第598話(7-91)赤い導家士、最後の二人
598
復興暦一一一二年/共和国暦一〇〇六年 晩樹の月(一二月)一三日。
隻眼隻腕の剣客ドゥーエは、亡き友イオーシフ・ヴォローニンに託された飛行要塞を操って、元〝同志〟エカルド・ベックが変身した、全長一〇キロはあるだろう巨大な不定形の怪物と戦っていた。
「GAAAAA! 吹雪の翼で喰えないなら直接吸収するマデっ。恐れヨ、ドゥーエ。コレこそがKAKUSEIっ! ファヴニル様に与えられた力だっ」
「ベックの野郎。〝
ドゥーエが乗った飛行要塞〝
飛行要塞〝清嵐砦〟は、そんな無茶を実行したにもかかわらず、特に不具合もなく戦闘を続行――。
今もまた、かき氷に苺シロップとケチャップをぶちまけたような不定形怪物が繰り出す触手攻撃を砂と金属で創りあげた複合装甲で受け止めて、要塞全体を軋ませながら岩鉄の砲台から
「カカカッ、がっぷり四つに組んだ
大陸中を騒がせた国際テロリスト団体〝赤い
あるいは、これまで死んでいった同志達の霊魂が、遺産を継承した彼に味方してくれているのか?
逆ピラミッド型の飛行要塞は、天守閣を砕かれ観測塔を折られ装甲を削られようとも、決して前進を止めない。
「GAAAAAA! なぜだ、ドゥーエ。どうしてお前が飛行要塞を、清嵐砦を使っている? それは私がイオーシフから受け継ぐべきトロフィーだ!」
「除名された部外者が何を言ってやがる? イオーシフからの伝言だ。仮にも世界を救う組織の元参加者が、世界の滅亡に手を貸すんじゃない。だとよ!」
ドゥーエは黄昏の空の下、五〇〇
(実のところ迷走していたのは、お前だけじゃないんだケドな)
〝赤い
『姉バアさん、オレも行く。世界を変えるんだ。オレは人間の手で、こんな結末を変えてみせる』
ドゥーエは、第一位級ガングニールによって滅びた並行世界から、時空の壁を越えて逃された。
彼の初心だった〝妹分を救いたい〟という祈りもいつしか歪み、正気と狂気の狭間で、革命への妄執に変貌した。
『世界を変える。宿命を変える。革命だ、革命だ、アハハハハハっ』
そんな無明の闇に囚われた
「なあベック、オレは太陽を見つけたぞ。正気を取り戻したからこそ、他人を踏みにじり悲劇を食い物にする、そんなお前を見過ごせない」
ドゥーエは岩盤の上で、青白く輝く妖刀ムラマサを抜いて構えた。
「GAAAAAAA! 太陽とは、革命のことだ。我らが抱いた始まりの志こそが、世界を照らすのだ」
「だったら、その志とやらを今ここで言って見ろよ」
ドゥーエの問いに、ベックは答えられない。なぜなら志を裏切ったからこそ、彼はファヴニルに縋ったのだから。
「オレは、過去のイオーシフやお前たちのように、そして今のクロードのように。大切な連中が流す涙を、止められる人間になりたい」
ドゥーエが振るう刀の波紋が、真っ白な吹雪を生み出して、血の色に染まったスライム体を滅ぼしてゆく。
「だからよベック。お前を終わらせる」
ムラマサの一閃は、飛行要塞が縫い止めた赤いスライムの中央に穴を空けて、ドーナツ状に穿った。
「GAAAA。イタイ、痛い、なんてことだっ。虫ケラどもが寄せ集まって!」
ベックは、巨大な体を震わせながら悲鳴をあげた。
そう、このキャメル平原で〝
「おうおう、ベック。お前とも一度は殴りあいたかったんじゃ。楽しいのおっ」
過去には同じ〝
「ええい、真っ正直に戦っていられるか。ミーナ、フォックストロット、罠を仕掛けるぞ」
〝マラヤディヴァ国で最も非常識な男〟と呼ばれるアンドルー・チョーカーは、仲間のドリスが作り上げた対ニーズヘッグ用の電撃網やら火焔筒やらをばら撒いて、スライムの体組織を破壊する。
「このベータ。亡くなった黒竜将軍ギュンターに恥じぬよう、全力で闘うぞ」
「バッツ兄さん。どうか力を貸して」
「エカルド・ベック。覚悟!」
北の戦場では、ベータが雷の拳を叩きつけ、マルグリットとラーシュも亡き親族の仇を前に奮起する。
「これが、辺境伯様やロビン達が乗り越えたという〝
「リヌス兄さんと鉄砲騎馬隊の道は、ぼくら飛行自転車隊が切り開く!」
リヌス&ロビン兄弟も大いに奮戦。
クロードと大同盟に、かつての好敵手や新たな仲間を加えたドリームチームは、三番煎じの怪物を追い詰めてゆく。
最初は一〇キロmを超えた長大な氷雪のスライムも、今では五キロm未満まで縮小していた。
道を誤ったヒトデナシは、自らの野望を阻むちっぽけな人間に殺意を向けた。
「GAAAAA。私は最強の存在となったんです。恐れなさい、慄(おのの)きなさい、辺境伯め、貴方に恐怖という感情はないのですか?」
「まさかっ。僕は部長の〝
――――――――――――――――――
あとがき
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