第441話(5ー79)無敵要塞線突破
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時間と世界を超えてきた初老の男剣士は、感情を爆発させるように、高い声で笑った。
シュテンは、女性用のビキニアーマーから伸びる、丸太のような腕や熊のような脚を反らしてポージングを決める。
「……鬼、ね。いいじゃない、好きよ。その呼ばれ方。この世ならざる美しさでしょう?」
クロードは『この世じゃ理解してはいけない美しさ』ではないかと思案したものの、趣味嗜好に水はさしたくないと、ツッコミは避けた。
「カリヤ・シュテン。貴方はやはり、カリヤ家に伝わる、赤鬼で間違いないのか?」
「ええ、きっと。あの時代、あの場所、あの一族には色々あったのよ。ワタシも、語りたいことや訊ねたいことはあるけれど……」
シュテンは、刀身だけで二mはある物干し竿のように長い刀を軽々と担いだ。
「イザボーちゃん達も逃げたみたいだし、今日はここまでにしましょうか」
「シュテンさん。悪いけど、逃すわけにはいかないよ」
クロードは二刀を手に、ビキニアーマーの剣士へ斬り込んだ。
雷切と火車切が、物干し竿めいた長刀と噛み合って火花が散る。
即座に反撃の膝蹴りが飛んでくるが、クロードは脇差とはたきで受けた。
「あいにく僕は
「名高い剣豪二人が決闘した時は、船の
ドゥーエも
「
「シュテンさん。もう少しだけお話を聞いてください」
レアと一体化したソフィもはたきで支援しつつ、水壁を作り出して退路を塞ぐ。
「あらあら、まあまあ。生き返った甲斐があると言うものね。これこそ剣士の本懐というものよっ」
シュテンは歓喜にむせびながら、物干し竿めいた長剣を振り回した。
彼の刀術と体術は、鬼神めいている。
半ば裸のビキニアーマーにも関わらず、四人を相手どって互角に切り結び、それどころか圧倒すらしていたのだから。
しかし、暴れる剣鬼にも遂に年貢の納め時がやってきた。
「クロオド、面白い奴じゃないカ。その趣味、チンドン勇者を思い出すゼ」
「バウッ」
元第三位級契約神器オッテルこと、カワウソのテルが、銀犬ガルムと共に駆けつけた。
「転移阻止の術式を展開しました。投降してください」
「戦争なんだ。悪く思わないでくれよ」
イヌヴェとキジーも、部隊を引き連れて到着。兵士達がレ式魔銃ことライフルの銃口を向ける。
「あーら、モテモテね。困っちゃうワ」
シュテンは確かに強いが、多勢に無勢だ。銃と剣の差も覆せない。
クロード達のそんな甘ったるい望みは、当然のように打ち砕かれた。
「遠からん者は音に聞け。近くば寄って目にも見よ。死してなお、修羅道を求める妖異がここに有り。
シュテンの背から、あたかも桜が舞うように氷の花が咲く。
美しい花弁は、万象を食らう
「ニーズヘッグっ。雷や炎の術が消された理由はこれか」
「ネオジェネシスに情報を流した当人だ。そりゃ施術も受けるよなっ」
クロードとレア、ソフィが魔術で防衛、ドゥーエも妖刀で相殺したものの、こうなってしまっては包囲も何もあったものではない。
「じゃあね、また会いましょう」
色んな意味で規格外だった剣鬼は、投げキッスひとつを残して夜闇に溶けた。
「また消えた? どんな術を使っているんだ」
「きっとニーズヘッグの応用でゲスよ。日はもう暮れた。周囲の光や音を食らって、闇に潜んでいるんでしょう」
はた迷惑な剣鬼を追うよりも優先すべきことがある、とドゥーエは提案した。
「辺境伯様、勝利宣言をお願いしやす。我々の目的は、エングホルム領を落とすことでゲス。心配御無用! あの鬼は、オレが斬ります」
「……わかった。皆、お疲れ様。今日この日、僕達は無敵要塞線を突破した。大同盟の勝利だ!」
雪原に、鬨の声が木霊する。
この日、大同盟は新たなるニーズヘッグ三機を撃破。
緋色革命軍が建造し、ネオジェネシスが受け継いで、大同盟の進軍を一年以上に亘り阻み続けた金城鉄壁の攻略に成功した。
「すぐに治療するね。気をしっかりもって」
「だ、大丈夫です。ちょっとあてられただけで、いえ、凄い格好でした……」
最後に倒れた兵士達も、ソフィ達の献身的な介護を受けて、無事に復調した。
(次は、領都エンガの門たるエングフレート要塞。そして、カリヤ・シュテン)
復興暦一一一二年/共和国暦一〇〇六年 芽吹の月(一月)二〇日。
クロード達大同盟は、周辺の町村をまとめあげ、商業都市ティノーへと進軍する。
レーベンヒェルム領軍が初めてマラヤ半島に上陸し、警備隊長であったアンドルー・チョーカーと戦った時から、およそ一年と一ヶ月ぶりのことだった。
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