第449話 消耗
約12時間のフライトの終わりが近づく。
深夜にジョンが空腹を訴えて目覚めた以外は、皆、ぐっすりと良く眠った。
機内の灯りが
朝食後、いつもの様に
ノエルは挨拶に回って来た例のCAに、柔らかい笑顔で対応した。
飛行機を降りて入国審査を待つ間、ゼノはノエルの肩に手を掛けて、その対応を褒めた。
「よく、切り替えましたね。立派な態度でしたよ」
「うん。仕事モードに入ったし……ゼノの言う通り、良くない態度だったから」
ゼノは笑顔でノエルの頭を撫でる。
その瞬間を空港職員に隠し撮りされ、のちに様々な憶測がファンの間で飛び交うが、好意的なモノばかりなので会社側もメンバー達も特に言及はしなかった。
パリのホテルは、歴史のある重厚な
設備は古いがオシャレな内装で、パリの雰囲気を存分に堪能出来る。
到着日は休みを取り、翌日から殺人的なスケジュールが始まった。
どこのインタビュー、どの番組でも話題はノエルの完治した右手に集中した。ノエルは気の利いた返事を使い果たし、振り付けを忘れていないかと1日に何度も踊らされる羽目になった。
メンバー達の心配をよそに、ノエルは完璧な “ノエル” を演じて見せた。
優しい物言いで、時々、髪をかき上げ、はにかむ様な笑顔を見せる。ジョンのボケに腰を曲げて笑い、テオの肩に顎を置いて甘えて見せた。
機嫌良く収録をこなして行くノエルとは対照的に、セスから笑顔が消えた。何とか立ってはいるが、汗をかき、呼吸が荒くなっている。
その日、最後のインタビューでは、立つ事も出来なくなり、座って写真撮影を終わらせた。
「セス、大丈夫ですか?」
ゼノは、ホテルに帰る車内でセスの額に触る。
セスは明らかに熱を出していた。
セスはゼノの手を振り払う。しかし、大丈夫だと、言葉を発することも出来なかった。
今にも気を失いそうなので、マネージャーとゼノが両脇を抱え、部屋に入る。
マネージャーは病院に連れて行くべきか、判断出来かねていた。
「高熱でもあれば、すぐにも病院に連れて行くのですが……見て下さい。平熱なんです」
マネージャーはゼノに体温計を見せる。
「え⁈ いや、体は熱いですよ⁈」
「そうなのですが、喉も赤くなくて……どうしましょうか……」
「……少し、セスと話してみます。何かあれば連絡しますから、マネージャーは休んでいて下さい」
「はい。分かりました」
マネージャーはセスの部屋を後にした。
ゼノは、ベッドで目を
「セス? 何が起きているのですか? 話せますか?」
「ああ……」
セスは、薄目を開けてゼノを見上げた。
「ノエルを……ノエルを助けて来い」
「え? ノエルですか⁈ セスの方が具合が悪く……」
「いいから!……ノエルに飯を食わす様にテオに伝えろ」
「……分かりました。待っていて下さい」
ゼノはノエルの部屋をノックする。しかし、応答がない。
テオの部屋をノックすると、テオはすぐに出て来た。
「ゼノ、どうしたの?」
「ノエルはいませんか?」
「いないけど……どうしたの? セスの具合が良くないの?」
「いえ、熱はないのですが……セスが、テオにノエルに食事をさせろと言っています」
「ご飯? セスが、そう言ったの?」
「はい。で、ノエルの部屋をノックしたのですが出て来ないのです」
「僕、ノエルに電話をしてみるね。あのさ、ゼノ? セスも食べた方がイイと思う。2人とも、消耗しているんじゃないのかな……」
「確かに今日はノエルの負担が大きかったですからね。セスは……セスもノエルの影響を受けていると?」
「よく分かんないんだけど、たぶん」
「テオが、そう感じているなら間違いないですね。ノエルを頼みましたよ。私はセスに食事を……」
「うん、あの、ゼノ。あのね、ジョンを連れて行って」
「ジョンですか?」
「うん、その方がイイ気がする」
「……分かりました」
テオは、ゼノを見送ってからノエルに電話を掛けた。ノエルはすぐに電話に出て、自分よりもセスを心配してくれと言う。
「ゼノとジョンが付いているよ。ノエル、一緒にご飯を食べよう。部屋に行ってイイ? すぐ、行くから」
テオは
ノエルはゼノの時とは違い、すぐにドアを開けた。
テオに抱き付いて来る。
「ノエル? 疲れちゃったね」
ノエルはテオに抱き付いたまま、部屋に引き入れる。
そして、そのままベッドにダイブした。
「うわ、ノエル! ビックリしたー!……ノエル? 大丈夫?」
「……大丈夫じゃない」
「ん。ご飯食べよ?」
「うん……でも、もう少し、このままでいさせて……」
「分かった」
テオは胸にノエルの頭を乗せたまま、天井を見ながら背中をさする。
テオのお腹が、グーっと音を立てた。
「……ごめん。聞こえた?」
「うん。思いっきり」
「お
「お腹が2回?」
「いや、だから、僕のお腹がお腹が空いたって」
「テオのお腹もテオ語を話すの?」
「違うでしょ。お腹が言ったのは『グー』で、あとは僕がテオ語を……いや、テオは僕だから、僕は
「あはっ! もー、テオなんだからー」
ノエルはテオの胸の上からゴロンと転がり落ちて、隣に横になる。
「僕も、お腹が空いたけどー……明日、公演があるから、あまり重くないのがイイなぁ」
ノエルはルームサービスのメニューに手を伸ばす。
「うーん。あ! オニオングラタンスープだ! 決めた。テオは?」
「重くないのがイイで、グラタンなの?」
「スープなんだよー。オニオンスープにパンとチーズが溶けている感じなの」
「そっか。僕はねー……僕も重いのは無理だなぁ」
「じゃあ、ブイヤベースなんかは?」
「おー、魚のスープだったっけ? パンも食べたいなぁ。本場のフランスパン」
「イイねー。はい、テオ、電話して。フランス語で。頑張ってー」
「ええ⁈ ノエル、手伝ってよー」
「はい、はい。頑張ってー」
「もー」
フロントマンは英語で対応してくれた。テオは何とか注文を済ませ、ホッと受話器を下ろす。
「ねぇ、ノエル? 元気出た?」
「うん。テオに触ったから、もう大丈夫だよ」
「セスがね、ノエルとご飯を食べろって」
「うん、知ってる。セスも食べなくちゃね」
「なんか、ジョンも必要な気がして、ゼノにジョンも誘うように言っちゃたよ」
「うん、正解だよ。セスを癒すのはジョンだ」
「なのにセスって、わざとジョンの嫌がる事を言うよね」
「
「ねぇ、ノエル。あのね……」
テオは言いにくそうに、それでもノエルに遠慮はいらないと思った事を口にする。
「今日のノエルは凄く……いつもよりも “ノエル” っぽかったけど、何かあったの? それにセスも影響されているんだよね? 何か、2人とも変だったよ」
「あはっ! テオにはバレていたかー。説明してあげるね」
ノエルは、自分とセスの間で何があったのか、幼馴染が理解出来るように話し出す。
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