第225話 味噌ラーメン


 ジョンは青い家の玄関に走る。 


「トラブル、カギ開いてる?」


 テオはジョンを追い掛けながら、トラブルを見た。


 トラブルは笑顔でうなずく。


「ジョン、中に入って」

「うわぁー! 中も木ばっかりだー!」


 ジョンは1階を見回しながら、大声で叫ぶ。


 その声は、外のセス達にも届いた。


「木ばっかりって、何だ」

「テオー、ジョンー、荷物手伝って下さいよー」


 ゼノは助手席の酒類をセスと手分けして持つ。


 トラブルはケーキとパンの袋を持ち、ゼノとセスに、こっちと、顎で合図を送る。


 トラブルがドアを押さえ、2人を招き入れた。


「ほー、木ばっかりの表現は間違ってませんね。材木のいい香りがしますよ」


 2階から、またもジョンの大声が聞こえる。


「すごーい! 広ーい!」


 トラブルの案内で階段を上って行く。


 セスは階段の途中で振り返り、古いカメラが並ぶ一角を見つけた。


 何も言わず、ゼノの後に続く。


 階段上で靴を脱ぎ、ゼノは2階の天井の高さに驚く。


「皆んな、こっちに荷物を置いてー。お酒は全部入らないよ。どれを冷蔵庫に入れる?」


 メンバー達の宿舎よりも小さい冷蔵庫は、すでに食材でいっぱいだった。トラブルは今から使う材料を取り出し、スペースを作る。


 セスが、先に冷やしたい分だけ冷蔵庫に入れた。


「キムチ用の保冷庫もないのか?」


ありません。


「テオの言う通り、何も無いのな」


 セスは、2人掛けのテーブルと椅子を見て言う。


「お風呂、可愛いよー!」

「ジョン、家主の許可なく家中を見て回っては、いけませんよ」

「ゼノ、バスタブが猫足で凄く可愛いんだよ」


 テオがゼノを誘う。


「本当ですか? どれどれ」


 ゼノもテオに案内され、ジョンと家の探検を始めた。


「メニューは何だ?」


 セスは無遠慮に冷蔵庫をのぞく。


味噌ラーメンです。


「味噌? どうやって作るんだ?」


辛味噌をスープに溶かすだけです。そこの寸胴にスープは出来上がっています。あと、野菜炒めを乗せます。


「これは?」


豚バラを焼いてサムギョプサルにします。キムチを切って下さい。


「俺が? どこで切ればいいんだよ」


 トラブルは床にビニール袋とまな板を置き、包丁を渡す。


 キムチを袋ごと渡し、皿を並べて置く。


「床かよ…… 手を洗って来る」


 セスは洗面所に向かいながら部屋を見回す。


 テオら3人は、クローゼットをのぞいていた。


 セスは3人の背後から、床に置かれた男物のブーツを指差す。


「これ、聞いたか?」

「ううん、聞けてない……けど、もういいんだよ」

(第2章第152話参照)


「そうか」


 キッチンから、野菜炒めのいい音が聞こえて来た。


「ご飯だ!」

「さあ、手伝いますか」

「トラブル、どこで食べるの?」


そこのラグの上で床で座って食べましょう。


「了解。ジョン、手伝って」


 セスが手早くキムチを切り皿に盛る。テオとジョンは、小皿と箸を運んだ。


 トラブルは味噌ラーメンの仕上げにかかった。テーブルの丼に辛味噌とスープを入れ、麺と野菜を乗せる。


「うわー! 美味しそう! 味噌ラーメンって始めてだよー!」

「前に作ってくれたプルコギマヨバーガーも、絶品だったよー」

(第2章第146話参照)


「えー、ズルい! それも食べたーい!」


 トラブルは笑いながら人数分のラーメンを仕上げた。


「こんなに、お皿を買って来たの?いつの間に?」


少しづつ買い揃えました。買い物は楽しいですね。


「うん、さっきもデパートで枕とかマットとか買って来たんだよ。ネットより、お店に行く方が楽しいよね」


 テオはラーメンを運び、ジョン達に渡す。


「食べていい?」

「こら、ジョン、そろうまで待ちなさい」

「伸びちゃうよー」


 トラブルの指が、パチンと鳴る。


 メンバー達は振り向き、トラブルの手話を見た。


よく混ぜて、温かいうちに食べて下さい。


「やったー! いただきまーす! アチッー!」

「バカ」

「これは、美味しいですねー」

「ゼノは焼酎? マッコリ? セスは日本酒?」

「僕、マッコリー!」

「ジョンに聞いてないよー」


 賑やかな食事が始まる。


 トラブルは焼いた豚バラと野菜を皿に盛り、コチュジャンを添えてテオに渡す。


「このキムチ、大きいよ。切れていないし」

「急いだから仕方がないだろ。床を汚さないように気を使ったんだよ」

「作業台が必要ですね」

「テーブルも!」

「テーブルあるよ?」

「5人掛けの!」

「家主さんが入っていないのでは?」

「だって、トラブルは立って食べてるし」


 ジョンの指差す先で、トラブルは立ったまま丼を持ち、麺をすすっていた。


「自宅でも立って食べるのですか?」


 ゼノが驚いて聞く。


 トラブルは無言で皆に背中を向け、食べ続ける。


「テオ、テオと2人の時も立ったまま食べているのですか?」


 ゼノが小声でテオに聞く。


 ジョンとセスも頭をテオに寄せ、答えを待った。


「前に来た時は、そこに座って食べたよ。向かい合って」

「そうですか。安心しました。恋人と2人きりでも立っていたら、どうしようかと思いましたよ」

「変人だな」

「人の彼女を変人って言わないで」

「へんじん!」

「バカっ、大きな声を出す……な」


 車座になって頭を寄せ合う4人を見下ろす様に、トラブルは仁王立ちで立っていた。


 無言のまま、テオに手を差し出す。


「何?トラブル」


スマホを。


「スマホ? 僕の? 何で?」


写真を撮ってノエルに送ります。


「そうだった! 忘れていたよ。動画を撮ってノエルを励まそうと話していたんだ。トラブル、撮ってくれるの?」


 テオはトラブルの手にスマホを渡す。

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