第468話(6-5)ベータとの再会
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クロードと、薄桃色がかった金髪の少女ミズキは獣道を踏み分けながら、森と川原の結界を探索していた。
日が落ちた故か、草木と水の匂いがより強く鼻をくすぐる。
闇に包まれた戦場では、二人の仲間である銀犬ガルムと
しかし、両者の激突は比較的穏便なもので、クロードはどうにもすわりが悪かった。
「ミズキちゃん。僕がイケイ谷の地下要塞で戦ったとき、ベータは命を賭けて任務を果たしたよ」
クロードはかつてベータを倒し、ネオジェネシスが計画していた領都レーフォンへの攻撃を阻止した。
しかし、それは本命の空からの奇襲作戦を隠すための一環だったのだ。
「空中要塞でやってきた
レア……第三位級契約神器レギンは、エカルド・ベックが変貌した
「僕は命を投げ打つ覚悟で任務を成し遂げたベータを尊敬している。そのアイツがこんな呑気な作戦を実行するか?」
拳を交えたことによる共感か、それとも研ぎ澄まされた第六感か。
クロードはベータの分断作戦に、喉に小骨が刺さったようなひっかかりを覚えていた。
「勝つならば、シュテンさんを主軸にするなり、分断後に罠を仕掛けるなり、やり方はあったはずだ」
「でもさ、クロード。あたしが、
「そうかな、そうかも」
クロードは、ベータが義理人情を強く重んじる性格だと知っていた。
とはいえ、過去のベータは己が感情すらも飲み込んで、使命に殉じたのだが……。
「それで、クロード。ベータってどれくらい強いのさ?」
「アイツは機転が効くし、鍛えられた肉体も脅威だよ。それに戦闘法が独特で……」
クロードが説明を始めたところ、不意に緑の枝が途切れて視界が開けた。
月と星の光が照らす水と石に囲まれた戦場で、探し求めていた最後の三人が戦っていた。
そして、ミズキは予想外の光景に目を奪われた。
「燃えよ我が拳。マッスルファイアぁああっ!」
かの剣鬼シュテンと同等の筋肉を誇る若き巨漢が、夜闇を切り裂いて燃える拳を叩きつけていたからだ。
厳しいシュテンに対し、ベータは整った眉と目筋の通ったさわやかな面立ちだから、なおさらギャップが酷い。
「レアちゃん。わたしが守るから、反撃をお願い」
そんなベータと相対するのが、赤いおかっぱ髪の執事ソフィだ。彼女は露出度の少ない改造執事服に身を包んでいるものの、胸元やお尻が張り詰めていて、秘めたる色気を感じさせる。
彼女は古びた木杖に水をまとわせて、巨漢ベータの燃える拳をそらし――。
「ソフィ、任せなさい。
そんなソフィの肩に立つ、愛らしい人形のような青髪の侍女レアが、針のように細い腕を回して魔術文字を綴る。
レアの魔術によって、空中にはたきやホウキが生じて、体勢が乱れた巨漢を撃つ――。
恋敵に近い関係にあるはずの二人だが、呼吸の合わせ方は完璧だった。しかし――。
「いま必殺の、マッスルライトニングっ」
ベータは、あたかも駄々っ子のように拳をぐるぐる回転させながら、筋肉を振動させて雷を放った。
ビリビリとほとばしる紫電は、三六〇度全方位から迫る掃除道具を叩き落とし、ソフィとレアにまで達する。
「なによあれ?」
目撃した光景があまりに理不尽だったので、ミズキは応戦の為に鋼糸を掴みつつも、状況を把握できなかった。
「そりゃあ、ネオジェネシスは体を変えるけどさ。放火するとか放電するなんて、いくらんでも非常識でしょ」
ミズキの問いに応じるものはいなかった。
三白眼の細身青年は、執事と侍女がピンチと見るや、矢も盾もなく飛び出していったからだ。
「そっか。レアさんも、ソフィさんも、クロードのパートナーだもんね」
ベータの剛腕が唸りをあげて、巌のような筋肉が更に膨れ上がるが、心配には及ばない。
「ここで仕留める。マッスルアイアーン!」
「やらせはしないっ」
クロードがレアとソフィを庇い、ベータとの間に割り入ったからだ。
まさに鋼鉄の拳となった右ストレートを、包帯が巻かれた両手で、がっちりと受け止める。
「
「クロードくんっ」
クロードは、負傷した腕と脚に巻きつけた白い布が裂けてハラハラと宙を舞うも、三白眼を細めて不敵に笑った。
「お待たせ、レア、ソフィ」
そのまま気合一閃、布の破片を吹き飛ばしながら回し蹴りを繰り出した。
クロードの日本刀を連想させる鋭い一撃が、ベータの顎に直撃する。
だが、揺るがない。そのまま演舞に興じるかのように、ヒトとネオジェネシスは徒手空拳で殴り合う。
「ベータ、鈍ってないなっ」
「クローディアスも、変わりないようだ」
やがて互いの拳を受け止めて、額をぶつけ合うかのように向き合った。
「……クローディアス。やはり勝利を掴んだのは、貴方だったか」
ベータは鼻をすすると、何を思ったか脱力して拳を引っ込め、後方へと後ずさった。
「お、おい、ベータ。始めたばかりだろ」
クロードは、ふらつく足で挑発したものの……。
「
「大丈夫だよ。レアちゃんとのコンビネーションはバッチリだから。クロードくんは寝てて」
レアとソフィが、少しでも引き離そうと背後からしがみつく。
意図せぬ体当たりは、クロードの限界まで張り詰めていた糸を切ってしまい、三人はそのまま倒れ込んでしまった。
「あ、あれ?」
転げ方がまずかったのだろう。
小さな侍女のレアは肩から滑り落ちて、女執事ソフィの胸元へと落下する。
クロードはとっさに彼女達を抱きしめるように受け止めたものの、三人の腕と脚、肌と肌が絡み合ってしっちゃかめっちやかになった。
「こ、この格好は、社会的にピンチでは?」
「ソフィ、胸が邪魔です」
「レ、レアちゃん、どこ入ってるの? クロードくんも暴れちゃ駄目」
こんな状況でなければ、色っぽいかも知れない。くんずほぐれつ団子のように転がる三人を見て、ミズキは握っていた鋼糸を手放して頭を抱えた。
「……敵は理不尽、味方はイチャコラ。こいつらに未来を託せって?」
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