第122話 普通のフリ
「ねぇ…… いいでしょ?」
テオは甘えた声で抱き寄せる。
トラブルはテオの背中に手を回し、ゆっくりと首筋を
「ん…… 」
テオは目を
テオは自分の手をトラブルの首筋から背中、腰へと下ろしていく。
トラブルは指に力を入れた。背中から肩、首を揉み上げる。
「気持ちいい…… 」
テオの手はトラブルの腰をゆっくりと上がり、トラブルの指の動きに合わせて背中を上下する。
「ねえ…… 今も仕事中?」
潤んだ目を薄く開けて聞く。
トラブルは
「はぁー」と、テオはトラブルを強く胸に抱く。
トラブルの指は止まらない。
時に強く、ふいに優しく、絶妙なタイミングでテオの呼吸に合わせて
テオの腕から力が抜けていった。
トラブルは指の力を抜きながら動きの速度を落とす。
寝息をたて始めた。
そっとテオの腕を外し、滑り落ちるようにベッドから出る。
小動物の様な寝顔を見ながら、物音を立てずに部屋を出た。
リビングを横切り、セスの部屋へ向かう。
静かにノックをして、そっとドアを開けた。
部屋の電気は消されているが、パソコンの灯りがついている。そのパソコンの前でドアに背を向けたセスが仕事をしていた。
「ノックに応えた覚えはないぞ」
背を向けたまま、ぶっきら棒に言う。
トラブルは手を動かすが、セスは見ようとしない。
指をパチンと鳴らす。しかし、セスはパソコンから目を離さず振り向かなかった。
トラブルは少し考え、そして、セスの座っている椅子を、えいっと回した。
「わっ! データが消える所だったぞ!」
もう、夜中ですよ。
「だから何だ。 勝手に入ってくんな」
セスはくるりとパソコンに向かい直すが、トラブルは再び椅子を回してセスと向き合った。
「お前なー。テオと一発やって来たんだろ? もう、寝ろよ」
何を根拠に。
「髪が乱れてる」
あー、なるほど。でも、やってませんよ。
「どうでもいい。寝ろ。邪魔するな」
話があります。
「俺はない。寝ろ」
代表と私の事です。キム・ミンジュから聞き出そうとしたのですよね?
「…… テオか。確かに調べようとした。でも調べた所で何にもならないと思い直した。キム・ミンジュが詳細を知るとは思えない。イ・ヘギョンさんも、代表が退職を認めたって事は大した事を知らないか、もしくは絶対に喋らないか…… どちらにしろ無駄だ」
さすがですね。ですが、私と代表はあなた方と出会う前にパク・ユンホの家で会った事があり、私のフラッシュバックを何度か目撃するうちに対処出来るようになっただけの事です。
「俺に嘘は通じないと言ったのはお前だぞ」
事実です。
「事実の一部だろ。でも、もう知りたくない。ゼノに、それを知って一人で耐えられるのかと聞かれたよ。恐らく耐えられない。テオに秘密を持つ事になるのも嫌だ。警察と大学病院を巻き込んで、お前が何をやったのか、何をやられたのか、代表がどう絡んでくるのか。もう、どうでもいい」
そうですか。でも……
「耐えられないと言っただろ! あの日、お前を土手で見つけた日、俺はここでフラッシュバックに襲われたんだよ。ノエルが救ってくれた。恐ろしかった。こんな恐ろしい事を何度も経験しているお前を恐ろしいと思ったし、闇から救う為には闇に足を踏み入れるしかないと痛感した。ノエルを、二度と闇に触れさせる訳にはいかない」
…… 。
「トラブル、俺はお前よりも早くに1人では生きていけないと悟ったんだよ。お前みたいに1人に戻っても、どうにかなる奴とは違う。あいつらが作ってくれた俺の居場所に俺はいたい。普通にはなれないが普通のフリをしたい。俺達に闇を見せるな」
…… 私を見ると辛いのかもしれないと、薄々気がついていました。バリ島で笑顔を取り戻した時、あなたに『バカ』と言われたかった。あなたに言われると、そうか自分はバカだから仕方がないのかと
すがる目を向けるトラブルから目をそらす。
パソコンの灯りを背に受けるセスの表情は分からない。しかし低い声で、そして絞り出すように言う。
「消えろなんて言うわけないだろ……。ただ、お前も……普通のフリをしろよ」
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