第418話 テオ、ごめん。ジョンにするわ。


 ノエルは、自分で書いた “ノエル風” コメントを読み上げる。


「『今日のコンサートは皆んなノリノリで楽しかったよねー。エンターテイナーの集まる街で公演出来て、本当に光栄だったよー。しかも、コンサートに来てくれたバニーガールに遭遇! 生で感想が聞けて、貴重な体験でした。(テオのファンだってさー)ジョンが尻尾しっぽが生えているのかって言い出してさー。おバカな質問に、嫌な顔一つしないで対応してくれて、さすが、選ばれたバニーガールさんです! 明日も僕達は頑張るからねー。応援よろしくお願いしまーす!』どう? 完ぺきでしょー」


「褒め過ぎではないですか?」

「これだけ言われたら普通は戦意喪失でしょー。尊敬と感謝と敬意。これで相手は僕の言いなり〜」

「悪い顔してんぞ」

「おっと、気を付けなくちゃ……セスー、悪い顔って何ですかー? ウフッ」

「気持ち悪っ」

「ひどいなー。さて、ロゼさんは何て言ってくるかなぁ」


 ノエルは考えながらセスに聞いた。


「Liveで、アンチの書き込みに驚いたフリをして弁明するのは難しいかな? 直接否定した方が効果があるんだけど」

「……やるなら、お前1人でやれ。テオとジョンに演技は無理だ」

「そうだよねー……うーん、どうしようかなぁ」

「……俺を使え」

「え、セス、Live好きじゃないじゃん」

「ああ、苦手だ。だから効果的だろ?」

「うん、そう……かなり効果的だよ」

「シナリオを考えろ」

「うん。……そうだね、それで行こう」


 ノエルとセスのやり取りを聞いて、置いてけぼり状態のテオとジョンは、ますます、分からなくなる。


「ジョン。僕達がバカなの? それとも、ノエル達が天才なの?」

「僕達はバカだけど、ノエル達と比べたらだと思う」

「という事は、僕達は普通なの?」

「うん。いたって普通です……たぶん」

「自信無くなるよねー」

「2人共、何を情けない事を言っているのですか。2人が自信を無くしたら、私はどうなるのです」


 ゼノは、ジョンとテオの横に座り、話し合うノエル達を見る。


「完ぺきなルックスと、歌唱力とダンスの実力のある2人が『普通』なら、私はゴミですよ」

「え、ゼノがゴミなわけ無いじゃーん! ゼノの為に集められたメンバーなんだから」

「え! そうなの⁈ 僕? 皆んな?」

「ジョン、知らなかったの? メンバー全員がゼノをデビューさせる為に選ばれたんだよ」

「知らなかったー! ゼノがいなかったら僕達もいなかったの?」

「そんな事はありませんよ。皆んな、それぞれが違うチームでデビューしていたかもしれませんし、私、抜きのチームだったかもしれません」

「ゼノじゃない人が、リーダーなんて想像出来ないよ」

「テオがリーダーだったかもしれませんよ?」

「絶対、無理」

「いえ。案外、テオは適任だと思いますよ。ノエルがセットでいますしね」

「ねぇ、ねぇ、僕は?」

「ジョンはー……」

「何で考えるの⁈」

「甘えん坊なリーダーもアリですが、全体を見れる様にならないと難しいですね。まあ、リーダーは形ばかりで、マネージャーが取り仕切るグループもありますから、不可能ではないと思いますが」

「ハッキリ無理って言ってよ! 生殺しみたいなの、やめてー!」


 もだえるジョンの肩と背中を、テオとゼノは笑いながらさする。


 ノエルはゼノに、これからの計画を話して聞かせた。


「今から僕が1人でLiveをして、ファンの質問に答えるよ。で、そこにセスが現れて、セスが突っ込んで、僕が否定しつつ釈明するって段取りで行く。ついでにアンチへの苦言もね。明日の朝までには、収束しゅうそくさせるから」


 ゼノは、真剣な眼差しのノエルに、代表の言葉を伝えた。


「ノエル、責任を感じているのは分かりますが、気負わないで下さい。私達は、少しマスコミに騒がれたくらいでは潰れませんよ。今日、絶対に終わらせる必要はないのです。20代のアイドルらしく、今回の不安や普段の悩みを率直に伝えて、それでも頑張るからとファンを安心させてあげて下さい」

「ファンを安心させる……」

「そうですよ。それが1番に我々が考えなくてはならない事です」

「そうか……そうだよね。マスコミとアンチを黙らせる事しか考えていなかったよ……」

「それも大事ですが、ノエルなら出来ますよね?」

「うん……出来る。マスコミとアンチを黙らせて、ファンを安心させて……新たなファンを増やして見せるよ」

「え、いや、そこまでは言っていませんよ?」


 ノエルはセスを振り返る。


「セスー」

「分かった」

「へ?」

「テオとジョンにも説明してやれ」

「あー。テオー、前に言わなくても分かるって便利って言ってたけど、本当にそうだね」

「僕は毎日、ノエルにそう思っているよ。で、僕達は何をすればいいの?」

「うん、全員に協力してもらいたいんだー。マネージャー、30分後にLiveやるから準備する様に言ってくれる?」


 4人はノエルを中心に集まり、ノエルの計画を頭に入れる。






 一方、バニーガールの仕事が終わり、自宅に帰ったチェン・ロゼは、自分とジョンの写真がSNSを騒がせている事態に驚いた。顔は加工されているがハッキリと自分と分かる。


 ロゼは、ホテル側から、観光客の写真の要望には必ず応じる様に言われているが、VIPの対応については何も教えられていなかった。


 一般のカジノで彼等を見つけた時は、さけび出しそうな気持ちを抑え、勇気を出して話し掛けたが、3人の自然な姿に触れて、普段、テレビで見る彼等そのものだと、さらに好感を持った。


 彼等の部屋に行こうとした事は、ファンとして、せっかく知り合いになれたチャンスを逃すまいとしただけで、決して売名行為に使おうとしたわけでは無いが、SNSに拡散した今は、どうせホテルもクビになるだろうからと、気持ちが自暴自棄になって来ていた。


(あーあー。いい人達だったけど、お尻を触られちゃったーとか言っちゃおうかなー)


 ロゼがよこしまな思いにとらわれている時、友人からメールが届いた。


《これ、あんただよね⁈》


 友人のメールを開いてみると、ファンサイトに投稿されたジョンのコメントが添付されていた。

 

(嘘⁈ 私の事だ! 嘘ー! ジョン、可愛い〜)


 次にテオのコメントを見る。


(うわ、テオに、ありがとうをたくさんもらっちゃったー。こちらこそ、ありがとうだよー)


 ノエルのコメントを読んで、ロゼは目頭が熱くなる。


(なんて、いい人達なの……うん、明日も頑張って。応援してるわー)


 ロゼは自分のSNSに、バニーガール姿の自分の写真と、言われている様な卑猥ひわいな事は一切、されていないと投稿した。


(むしろ、皆んなが思っている彼等のままで、普通の男の子達だったよー。えーと、テオは大人しくて、ジョンはフレンドリーで、ノエルはお兄さんって感じだったよーっ。うん、これで、送信っと)


 ロゼは、壁のテオのポスターとメンバー全員のポスターを見比べる。


(タイプはテオだけど、ジョンに肩を触られちゃったもんね……ごめん、テオ! ジョンに乗り換えるわー! でも、テオの事、忘れないからねー。あー、ノエルも素敵だったなー! キャー! 決められなーい!)


 ロゼは悩んだ結果、スマホの待受をジョンに変えた。

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