第473話 バレたー!


 4人とマネージャーは移動車に乗り込む。


 ゼノは、テオに何かあったのではないかと不安を隠さないノエルを見た。


「ノエル。ノエルの力でテオが今どこにいるか分からないのですか?」 


 ゼノに言われ、ノエルは悲しそうに首を振る。


「分かんないよ。元々、テオの事は分かりにくかったし、今は疲れない様に力を抑えているから……」

「そうですか。セスはー……すみません。何でもないです」


 セスは言葉を飲み込んだゼノを笑う。


「ゼノ、気を使うなって。だいたいテオがどこにいるかなんて、想像できるだろ」

「え! セスには分かるのですか⁈」

「簡単な推理だ。今日の時間は変更になった箇所だから、テオがあいつに伝え間違えたんだよ。で、今、慌ててこっちに向かって来ている」


 ノエルは驚いて聞き返した。


「宿舎に?」

「いや、直接行くはずだ」

「どうして、分かるのさ」

「この時間になっても連絡がないって事は、俺達がすでに出たと想定しているんだ。ギリギリで合流する為に連絡する暇もない」

「2人で寝ている可能性は?」

「ある。可能性としては低いが」

「なんで、低いの?」

「電話に出ないからだ」

「え、寝ていたら……」

「2人共、気付かないと思うか?」

「そうか、どちらかは電話に気付くはず……事故っていれば、すぐに連絡が来るし……2人共、重傷ってことは?」

「あり得るが、可能性は低い」

「まあ、そうだよね……でも、心配だよ」


 テレビ局に入り、メイクのソヨン達にはテオは会社に寄ってから来ると伝える。


 ノエルはソヨンを楽屋に呼び出して、そっと事実を話した。


「トラブルの家に泊まったんだけどね……」

「そうですか、寝坊ですか……」

「皆んなには内緒ね」

「はい。特にユミちゃんには……」

「え! 来ているの⁈」

「そこ! 何、コソコソ話してるのよ!」


 ノエルは驚きと動揺を隠せないまま振り向いた。そこには仁王立ちで2人をにらむユミちゃんがいた。


「な、なんでユミちゃんがいるの⁈」

「何よ、私がいちゃいけないって言うの? テオはどこ? ボディペイントするんだけど」


 ユミちゃんは、普段、練習生を担当しているが今日は収録の為に駆り出されていた。


 後輩のソヨンはユミちゃんにボディペイントを指導されていたが、とてもユミちゃんの技術にはかなわず、テオに恥をかかせてしまうと泣きつき、渋るユミちゃんを説得して連れて来ていた。


「もうすぐ来ると思うんだけど……ボディペイントって時間が掛かるのかなぁ。シールとかで代用出来ない?」


 ノエルは、テオの到着時間が分からない今、何とか時短で済ませる方法はないのか、そうとは知られない様に聞いた。


「黒い輪郭の部分はシールよ。中を塗って行くの。塗り絵みたいにね」

「へー」

「塗り絵だなんて、とんでもない! 平面の図柄が本物みたいに飛び出てくるんです! 今日はテオさんの首にアゲハ蝶を描きますが、それが、すごく上手なんです! 芸術です!」


 ソヨンは手放しにユミちゃんを褒める。


「やだ〜、ソヨンたら芸術だなんて〜。少ーしの絵心とセンスがあれば誰にでも書けるわよ〜」


 ユミちゃんは、まんざらでもない様子で体をクネらせる。


 ノエルは苦笑いを噛み殺して、このまま話をらそうとした。


「ユミちゃんはすごいねー。美術は得意だったの?」

「まあねー。でも、皮膚ひふとキャンバスは全然違うモノなのよ。で? テオはどこなの?」


 ノエルは、失敗したとばかりに顔をしかめた。


「ちょっとー、あんたがその顔をした時は何かがバレそうな時なのよねー。何を隠してんの⁈ 言いなさい!」


(テオ、ごめーん! ユミちゃんの追求は逃れられないよー!)


 ノエルがユミちゃんに胸ぐらをつかまれそうになっていると、マネージャーが楽屋に駆け込んで来た。


「テオから連絡がありました! トラブルとこっちに向かっているそうです! あと10分で到着出来るそうなので間に合います! あー、良かったー! トラブルを叱っておかなくては! もう、2人でお泊まりは禁止します!」


 マネージャーは安堵した笑顔で言い放つ。


 マネージャーの言葉にノエルは顔を覆い、ゼノは天を仰ぎ、ジョンは口をパクパクとさせ、セスは「バーカ」と、言って背を向けた。


 ソヨンは、そっと隣のユミちゃんの顔をのぞき見る。


 ユミちゃんは目を見開き、ポカンと開けていた口を閉じる。


 次第に眉が降りて来て眉間にシワが寄る。口はへの字に曲がって行った。


 顎を引き、顔を斜めにしてマネージャーを見据みすえる。


「今の……もう一回、言ってみ?」


 ユミちゃんのドスの効いた声が響く。


「え? あと10分で……」

「そのあと!」

「へ? トラブルと……」

「なんで、テオが、私のトラブルと一緒に来るの?」

「私の? そ、それはー……」

「待って! ユミちゃん、僕から説明するよ」


 ノエルは、マネージャーの不用意な言葉よりは自分が2人の交際を知らせた方が、いくらかマシだろうと判断した。


 マネージャーは不穏な空気を読みとり「テオを迎えに行って来まーす」と、楽屋を出ようとした。


「待ちなさい! 私も行くわ!」

「ひ!」


 マネージャーは走ってドアを開けた。ユミちゃんも追って走る。


「こら! 待て!」

「ひぇー!」


 マネージャーの情けない叫び声とユミちゃんの足音が遠ざかって行く。


「あー、あー……バレちゃった。どうする?」


 ノエルは肩をすくめてセスを見る。


「時間の問題だっただろ。なるようになるさ」


 セスは背中を向けたまま、つぶやく様に言った。

 

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