第162話 覚悟しておけよ


 性欲を食欲に変換させる為、惣菜パンをかじる。


 思った以上に美味しかった。


(出来立てならもっと美味しかったかも)


 トラブルがシャワーを終わらせ出て来た。


 黒のタンクトップに黒のデニムジーンズ。ボディソープのいい香りがする。


 細い肩と胸の膨らみに目が吸い寄せられる。


「トラブル、もう少し露出の少ない服はないの?」


なぜですか? 着る服がなくなりました。そのパンを温めましょう。


「本当に何も持って無いんだね……」


 テオは部屋を見回す。テレビもソファーもトイレマットすらない。


 シンプルを通り越して寒々しくすら感じた。


「ねぇ、テレビ買っていい? ソファーも。皆んなが遊びに来た時に座る場所がないよ」


テレビはスマホで充分です。ソファーは……そうですね。あった方がいいかもしれません。


「あのね、スマホは自分が知りたい情報を手に入れるにはとても便利で優秀なんだけど、自分が理解出来る事しか聞いたり読まないから、世間を知ったり勉強には、ならないんだよ」


……勉強にならないのは理解出来ますが。それは、誰の言葉ですか? セス?


「ううん、ゼノです。あ、バレちゃった」


 トラブルは笑いながら、テレビが欲しいのですね?と、聞く。


「うん、欲しい」


私を見ているだけでは、つまらない?


「え」


 トラブルはパンをひと口かじり、テオに近づく。


 テオの口にもパンを運び、同じようにひと口かじらせた。


 テオの腰を引き寄せ、頬についたソースをペロリと舌で舐め取る。


 ゴクリとパンを飲み込むテオ。


 トラブルはソースを舐めとった頬にキスをしようとする。しかし、テオはトラブルの唇を唇で受けようと頭を傾けた。


 トラブルは、クスッと笑い、動きを止めて目を伏せる。


 テオは愛する人の髪に手を入れ反対の手で顎を上げさせた。


 トラブルは目を閉じる。


 ピピピッ ピピピッ ピピピッ

 ブーブーブーブー


「なんだ⁈」


 2人のスマホが同時にけたたましく鳴る。


 トラブルはテオから離れスマホを止めに行った。


 テオもポケットのスマホを止め「はぁー」と、ため息をく。


同じ時間にアラームをセットしていたみたいですね。


 トラブルは笑顔でテオの元に戻り腰に手を回す。すると、足に硬いものが当たった。


 ん?と、下を見るトラブル。


「見ないで下さい!」


 テオは腰を引きながら後を向いてしまった。


 思わず半笑いでテオの背中をグーパンチする。


「いじめないで下さいー」


 トラブルは腰を曲げ、腹を抱えて大笑いした。


「もう! 次の休みは覚悟しておいて! 本当に我慢しないからね!」


次の休みって?


「え、えーと……あれ? 次の休みっていつだ? 来年⁈ 本当に⁈」


 私に聞かれても分かるわけがないと、トラブルはスケジュールが頭に入っていないテオに呆れてみせる。


「マジかー……」


 こんな事ならヤッておけば良かったと心から後悔するが、あとの祭りだ。


スマホにスケジュールを入れておいて下さい。あと、り時間も。仕事終わりに泊まりに来て、朝、送りますよ。マネージャーの動きに気を付けて下さい。


「はい。あ、マネージャーの公認です。代表も」


代表も⁈


「うん、たぶん。だからマネージャーは反対しないんだと思う」


そうですか……。


 彼等を商品とハッキリと呼ぶ代表に、商品に手を出したと知られれば仕事を失うだけではなく、命を取られるかもしれない。それなのに何も言って来ないとなれば、他によからぬ思惑おもわくがあるのかもと、勘ぐってしまう。


(いや、絶対に何か裏がある。代表と話をしなくては……)


 テオにさとられない様に、そう決心をした。


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