第420話 フィクションからノンフィクションへ


 ノエル、ゼノ、セスの3人は、好きなタイプから理想のデート、そして結婚観まで語り尽くした。


 ノエルは子供を持つのが楽しみと言い、セスは今の時代に子供を持つのは不安だと語った。


 ゼノは2人の話を、どこまでが本気で、どこまでが演技なのか、全く分からなくなっていたが、とにかく2人を信じて話を合わせた。


 ふと、ノエルが「テオはさー、優しい子より、しっかり者の方が似合っていると思うなぁ」と、言い出した。


「そうなんですか?」と、ゼノが聞き返す。


 ノエルは心の中で苦笑いをする。


(もう、ゼノったら、そこは『では、ジョンは?』でしょー! さっきから、遠回りをさせられているよー。軌道修正が大変なんだけどー)


「テオは、優しすぎて何でも相手に合わせるからさ、受け身の子だと2人でオロオロして、デートどころじゃなくなるよー」

(はい!『では、ジョンは?』は?)


「さすが、ノエル。テオの事は何でもお見通しですね」

「まあねー」

(はい。今、言って!)


「しかし、テオも最近は、しっかりして来ましたよ?」

「まあ、そうだけどねー」

(ゼノ! まったく……ヤバイ、顔に出そうだよー)


 セスが、薄笑いを浮かべながら「じゃあ、ジョンのタイプは知っているのか?」と、聞いた。


「ジョンはねー、そうだなぁ……」

(セス、感謝〜)


「3歩下がって付いてくるタイプがピッタリだと思うよ」

「はぁ⁈ あの豚が⁈」

「またー。セス、ジョンの事『豚』って言っちゃダメじゃん」

「豚は、豚なんだよ!」

「ひどいなぁ。今、世界中のファンがドン引きだよー」

「本人が喜んでいるからイイだろ」

「喜んでいるかなぁ」






 ゼノの部屋で、テオはジョンの腕を引っ張っていた。


「ジョン! 呼ばれたから行かなくちゃ!」

「違うもん! 呼ばれたのは『豚』だもん! 僕じゃないもん!」

「ジョンー! お願いだよー、行かなくちゃー!作戦の成功は僕達に掛かってるって、言われたでしょー!」

「でも、僕は豚じゃないもん!」

「それなら『豚って言うなー!』って、入って行こうよ」

「嫌だ! 絶対、セスに『お、自分の事だと分かったか』って、笑われるもん!」

「ジョンってばー!」






「ジョンって、意外と亭主関白な所があるんだよ」


 ノエルは、セスに笑顔を向けながら(豚って言うから来ないじゃん!)と、心の中でにらみ付ける。


「あ? ワガママなだけだろ?」

(ハッキリと呼ばないと気付かないと思ったんだよ!)


「違うよー、男らしくなって来たと言うかー……」

(もう、どうすんだよー)


「男らしくなったのは体だけだろ」

(お前の計画だろ)


「え。まさかの、下ネタ⁈」

(思い付かないよー……誘う、食べ物もないし)


「違うわ!」

(ん……テオに変化が……)


「今の下ネタだよねー?」

(テオ?)






「ジョン! 3人が頑張ってくれていて、僕らを待っているんだよ! 僕らが軽率だった尻拭いを、ノエルとゼノとセスとマネージャーと代表と会社の皆んなが、今、頑張ってくれているんだ。ファンが待っているんだよ! 『豚』の1つや2つや3つや4つ、我慢しなよ!」

「テオ……僕、そんなに豚って言われた?」

「もう!行くよ!」


 テオはジョンを連れて、ノエルの部屋のドアをノックした。






(やっと、来た〜……)


 ノエルは憔悴しょうすいした顔を何とか隠し、ドアを開けた。


「やっぱり、来たねー」


 ジョンが部屋に走り込んで、お決まりのセリフを言う。


「豚って言うなー!」


 メンバー達の笑い声が、カメラを通じてファンに届けられる。


 全員が揃った所で、ハートの数が新記録を達成した。


「ノエルが、ジョンは亭主関白だと言うのですよ」


 ゼノが口火を切った。


(ゼノ、ナイスタイミング! よし、このまま、エンディングまで行くぞー)


 ノエルは心の中でガッツポーズをする。


「ジョンって、持ち上げてて欲しい人じゃん?」

「え、そうかな?」

「ジョンの好きなタイプは、聞いた事がないですね」

「僕の好きなタイプ? うーんと、うーんと、僕の事が好きな人!」


 脱力するゼノにノエルが言う。


「ね? 亭主関白体質でしょ?」

「なるほどー。ノエルに1票ですね」

「何でもイイって事だろ」

「違うもん! 1番理解してくれる人って意味だもん!」

「うわー! ジョン、奥が深いねー」

「へへー。テオ、ありがとう。テオのタイプは?」

「えっと、僕の好きなタイプはね、髪が短くてー……」


 ノエルが慌てて幼馴染をさえぎる。


「すんごい具体的だねー。この際、皆んな好きなタイプを言ってみようよ。まずは、リーダーのゼノから」

「え、私からですか? えーと、人に優しくて……」

「はい、ダメー。髪の毛は? ロング? ショート? 茶髪? 前髪は? スカート派? パンツ派? アウトドア派? インドア派? 絶対に許せない部分は?」


 ノエルは、ゼノに具体的な好みを聞く。


 ゼノは、ある程度は答える事が出来たが、最後は自分の仕事やメンバー達との関係を大事にしてくれる人だと言った。


 セスも、外見の好みは多少はあるが、やはり仕事に理解を示してくれて、自分を疲れさせない精神的に自立した女性が好みだと語った。


 テオも外見はショートカットが好きだが、外見だけでは好きにならないと言う。


「ジョンも、自分を1番理解してくれる人がイイんだよね?」

「うん!」

「僕もそうだよ。僕達は、華やかな舞台の上にいるでしょ? でもね……」


 ノエルはカメラの前に座り、いつもより、ゆっくりと柔らかく、ファンに語りかけた。

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