第266話 ジョンの買い物


 案の定、市場の駐車場は満車で止める事が出来なかった。


 ゼノは、そのまま走らせて市場を一周する。


 駐車場前で徐行するが、セスとジョンの姿はない。仕方なく、もう一周する。が、2人の姿はやはりない。


「何かありましたかね…… セスから連絡は入っていませんか?」

「ううん、入っていない」


 ゼノは3周目に入る。


「同じ場所を回っていると、怪しまれるかもよ?」

「ノエル、そうなのですがー…… 早く、ピックアップしたいですね」


 自分達が停車して待つわけにもいかず、かといって2人を道端で待たすわけにもいかないと、ゼノは最徐行で駐車場前を走らせる。


「あ! あそこ! 走って来る!」


 テオが指を差す先に、買い物袋を下げたセスと、米を肩にかつぎ、大きなリボンを付けた箱を脇に抱えたジョンが走っていた。


 ゼノは車を降り、後ろのハッチを開けて荷物ごとジョンを入れる。


 セスも助手席に飛び乗った。


「早く、出せ!」


 ゼノがサイドブレーキを下ろすと黄色い声が響いた。


 ファンの声から逃げるように、ゼノは慌てて車を発進させる。


「危なく取り囲まれる所でしたね。ジョン、そのプレゼントは何ですか?」


 ゼノがバックミラーを見ると、ジョンはノエルの横に移動して、リボンを外していた。


「ジャジャーン! ボードゲームでーす!」

「うわ、懐かしー!」


 セスは買い物袋を足元に置きながら、重かったと手首を回す。


「ジョンが、それを買うってオモチャ屋を探し始めて、通りすがりの人に聞いたんだよ。で、バレた」

「話しかけたのですか⁈」

「うん、オモチャ屋さん、どこですかって」

「信じられない!」

「ちゃんと、ありがとうしたもん!」

「な? 今回は俺のせいじゃない」


 セスは横目でゼノを見る。


「ジョン、リボンまでしてもらったの?」

「これは、お店の方の好意です」


 車内がため息に包まれる。


「これが本当のお手上げだろ?」

「プランBどころでは、なくなる所でしたね」

「だって、トラブルん、テレビがないんだもん! ご飯が出来るまで遊んで待っていようよ。ね? いいアイデアでしょ?」

「手伝う気がないな」

「うん!」

「ったく」


 幹線道路に入り、しばらくするとゼノは速度を落とした。


「えーと、この当たりでしたよね……」


 ゼノは、川原に下りる砂利道を探す。


「あ、ありました」


 ウインカーを出し、対向車を一台やり過ごす。


「ここ⁈ 真っ暗だよ。道があるの⁈」

「ノエル、それが、あるのですよ」

「勇者の家に到着!」


 タイヤをきしませながら砂利道を下り、頼る明かりのない空間に停車した。


「ここで、いいですかね?」


 ゼノが不安な声を出す。


 テオは車を降りて、玄関ポーチの灯りをつけた。


「ああ、良さそうですね。皆んな、降りますよ」


「トラブル、鍵をちょうだい」


 トラブルは体を起こし、ポケットから鍵を出してテオに渡す。


(ん、大丈夫かも……)


 トラブルは皆に続いて車を降り、家に向かい歩く。






「おい!大丈夫か!」


 目を開けるとセスの腕の中にいた。どうやら倒れたらしい。


「急に歩き出すバカがいるか! テオ、玄関押さえておけ!」


 セスはそのままトラブルを抱き上げ、家の中に入った。


 テオが明かりをつけながら後を追う。


つかまってろよ」


 セスに言われ、トラブルはセスの首に腕を回し、力を入れる。


 セスは慎重に階段を登って行った。


「テオ、靴を脱がせてくれ。俺じゃなくて、こいつの!」


 セスは、そっとトラブルをベッドに下ろした。


 テオは、ベッドに横たわるトラブルの足の下に枕を入れる。


「トラブル、大丈夫?」


 テオはトラブルの頬をでる。


 セスは、ふーっと両腕を振り、食材を取りに1階に降りて行った。


 外ではジョンとノエルが興奮していた。


「ね? ね? 凄いでしょ? 僕の言ってた事、本当でしょ?」

「うん。ジョン、本当にゲームの家みたいだよ」

「こっちに来て! 案内するよ!」


「こらー、荷物を運んでからですよー」


 2人にゼノの声は届かず、ゼノは1人で米を持つ。


 セスがジョンの首根っこをつかんで出て来た。


「手伝え、バカ」

「はーい、ごめんなさーい」


 ジョンはゼノから米の袋を受け取り、2階に運んだ。セスとゼノで残りの荷物を運び入れる。


 セスは早速、調理に取り掛かった。


 ゼノはトラブルの元に行き、医療従事者に失礼かもしれませんがと前置きをして質問をする。


「その失神の頻度……おかしくありませんか?」

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