダーのゼノはマネージャーに電話をした。マネージャーは今から会社で代表と話すと答えた。
「話し合いの結果を教えて下さい……特に下の3人がショックを受けています」
ゼノはすがる様にマネージャーに伝える。
誰ともなくリビングに集まる。セスが朝食を作り、皆は無言でそれを食べた。
せっかくのオフ日にも関わらず、誰も外出しない。
皿を洗い終わったセスが
「トラブルは訴えないと思う」
「え、セス、どうして?」
テオはセスを見る。
「
ゼノはセスの言葉を聞いて
「そうですね。当然、目撃証言をしなくてはならなくなりますし私達の名前は出ますね」
ノエルは下を向いた。
「コンサートが中止になっちゃうしね……」
「そんな! 僕達の為に口を閉じるって事⁈ そんなのおかしいよ! 悪いのは、あの男じゃん! トラブルは被害者だよ!」
テオは興奮して立ち上がるが、セスは「違う」と、首を振る。
「そうじゃなくて、騒ぎになれば自分の過去が明るみになるだろ」
「恋人が殺された事件……」
テオの顔が凍り付く。
「たしか、トラブルをかばって刺されたって……」
「それだけじゃない」
セスは話を続けた。
「9歳で韓国に引き取られたって、おかしくないか? 国際養子縁組を調べてみたが、たいていは乳児なんだ。赤ん坊の方が言葉や習慣の壁がないからな。それか高校生くらいの分別のつく年齢になって自分を支援してくれていた家庭に入るとかなんだよ。まだ小さい女の子が韓国に行きたいと言うか? もし希望したとしても、子供の言う事を真に受けるか?」
「セス、何が言いたいんだよ」
「パク先生が言わなかった過去が、まだあるんじゃないか……」
「例えば?」
「人身売買とか……もし、パク先生の知らない過去があるなら、トラブルは隠し通そうとする」
昼食時、代表とマネージャーが宿舎にやって来た。
「久しぶりに来たなぁ。よ、お疲れさん」
メンバー達は代表の話を聞こうと身構えた。しかし、代表から出た言葉は「まず、メシを食おう」だった。
マネージャーが買って来たテイクアウトの中華料理を全員で食べる。
食べ終わると代表は、マネージャーにアイスを買ってくるようにと、お金を渡した。
代表はいつも、ストレスやプレッシャーを感じているスタッフに甘い物を勧める。
マネージャーは宿舎を出て行った。
「さて、本題に入ろう」と、代表は昨夜の出来事を聞いてくる。
まずは話しを聞くのが、この人流だった。
ゼノが昨夜見た事を話した。下の3人がヤジの様な合いの手を入れてくる。
トラブルを追い掛けたセスも話した。
「階段を降りて行ったところまでは見たが、すぐに見失った。すごく早くて……。駐車場だろうと目星を付けて追い掛けたが、すでにバイクはなかった」
話を聞き終わり、代表は考えた。今の話ではなく、なんと言おうかと。そして、ゆっくりと語り掛けた。
「トラブルは、今日、普通に出勤して、今、仕事をしている」
セス以外は「はぁ?」と、拍子抜けした顔をした。
「セス『やっぱり』という顔をしているな」
代表はセスを見る。セスは
代表はひと呼吸置いて話しを続けた。
「ゴンドラのテストをしている。様子を見たが、いつもの様だったぞ。俺に話す事はないかと聞いたら『ない』と即答だった。……トラブルが『ない』と言うのだから『ないフリ』をしようと思うのだが、どうだろうか?」
ゼノ、セス、ノエルの3人には、これが『ないフリをしろ』という意味だとすぐに察した。が、ジョン、テオの2人が口々に反論する。
「犯罪を見逃すんですか⁈ 」
「そんなの、変だ!」
「会社の保身の為でしょう⁈ 」
代表は「これは見せるつもりはなかったのだが」と、言いながら、鞄からビニール袋を取り出した。
テーブルに音を立てて置く。それは例のカッターナイフだった。
刃先はしまわれているが血液が付着しているのが見て取れる。
メンバー達は息を飲んで見下ろした。
「今朝、拾って来た。証拠隠滅にあたるかもな。これで俺も犯罪者か?」
代表は鼻でフンッと笑う。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます