第453話 仲間外れ⁈


「本当に締め出すつもりだったのですね……朝食に誘わない方が良いですか?」

「ああ。ジョンと食いに行って来い」

「そうですか。では、ジョンと朝食に行って来ますね。あ、ノエルの調子はどうですか?」

「知るかっ。見て来いよ」

「その、分かる時と分からない時の違いは何なのですか?」

「は? 説明を聞いて理解出来るのか?」

「いえ……ノエルの様子を見て来ます」


 ゼノは肩を落として、ノエルの部屋に向かう。


 すると、ジョンが廊下に出て来た。


「あ、ジョン、今から朝食に……走りに行くのですか?」

「うん!」


 ジョンはランニングシャツに短パン、スポーツタイツを履いていた。


「僕、朝ご飯はジュースだけでイイから。行って来るね」

「1人ですか⁈」

「ううん、トレーナーの先生と一緒」

「ああ。では安心ですね」

「うん! 走りながらパリを撮って来るね。いってきまーす!」


 ジョンはスマホを振ってエレベーターに向かう。


 ゼノはジョンを見送ってから、ノエルの部屋をノックした。しかし、待っても応答がない。


(テオの部屋かな?)


 テオの部屋をノックする。


 中からドタドタと賑やかな足音がして、笑顔のテオが顔を出した。


「おはようございます……楽しそうですね」

「ゼノ! おはよー。ちょっと、これ見てー!」


 テオはゼノの手を引いて、部屋に入れる。


 部屋の窓は開け放たれ、爽やかな風と朝日が差し込んでいた。


 バルコニーのテーブルにノエルが座り、まぶしそうに目を細めてゼノを振り返る。


 ノエルのピンクの髪が、キラキラと朝日に映えた。


 ゼノはテオに引かれ、バルコニーに出た。


「ノエル……元気そうですね」

「うん、セスもね」

「まあ、元気でしょうね。朝食に誘ったら断られましたが」

「部屋で食べたいだけだよ。セスも僕も大丈夫」

「良かったです」

「うん」


 テオが2人の間でピョンピョンと跳ねながら、話すタイミングを計っていた。


「イイ? 終わった?」

「あ、テオ、何を見て欲しいのですか?」

「これこれー! 凄いでしょー!」


 テオはテーブルの上の皿を指差す。


 そこには、パンケーキにチョコペンで書かれたテオの顔が笑っていた。


「え! 似顔絵ですか⁈」

「そう! 似てるでしょー! ノエルのもソックリだよー!」


 ノエルのパンケーキにも、ノエルの顔が描かれている。


「凄いですね。え、2人が書いたのですか?」

「まさかー。ノエルがね、パンケーキに似顔絵を描いてくれるサービスを頼んでくれたの。注文したら、すぐに来たんだよねー」

「さすが、芸術の都ですね……」

「食べるのがもったいないけど、食べちゃうもんねー」

「ねー」


 テオとノエルは、顔を近づけて笑い合う。


 ゼノはその様子に、自分は邪魔だと感じた。


「ゼノも食べよう。僕の顔を半分、食べさせてあげる」


 ノエルは髪をかき上げて笑う。


「僕のも、味見してイイよー」

「同じだよー」

「テオ味かもよー?」

「なんなの、それー!」


 ノエルは椅子を勧めるが、ゼノはそれを断った。


「いえ……マネージャーと食べて来ます。朝から、パンケーキは重たいですし……」

「そう? 残念」

「ノエル、写メ撮ってー」

「OK。うわ、パンケーキのテオも顔認識しているよー」

「本当にー?」

「ほら、猫耳付いたよ」

「似顔絵、盛ってどうすんのさー」

「テオより、可愛いよー」


 2人のやり取りを聞きながら、ゼノは静かに部屋を出る。


 なぜだか妙な疎外感を味わいながら、朝食ラウンジに足を向けた。

 

 そこには、食事が終わり、コーヒーを飲むマネージャーの姿があった。


「おはようございます」

「お、おはようございます。ジョンは走りに行きましたよ」

「はい、会いました」

「1人ですか? 他のメンバーは? ……セスの体調は?」

「あー、セスは大丈夫です。疲れただけの様で……ノエルとテオは部屋で朝食をっています」

「そうですか。出発時間の変更はありませんので、15分前に各部屋に連絡を入れます」

「はい、お願いします」

「……何だか、元気がありませんね」

「そんな事は、ありませんよ。お腹が空いただけです」


 ゼノはメニューを見て注文をし、マネージャーは部屋に戻って行った。


(少し、話し相手になってくれても……はぁー、誰もいないのは静かで……つまらないですね……)


 ゼノは、ため息をきながら肘をついて食事をすませた。


 1時間後、各部屋にマネージャーから集合の連絡が来る。


 ランニングから帰っていたジョンは、遅刻をせず、1番にエレベーターホールに現れた。


 次にゼノ。後ろから、ノエルとテオが腕を組んで現れる。


「あとは、セスですね」


 ゼノが、そう言うと、ノエルはエレベーターのボタン押した。


「ノエル、まだ、セスが来ていませんよ?」


 ゼノはノエルに問い掛ける。


 ノエルはニヤリと笑って見せた。


 エレベーターの到着を知らせるベル音がして、扉が開いた時、ちょうどセスが姿を現した。


 ノエルはゼノを見て「ね、完璧でしょ?」と、自慢げな顔を見せる。


「違う。俺がエレベーターの来るタイミングに合わせて部屋を出たんだ」


 セスは、そう言ってエレベーターに乗り込む。


「違うよー。僕がセスの部屋を出るタイミングをみてエレベーターを呼んだんだよー」


 ノエルはテオの腕を離さずに、口を尖らせた。


「僕が1番だったー!」


 ジョンが両手を挙げて、最後に乗ろうとした。セスは無言で『閉』ボタンを押す。


 ジョンは閉まる扉に肩を入れて、慌てて乗り込んだ。その衝撃でエレベーターは振動し、重量オーバーのブザーが鳴った。


「え! なんで⁈」

「豚、降りろ」

「うがー! セスが降りろー!」


 ジョンはセスの腕をつかみ、引きずり下ろそうとする。


 セスは抵抗し、ブザーは大音量で鳴り続け、扉はどうすれば良いのか分からないと開閉を繰り返した。


「ジョン! セス! 危ないですよ!」


 ゼノに叱られても、2人は引きずり下ろし合いをめ様としない。


 必死のジョンに比べ、セスは笑顔だった。


「えーい!」


 ノエルが2人をエレベーターの外に押す。そして、すかさず『閉』ボタンを押した。


 エレベーターは驚いて振り向く2人を残し、扉を閉めて階下に動き出した。


 エレベーターの中でノエルとテオが笑い合う。


「ノエルー、置いてっちゃったよー」

「下で待ってればイイじゃん? 他のお客さんに迷惑だし。ね? ゼノ」

「まあ、そうですが……あの2人、仲が良いのか悪いのか……」

「僕達みたいに、分かりやすく仲良しすればイイのにねー。テオ?」

「うん。そうだよねー」

「……2人共、腕を組んだまま行くのですか?」

「なぁに? 問題でもある?」

「いえ……2人が良いのなら構いませんが……」

「ゼノも組んであげるー」


 テオがゼノの腕に腕を絡めた。

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