第342話 バレバレのビデオ通話


 青い家の前で、ピカピカになったバイクは、どこか嬉しそうに日光浴をしていた。 


 トラブルはシャワーを終わらせ、バスタオルを体に巻いたまま腰に手を当てて水を飲む。


 スマホがテオからの着信を伝えた。


(さっそく、ビデオ通話だ)


 トラブルはベッドに座り、スマホをスライドさせて通話を開始させた。


『トラブルー、そこ、家?』


 トラブルはうなずきながら、スマホを少し離れた位置に置き、手話が見える様にした。


そちらは、どこですか。


『今ねー、4人でホテルのジムにいるの。ジョンがランニングに出たがって、仕方がないから運動に来たんだー。珍しく、ゼノとセスも』


 テオはジム内を見える様にスマホを動かした。


 遠くで、ジョンが手を振っている。


『ねぇ、トラブル、服着てる? それ、バスタオルだよね?』


はい。バイクを洗車してシャワーを浴びました。


『あー……その、バスタオル、少し下ろして見せて』


バカ。


『何だよー。そんな格好でいる方が悪いんだよー』

『何、何、トラブル、裸なの? 僕にも見せてー』

『ダメだよ! ジョン!』

『貸してみろ』

『ちょっと! セス! 取らないでよ!』

『こら、2人とも、人の電話の邪魔をしてはいけませんよ。あ、トラブル、空港で問題はありませんでしたか?』

『ゼノ。そう言いながら、見てんじゃねーよ』

『セスもだよ! 返して!』

『ケチー』

『ジョン! ケチじゃなーい! トラブル! 服、着て来てよ!』


(はい、はい……)


 トラブルは揺れる画面に酔いそうになりながら、黒のトレーナーを来てスマホの前に戻った。


『もう、気を付けてよ』


はい。


 素直に返事をしながらも、私が悪いのか? と、首を傾げる。


『ねぇ、ダテ・ジンさんの事、ノエルの機転で解決したって、どういう事?』


 トラブルが服を着ても、ジョンら3人はテオの周りから離れず、画面内にとどまっていた。


(なるほど、それが知りたくて全員集合しているのか……えーと……)


 言葉を選びながら手話をする。


ノエルが、自分が恋人なので私に2度と近づくなと警告してくれました。テオの為に。わざと。


『えー! それでダテ・ジンさんは信じたの?』


はい。信じて、涙目で走り去りました。


『うわ、ノエル、そんなに強気に言ったの? ノエル、大丈夫かなぁ』

『テオ、トラブルは何と言っているのですか?教えて下さいよ』


 ジョンが、代わりに答えた。


『ノエルがねー、俺のトラブルに2度と近づくな!って言って、ダテ・ジン泣いちゃったんだってー』

『え! それはノエルらしからぬ行動ですね。なぜ、そんな流れになったのですか?』


 テオの後ろで、セスが鼻で笑って画面から消えた。


(あ、セスにはバレた)


 心の中でペロリと舌を出す。


ダテ・ジンが、私に告白しようとノエルに相談をして、ノエルがキレて言いました。テオの為に。わざと。


『僕の為にわざとしたのは分かってるよ。2回も言わなくても。トラブルに告白しようとしたなんて、本気の本気だったんだね……何だか可哀想……でも、トラブルと離しておいて良かった』

『それだけ、説得に応じなかったって事ですよねー……? んー、ノエルが説得に失敗するなんてダテ・ジンさんの意思が強かったという事ですかね?』

『ダテ・ジーン! 僕がゲームで失恋の傷を、えぐり取ってあげるー!』

『ジョン! えぐり取ったら、もっと、大きな傷になるよー!』

『あれ〜?』


 トラブルはベッドに寝転がって笑った。


『トラブル! 下、履いてないの⁈』


(おっと)


 起き上がってトレーナーで下半身を隠す。


『何でパンツ一丁なんだよー! もー、服を着てって言われて上しか着てないわけ? もー』

『僕、見てなかった!』

『見なくていいのー。今度、ビデオ通話する時は、皆んなのいない所でするよー』


はい、お願いします。


『その時は、全部、着てなくてイイからねー』


 トラブルはスマホに向かい、中指を立てて通話を切った。






「え! トラブル!……切られちゃったよ」

「テオが変態だからだよー」

「冗談に決まってるのに。もう一度……」


 呼び出し音を鳴らしても、トラブルは電話に出なかった。


「ウソ……本気で怒っちゃった⁈ どうしよう!謝んないと……ラインで……」


 トラブルから、すぐに返事が来た。


『冗談と分かっています。診察に行くので。では、また』


「あー、怒ってなかったー!良かったー!」


 テオが胸を撫で下ろしている時、ゼノは感じた疑問をセスにぶつけていた。


「ノエルの行動、おかしいと思いませんか? ダテ・ジンさんをコントロール出来なかったなんてあり得ますかね? 何か、あったのでしょうか? 昨夜の事で体調を崩しているとか……」


 セスは「テオに言うなよ」と、前置きをして、トラブルが言った事は、すべて嘘であると話した。  


「嘘⁈ どこが嘘ですか? 解決していない?」

「いや、『ノエルが』って所を『トラブルが』に置き換えれば正解に近づく」

「トラブルが、自分はノエルの恋人だから2度と近づくなとキレて見せたって事ですか?……そう、言えば良いのに?」

「テオに言えない方法を取ったんだろ。ゼノ、覚えているか? あいつが俺に抱き付いて男を追っ払った事」

(第2章第83話参照)


「いえ、覚えていませんが……ノエルに抱き付いてダテ・ジンさんを追い払ったという事ですか?」

「ああ。で、ダテ・ジンは泣いて走り去った。テオに言えないだろ?」

「んー、告白しようと相談した相手と恋人だったと知れば、確かにショックでしょうけど……ん〜?」


(ゼノ、納得してくれ。すべてを言わせるな……)


 セスの願いを知らず、ゼノは、今ひとつ納得出来ないと言う。


「ノエルが上手くダテ・ジンさんの気持ちをトラブルから切り離したのなら分かります。でも、ノエルが何もしないでトラブルに抱き付かれただけなんて、やはり、体調が悪いのではありませんか?」


(さすが、ゼノ。知り尽くしている奴に隠し通せないな……)


「……テオのいない場所に移動しよう」

「はい。テオ、ジョン、先に部屋に戻っていますよ。2時間後にチェックアウトですからね」

「はーい」


 ゼノとセスはジムを出て、セスの部屋に移動した。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る