第151話(2-105)悪徳貴族と恐るべき陰謀
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復興暦一一一〇年/共和国暦一〇〇四年 晩樹の月(一二月)一九日朝。
領主であるクローディアス・レーベンヒェルム辺境伯が、領軍の声望を一身に集める司令官セイを危険視して暗殺を企んでいるという怪文書が流布されたのである。
オーニータウン以来の側近であるイヌヴェは、同日未明、領内巡察の夜営中に不明勢力の襲撃を受けて意識不明の重体となり、サムエルもまた寝所を爆破されて火傷を負った。キジーもまた参謀本部への出勤途上で狙撃されたが、凶弾が逸れて危うく難を逃れた。
これらの
領都レーフォンでは、領主
キジーは狙撃犯を捕まえて官憲に引き渡すと、上を下への大騒ぎになった参謀本部でハサネと合流し、ありったけの資料を掴んで馬を駆り、領主館へとやってきたのだという。
食堂で事情を聴いたクロードは思わず言葉を失った。ようやく絞り出した一言は、まるで冴えないものだった。
「……
「そんなことわかってますよ。御丁寧に領主館への通信が妨害されていましたし、だいたい何ですかあの趣味の悪いキャンドルデモはっ。百歩譲って領旗はまだしも国旗を焼いた挙げ句に略奪だなんて? あんなことをするデモ隊、今まで見たことありませんよ。外国人がやってますって自白しているようなものじゃないですか!」
おそらく実行者たちは、レーベンヒェルム領では週末毎に領主への抗議デモが行われていると、字面だけで知っていたのだろう。さしずめ情報源は、共和国資本が発行する人民通報か。
まるで火にかけたやかんのように気を吐いて
「爆破犯と狙撃犯は何者かによる魔術洗脳を受けていました。彼らは辺境伯様名義による、印刷された命令書を懐に隠していました。雑な工作ですが、彼らにとっては
ハサネが鞄から地図を取り出してテーブルに広げ、朱色の筆で丸印を書きこんだ。数は都合、三〇程度。
「今確認が取れている武装蜂起した領軍の砦です。各地に点在していますが、特に東部が多いですね。反乱軍の参加者は推定三〇〇〇人。今後更に拡大すると予測されます」
「三〇〇〇人だと、領軍全体の一割以上じゃないか!?」
「た、大変たぬっ」
地図を覗きこんでいたセイの顔色が青白く染まり、アリスが尻尾を逆立てて右往左往と跳ねまわる。
クロードは下唇を舐めた。不思議なことに、彼の心は
「ハサネ、反乱軍の動向はわかるか?」
「半数は個別に領都に向かって進軍しています。そして、もう半数は組織だって合流し、領東部防衛の要として建設中のグロン城塞に向かったようです」
「ああ、あそこなら東西を川に挟まれているから船を使った合流も簡単だろう。それに、湿原に囲まれているから守りも堅い。更には
台詞とは裏腹にクロードの態度には余裕があった。反乱軍の少なさにむしろ安堵すら覚えていた。あるいは、先の襲撃事件でミズキから警告を受けた時点で、すでに窮地を覚悟していたのかもしれない。そうだ、彼女は名乗りをあげると同時に、極めて重要な情報を暴露していた。
『実際、この領の警戒網は厳重だったよ。”避難民に紛れて入りこんだまではいいものの、あたし達以外は全員とっ捕まった。”おかげで良い迷彩になったんだけどね。はじめまして、クロード・コトリアソビさん。イスカが世話になったようだね。あいつの姉貴分のミズキだ』
ミズキは、レーベンヒェルム領が捕まえた偽装避難民の中に
「ハサネ、この一件は先日からの特命捜査と関係があると思うか?」
「確実に」
ハサネは
「待ってください。これは、つい手がすべって」
「ハサネは調査の続行を頼む。
「禁煙ですって!? こ、この悪徳貴族っ」
「今すぐに向かいます」
ハサネは名残惜しそうに葉巻を仕舞って中折れ帽子をかぶり、キジーは手早く書類をまとめて部屋を出た。
クロードたちもまた出立の準備をはじめたが、不意にセイが制止した。
「棟梁殿、三〇
「……セイ?」
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