第497話 倦怠期にはTバック!


「ううん、別れたくない……でも、このまま続ける自信もないよ。時々、会ってご飯して、エッチして……どこにも出掛けられないし、親に紹介も出来ないし……何か……」

「何か?」

「僕、別れたいのかなぁ……」


 テオはアイスに視線を落としたまま呟く。


「テオ……その気持ち、なんていうか知ってる?」

「気持ちの名前?」

「そう。倦怠期っていうんだよ」

「倦怠期……これが? かの有名な?」

「有名⁈ まあ、そうだね。かの有名な倦怠期ですよ」

「うわ。僕達、倦怠期カップルになっちゃったの?」


 テオの頬が上がる。


「嬉しそうに言うねー」

「だって……本当に? そうか、倦怠期なのか」

「なんで嬉しそうなのさ」

「なんか、倦怠期なだけって聞くと安心したと言うか……」

「だけって。結構、大変な問題だけど?」

「うん。でも、人並みな感じが嬉しい」

「人並みねー」

「だって、トラブルは……僕達は人並みじゃないから……」

「なるほど。では、倦怠期を乗り切る方法を検索してみよー」

「みよー」

「あ、テオはアイスをお願い」

「おっと、了解」


 テオは溶けて溢れそうなアイスを口に運ぶ。


 時々、ノエルの口にもアイスを運び、大人しく検索結果を待った。


「うーん……対策その1、距離をおく」

「もう充分、距離は取っているよ。韓国とオーストラリアだもん」

「そういう意味じゃないと思うけどなー。対策その2、自分の時間を作る」

「どういう意味? セスみたいに部屋に閉じこもっていれば可能かもしれないけど……」

「趣味って事じゃん?」

「趣味か。確かにない。トラブルは趣味があるのかなぁ。それを一緒に……」

「一緒にしたら、距離も自分の時間もアウトじゃん」

「あ、そうか」

「対策その3、デートの方法を変える」

「トラブルの家以外で? どうやって?」

「例えばー……次、その4はねー……」

「答えてよ! その3!」

「無理だね」

「う……その4、お願いします」

「その4、相手を褒める」

「それは可能です」

「その5……あ、パス」

「パスってなんなのさ!」

「……その6」

「ノエル! その5を教えてよ!」

「その5……一緒に非日常的な事をする。スカイダイビングとか……」

「消えた〜」

「オフの日にさ、2人でどこか外国に行って……」

「いつ、オフが来るのさ。いつも、半日とかじゃん」

「だよねー。少し視点を変えてみよう」


 ノエルは再検索を始め、テオは諦め顔でアイスをグチャグチャに混ぜる。


「あ! これ! これなら2人で出来るよ!」

「え! どれ⁈」

「ほら、刺激的な下着を着けて挑発する」

「うわー……え? これって解決策なの?」

「新しい体位を試す。あはっ! 足がつりそうだよー!」

「ノエル、真剣に……」

「これ見て! 絶対、気持ち良くないよ!」

「ノエル……」

「これは、どうやって動かすんだ? こう? こうかな?」

「ノエル!」

「見てー、パンツが伸び切ってるよー」

「ノエルー!」

「はい?」

「いい加減にしてよ! 僕とトラブルの話でしょー!」

「ごめん、ごめん。だって、これ見てよ。試す価値アリじゃない?」

「え、どれ⁈ 」

「これ。トラブルに赤のTバックとか。で、横から……」

「そうか、全部脱がせないのか……って! トラブルは赤パンなんて履かないし! じゃなくて! 真面目な話をしてよ!」

「えー? スタイルいいから似合いそうじゃん。お土産に買って帰ったら?」

「僕の彼女の下着姿を想像しないでよー! シンイーさんで想像して!」

「んふー。毎晩、想像してるよー。シンイーはね、白の地味〜なパンツなの」


 ノエルは頬に手をやり、顔を赤くして言う。


「見た事ないクセに……」

「ないけど、分かるんだもんねー」

「2日目の彼女の家をのぞいてんの⁈」

「あのね、生理中みたいに言わないでくれる? シンイーは、この女の子達よりも何倍もセクシーなんですー」

「白の地味パンが?」

「親しくなったら、下着をプレゼントして少しずつ、僕好みに染めていくんだー」

「……ノエルって変態だったんだね」

「変態じゃないよ! テオにもプレゼントした事があるでしょー? 覚えてる?」

「うん。今でも履いてるけど」

「ほら。自分では買わないけど、人からもらったら意外と似合うじゃん的なの得意なんだー」

「なるほど……?」

「トラブルもレースにしてみるとか、ありじゃん? 倦怠期なんか、吹き飛んじゃうよ」

「そうか。でも、全力で拒否られそうだよ……いや! 違うから!」

「なにが?」

「僕とトラブルの倦怠期は、そういうんじゃないから! もっと気持ち的な……」

「気持ちイイ的な?」

「違うの! 気持ち! 心の問題なんだよー!」


 テオは頭を抱えた。


 ノエルは笑いながらスマホの画面を一つ前のサイトに戻す。


「ではでは、対策その6、相手任せにせず素直に話す」

「あ、あー……それが出来れば悩んでないよー」

「だよねー。でもさ、トラブルがユミちゃんに同じ様に相談していたら、ユミちゃんなら速攻で別れろって言うと思わない?」

「うん……全力で別れさせ様とするよ」

「だから、テオが素直になって、トラブルと話すしかないよ。『大好きだけど、このまま続ける自信がなくなりそうだから、もっと愛して』ってね」

「うん、もっと実感が欲しいし甘えて欲しい。僕だけを見て、笑っていて欲しい」

「なんだ、して欲しい事分かってんじゃん。素直に言ってみれば?」

「でも『甘えるのがヘタでごめんなさい』って謝らせちゃう……」

「年下には甘えにくいか。じゃあさ、テオが甘えてみなよ。遠慮してないでさ。こういうパンツ履いて欲しいとか」

「ノエル。全部、そこに持っていくねー」

「種の根源ですよ」

「でも……そうだよね。思った事は口に出す様にするよ。話すの上手くないけど……」

「会いたくなった?」

「うん。会いたくなった」

「よし、テオちゃんにイイ事を教えてあげましょう。明日、帰国です。で、レコーディングとダンスレッスンなので1日社内にいます!」

「ん? で? いつもと変わらないじゃん」

「もう。いつも時差ボケ解消の為に半日は休ませてもらえるでしょー」

「そうか! 会えるんだ!」

「トラブルもその気でいると思うよ?」

「そうかな……でも、うん、会いたいって連絡してみる」

「元気出たね」

「ノエル、ありがとう」

「じゃ、この、アイスの責任取ってねー」

「げ!」

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