第294話 誤解の誤解


 ステージ上で、ダテ・ジンはメンバー達に深々と頭を下げていた。


「申し訳ごめんありません!」

「ダテ・ジン語だなぁー」


 ノエルが笑う。


「ダテ・ジンさん、気にしないで下さい」


 テオはダテ・ジンの頭を上げさせる。しかし、ダテはゼノに頭を下げていた。


「ゼノさん! 特別に、本当に、とても、申し訳ごめんありません!」

「え、私ですか?」

「はい! とても、嫌で、すごく、ショック、トラブルさん、恋人、とても、嫌、気持ち、しました。ごめんありません!」

「えーと、驚きましたしショックでしたけど……え? 恋人? 私が?」

「はい。恋人、来ない、心配、でも、私の間違いして、とても、ショックしました。ごめんありません!」


 ダテ・ジンは、ゼノに向かい深々と頭を下げる。


 ゼノは、思い出した。


(ア・ユミさんに聞いたのですね! 勘違いを、そのままにしておいたから……)

(第2章第286話参照)


「ゼノ、恋人なの? トラブルの…… どういう事かな?」


 テオが、引きつった笑顔でゼノに迫る。


「いや! これは誤解を誤解していて……」

「ねえ、ダテ・ジンさん。トラブルの恋人は、だぁれ?」

「え、ゼノさん」

「なんで! トラブルの彼氏は、このぼ……ぐっ!」


 テオの口を、ノエルとセスがふさいだ。2人を振り払おうとするテオをジョンが羽交い締めにする。


「どうしま、した?」


 ダテ・ジンは、暴れるテオを押さえる3人を見た。


「ううん。何でもないよ」


 ノエルは、わざとらしい笑顔で誤魔化そうとする。


「んんんー! んんー!」

「バカっ、暴れんな!」

「テオ、説明するので落ち着いて下さい」

「んんんんんー! んんんんんー! んんんー!」

(トラブルのー! 恋人はー! 僕だー!)


「テオ語がモールス信号になったな」

「何が言いたいのか分かったから。黙ってくれるなら手を離すよ。テオ、いい? 落ち着いた?」

「んんん!」

「このモールス信号は、分からんな」

「『ううん』って言ったと思う」

「黙る気なしか」

「んんっん」

「何だって?」

「『分かった』だと思う」

「本当に、分かったのか?」

「んん」

「『うん』だって」

「なるほど」

「いい? テオ、落ち着いてね。離すよー」


 ノエルとセスが、テオからゆっくりと手を離す。


「ジョン、いつまで捕まえているつもり⁈」

「暴れたら、いけないと思って」

「いい仕事したな」

「やったー!」


 ジョンもテオを解放し、テオは落ち着きを取り戻す。しかし、気色けしきばんだ表情は変わらなかった。


「で? ゼノ、説明して」

「それは、そのー……」


 ゼノは、ダテ・ジンを見た。


 その様子を見て、ダテ・ジンはまたも大きな誤解をした。


「あ! ゼノさん、テオさん、秘密ですか?」

「なんて?」

「テオさん、に、秘密です、したか」

「テオに秘密にしてたか? お前の誤解は大問題を起こしまくりだな」

「セス、ツッコミ入れてる場合じゃないよー。テオ、テオ?」


 テオは今にも頭から噴火しそうな顔で、ゼノをにらみつける。


「テオ、説明させて下さい。ダテ・ジンさんの誤解なのは明白めいはくで、私は潔白けっぱくですよ」

「わざと難しい事を言って、誤魔化そうとしてるんでしよ! 僕が聞きたいのは、どうして、そう思われているのかって事! 嫉妬しっとしているんじゃありません!」

「思いっきり嫉妬してるけどな。ここで説明出来るわけがないだろ」


 セスが鼻で一蹴いっしゅうした。


「どこだったら、いいのー!」

「テオー」

「ノエル、何!」

「今は我慢しな」


 ノエルの真剣な眼差しに、テオは我にかえる。


「う! ……そ、そうだけど、でも、あの……我慢します……」

「はい、いい子。ダテ・ジンさん、ごめんねー。テオって不思議ちゃんだから」


 ノエルが、柔らかい笑顔をダテに向ける。


「不思議、ちゃん……なるほど」

「テオ、納得されたぞ」

「セス、そこはツッコまない!」


 ゼノはダテに分かるような優しく言う。


「ダテ・ジンさん、もう、えー……大丈夫です。怒っていません。分かりましたか?」

「は、はい。ゼノさん、ありがとうごじゃいます」


 ダテ・ジンは、頭を下げたままステージを降りて行った。


「ふー……」と、ゼノは汗をぬぐう。


 テオは歯ぎしりをしながら、ゼノを見た。


「説明しますからー……」


 ゼノは、訪日の前日にア・ユミさんに誤解され、それを訂正出来ていなかったと、テオにびた。


「やましい事があって、誤解されたわけじゃないんだね?」

「もちろんですよ。テオ、怖いですよ」

「なんかさー、テオって怒っているとテオ語が出ないんだねー」


 ジョンが無邪気に話題を変えた。


「え、そう?」


 途端にテオは笑顔になる。


「褒められたと思ってんぞ」

「だから、セス。ツッコまないの」


「テオ語のテオとダテ語のダテ・ジン対決は、どっちが勝つかなぁ」

「僕に決まってんじゃん」

「ダテ語も、かなり面白いよ?」

「僕のは天然で、養殖ではありませんからー」

「じゃ、今度、バトルしてみてよ」

「天然素材の僕の圧倒的圧勝に決まってるよ!」

「圧が2回出た! テオ語ー! 面白ーい!」

「へへへー」


 なぜだか2人は、笑い合う。


 ノエルが、あきれてセスを見る。


「セス、ここはツッコまないの?」

「全部にツッコんでたら身が持たない。ていうか、面倒くさい。いや、どうでもいい」

「だよねー……」

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