第97話 ゼノのやり方
ゼノは、このマネージャーとは1番長い付き合いだった。なので、この顔をする時は、怒り心頭している時だと知っていた。
自分達がフォロー出来ているから問題はないと、割って入るがマネージャーは納得しなかった。
「今日みたいなトーク中心の録画収録やインタビューなら誤魔化せますよ。しかしですね、音楽番組だったら? 踊りながら、どうやってフォローするんです? ずっと、髪の短い女性や黒い服装の女性を目で追っていたでしょう! ずっとトラブルを探していたでしょう! そういうの週刊誌の記者なんかは気付くんですよ! 張り付かれたらどうするんですか! 一日中ボーッとして、いったいどういうつもりですか!」
うわ〜ぉ、お怒りMAX〜と、ジョンが言いかけて、ノエルに目で制止される。
テオは「すみません」と言ったまま黙り込んだ。
ゼノは、自分が話をしますからと、テオを廊下へ連れ出した。
ゼノは
「医務室に行っておいで」
「え、いいの?」
「会いたい時は仕方がないですよ」
「ありがとう、ゼノ。……でも、僕だけの問題でトラブルには関係ないよね。すごく会いたいけど、会っただけでは解決しないよね……」
下を向くテオを見て、ゼノは少し語尾を強める。
「それに、トラブルはきっと仕事の出来ない男は好きじゃないと思いますしね」
「!」
「そう、思いませんか?」
「思う……」
「トラブルに
「うん、ゼノの言う通りだよ。今日はごめん。皆んなに迷惑かけた」
「テオはプライベートが仕事に出るから気をつけないと」
「はい。気をつけます」
ゼノは、ノエルからテオが離れるのは2人にとって、良い事だと思っていた。
おそらくノエルは平気だ。しかし、トラブルと引っ付いたテオは、トラブルの精神状態に左右されるだろう。
仕事に身が入らなくなったら? トラブルと別れたら?
この世界は入れ替わりが激しい。追いかけられる立場になった今、後ろから
トラブルはテオを上手くコントロール出来るのだろうか……?
リーダーの眉間のシワは深くなる。
テオは医務室に行かなかった。
マネージャーが見張っていたのもあるが、心から反省していた。
(もっといい仕事をして、もっといい男にならなくっちゃ。トラブルに選んでもらえるように。何だか言葉が浮かんで来た。いつもは絵なのに今日は詩を書きたいなぁ)
テオはスケッチブックを開くと頭の中の言葉を並べて行った。
後ろからノエルがそっと
ノエルは口を押さえ、目を三日月の形にして肩を揺らしながら離れた。
次にセスが
「エロい」
「わっ! セス! 見ないでよー」
「見せてー」
ジョンが無邪気に言う。
「ダメ。これはプライバシーの侵害です」
「確かにエロ過ぎて、プライバシー感、満載だな」
セスの言葉にノエルがたまらず声を出して笑った。
「単語を並べただけで、これから詩的に表現して行くんですー」と、テオはふて腐れる。
「楽しみにしてますよ」と、ゼノも笑う。
「楽しみにしないで下さい。これは誰にも見せません!」
夕食が運び込まれ、食事の光景をLive放送する段取りが付いた。
カメラが回る中、ワイワイと賑やかに食べ始め、ジョンのいたずらとテオのボケを、ゼノとノエルが拾って行く。セスはマイペースを装いながらも、さらに面白くなる提案をして笑いを誘った。
マネージャーはテオの様子を見て「よしっ」と腕を組み、満足した。
(ゼノに任せて良かった)
練習生になりたての頃、アメリカ育ちのゼノは集団生活に馴染めなかった。
プライベートを徹底管理する事務所のやり方に反発し、宿舎に帰ってこない日もあった。
代表は「そうだろうな」と、ゼノの気持ちに共感しつつも個室は与えなかった。
21才になったある日、ゼノは「限界です」と言い出した。
自分は成人していて、プライバシーも無ければ自由も無いなんて異常な世界だ。同じ様にレッスンを受けて同じ様に疲れているのに、年下というだけで、なぜ、尊敬できない先輩の洗濯や食事の世話をしなくてはならないのか。
この国を嫌いになりそうだとまで言い放った。
代表とゼノは長い時間、話をしていた。
内容は分からないが、そのあと、ゼノを中心としたメンバーの選定が始まった。
なかなか決まらず、異例の一年以上かけていたオーディションを、ジョンが受けに来たことで急展開し、代表が一気に5人を決めた。
代表の息のかかった5人は練習生時代から個室を与えられた。しかし、ゼノは自ら洗濯や掃除、年下のメンバーの食事の面倒を見た。
スタッフの中には、それは年少者の為にならず、長兄には長兄の役割があると
ゼノのバランスのとれた国際感覚のおかげで、世界が彼らを受け入れたと感じる。
代表がどこまで予測していたのか分からないが、
ゼノは年下のメンバー達を育てながら成長してくれた。
本当はマネージャーの自分の仕事なのだがゼノに任せた方が上手く行く。
今回もゼノに任せて良かった。
マネージャーは目を細める。
「ごちそうさまでしたー!」
ジョンの元気な声でLiveを終わらせようとした時、控え室のドアがふいに開いた。
検尿カップを持った白衣のトラブルが立っていた。
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