第49話 ノエルの部屋


「どうしたの?お腹空いたんだけど」と、テオがリビングに出て来た。


 ちょうど、マネージャーが買い物から帰って来たのでテオの為にノエルは料理を始める。


 しかし、うーんと、まだ作戦を考えていた。


「テオ、治ったの?」


 ジョンがテオに駆け寄りながら言う。


「うん、大丈夫になったよ」


 テオは微笑んだ。


 その様子を見ていたノエルが「あー、なんだか具合が悪くなって来たー」と、頭に手をやり倒れた。


「ノエル!」


 ゼノが叫ぶ。


「ジョン、トラブルを呼んで来て下さい!」


 ジョンが走って、セスの部屋のドアをたたく。


「トラブル!ノエルが倒れちゃった!」


 トラブルとセスが何事かと出て来た。


 マネージャーとゼノがノエルを部屋に運び、ベッドに寝かせる。


 トラブルはリュックを持ち、マネージャーとゼノを脇に押しやった。ベッドの上で眉間にシワを寄せ、苦しそうに肩で息をしているノエルを見下ろす。


 トラブルはノエルの額にさわり、脈をとる。


 しばらく考えた後、セスに、全員部屋を出て下さいと、手話で言った。


 心配して騒ぐ5人を追い出した後、トラブルはノエルに向き直る。


 メモを取り出し『何のつもりですか?』と、書いて見せた。


「なーんだ、もう、分かったの?」


 ノエルはベッドに起き上がり、つまんないのと、髪をかき上げる。


 まあねと、肩をすくめるトラブル。


 で?と、話しをうながす。


『なぜ、仮病を使ったのですか?』

「セスが怒ってる声が聞こえて、トラブルが帰ってしまうと思ったんだ。本当はテオにもう少し具合の悪いフリをしてもらおうと思ったんだけど、大丈夫って出て来ちゃったし。で、名演技を披露してみましたー」

『悪い子です。で? なぜ私は帰ってはいけないのですか?』

「テオと話しをしてほしいんだ。テオは本当に人間関係に敏感で、気にしだすと、ひどい落ち込み方をして割り切れないんだよ。今日もそれで熱を出したと思うんだ」

『セスに聞きました。熱愛報道の件』

「うん、あれは本当にひどかった。可愛がってくれる先輩を増やそうと頑張ってる時に、だまされて、写真を撮られて……テオは、僕達の事も疑ってきたりして、メンバー全員が人間不信に陥って……でも、乗り越えた。だから、今、根も葉もない熱愛報道が出ても平気なんだ。でも、トラブルの事は平気じゃない。テオはトラブルが好きだ。変な意味じゃなくて人として好きだ。だから……」


 トラブルはノエルを遮ってメモを見せる。


『私を知らないのに?』

「うん、そう。何も知らない。でも、今のトラブルと周波数が合うんだと思う。ほら、テオは感性の人だから。だから、うまく説明出来なくてもいいから、テオと話をしてほしい」


(周波数……)


 トラブルはノエルの部屋を見回す。


 ノエルの部屋は、木目調で統一されていた。


 おもちゃ箱をひっくり返したようなテオの部屋と違い、落ち着いた温かい雰囲気の部屋だ。でも、生活感がない。ただ寝るだけ。


 トラブルはそう感じた。


 そして、長いメモを書いた。


『私はあの時、テオに見惚みとれていました。夕焼けのせいでもあるでしょうが、テオの強い視線と表情が色っぽくて、テオではないように見えていました。それが突然、その表情のまま、いつものテオの行動を取ったので、とても驚きました。そして、その二面性に嫌悪感を抱きました。その後も、テオに近づくのが怖くなり避けました』


 2枚目のメモを見せる。


『テオは最高の仕事をしていただけで、私がついていけなかったのです。私は謝らなくてはいけません』

「そうかー。やっぱり話して良かったよ。セスはトラブルの気まぐれだって言うから迷ってたんだ」


 トラブルは、セスには嘘はつけないなと、思う。


 今、ノエルに言った事は半分は本当だった。テオに強烈な色気を感じた。しかし、もう半分はセスの言う通り、自分でもよく分からない感情だった。


 ノエルにメモを渡す。


『昼食を作ってきます』

「うん、僕はもう少し、病人のフリをしておくよ」


 トラブルは、再びメモに何かを書き、半分に折ってノエルに渡す。


 足早に部屋を出て行った。


 ノエルは半分のメモを開き、そして、驚いた。


『私はテオを男性として好きみたいです』

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