第47話 宿舎


 車はテオの体調に配慮して会社へは寄らず、まっすぐメンバー達が暮らす宿舎に帰って来た。


 トラブルはテオを支えながらノエルの案内で部屋に入る。


 テオの部屋は、カーテンもクッションもシーツさえもカラフルな色であふれていた。


 ファンからだろうか、ぬいぐるみや誕生日カードが所狭しと並べられている。


 トラブルはノエルにテオの着替えを頼み、部屋を出た。


 マネージャーに、今日と明日のスケジュールを聞く。


「今日はオフです。明日は、打ち合わせとレコーディングとラジオ出演と……」


 昼食の予定は?と、メモに書いて見せる。


「オフなので、各自、自由にしてもらう予定でした。出前を頼みますか?」


「トラブルの鶏肉が食べたい!」


 ジョンがすかさず手を挙げた。


「冷蔵庫の中はカラっぽだよ」


 テオの着替えを終わらせたノエルが笑いながら出て来た。トラブルは入れ違いにテオの部屋に入る。


「買い物して来ましょうか?」


 マネージャーはメンバー達を見回すが、セスは首を振った。


「あいつは、この2日間まともに寝てないんだ。休ませないと倒れるぞ」


 ノエルはニヤリとして、普段はメンバーの体調すら気遣った事のないセスを見る。そして、自分も食べたいからと言った。


「僕がトラブルの鶏肉料理をまねて作ってあげるよ。テオも食べたいだろうし。セス、トラブルと買い物に行って来てよ」

「何で、俺が?」

「トラブルと話をしてほしいんだ。テオの事」

「だから、それは……」


 セスが言いかけた時、トラブルが部屋から出てきた。


「トラブルの鶏肉が食べたい!」


 ジョンは、今しかない!と、叫ぶ。


 トラブルは無表情のままセスに手話で伝えた。


テオにも食べたいと言われました。私は大丈夫です。買い物に行って来ます。


 セスが通訳するとジョンは「わーい!」と、手放しに喜ぶ。


「近くにコンビニしかなくて、食材は車で買いに行くしかないんだー」


 ノエルはわざとらしく困ってみせた。


 トラブルはセスに手話を聞かせる。セスは通訳をしなかった。


「分かった……」とだけ言って、ゼノに車を貸して欲しいと頼む。


 マネージャーは2人きりの外出を反対した。


「ダメですよ。また、トラブルと写真を撮られたら、どうするんですか。絶対にダメです。買い物は私が行って来ます」


 写真?と、トラブルはセスに聞く。


 セスはスマホで、歌謡祭での週刊誌の記事を見せた。


《メンバー全員でお持ち帰り⁈ 》


 トラブルの顔色が変わる。顔は隠しているがハッキリと自分と分かった。


 ゼノが、その誤解は解けているから心配いらないと説明をするが、トラブルの動揺は止まらない。


 スマホから目が離せないでいるトラブルに、セスが「俺の部屋で話そう」と、腕を引き、部屋に入って行った。


「あの2人はいったい……まさか?」


 心配するマネージャーに、ゼノは「大丈夫です。恋愛感情はありませんよ」と、微笑んで、小さく「今のところは……」と、付け加える。


「はい、じゃあ、これをお願いねー」


 ノエルは買い物リストを書いてマネージャーに渡した。


 マネージャーは心配顔のまま出て行った。

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