第320話(4-49)悪徳貴族の再起と三つ巴

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 クロードは執務室の椅子へ厳重に縛りつけられた。

 右手にはソフィが座り、左手にセイ、後ろにはレアが寄り添う。

 最後に彼の頭上に、狸猫姿のアリスが飛び乗った。

 両手に花どころか四方に宝石だが、これでは動くに動けない。


「それでは会議を始めましょう。議題はこの馬鹿の処刑法について」


 ショーコが議長を務めて、会議が始まった。

 参加者が次々と挙手して、黒板に撲殺、過労死殺、セイの料理味見殺、スライム殺などの項目が書かれてゆく。


「これはいったいなんの会議だっ!?」

「最高責任者なのに、遊びほうけていた貴方の処刑についてだけど?」


 ブリギッタの目が据わっている。

 別に遊んでいたわけではなく、ちゃんとユーツ領の大半を攻略したわけだが――。

 クロードが領主としての職務を離れていた間、レーベンヒェルム領が空転状態にあったのもまた事実であった。


「辺境伯様、ちゃんと指揮を執ってくれますか?」


 アンセルの問いかけに、クロードは頷いた。


「OK、反省した。僕の役目を果たすさ」


 ユーツ領では、苦しいこともあったが楽しかった。

 それは、クロードが彼の地にいる間、クローディアス・レーベンヒェルムでなかったことが一因だろう。

 彼は戻る。もしかしたら、いつか、どこかで別の選択肢があったかもしれない。

 しかし、悪徳貴族を演じることを決めたのは、他でもない今ここにいるクロードだ。


「ソフィ、天馬号の荷台に載せてある座布団と卵を、研究所で調べてくれ。今ネオジェネシスを名乗っている敵の遺骸だ。ショーコは手伝いを頼む。テルとガルムは情報の共有を頼む」

「うん、クロード様。任せてね」

「わかったわ。無関係じゃないもの、ね」

「よっシャ。任せロ」

「バウ」


 ソフィとショーコがてきぱきと動き出し、テルとガルムが続く。

 セイもまた名残惜しそうに、クロードの傍らを離れた。


「セイ司令、状況を教えてくれ。ユーツ領でブロル・ハリアンが新生命(ネオジェネシス)なる生命体を作り出したのは、朝に連絡した通りだ。あれから半日、何か変わったことはあったか?」

「あったぞ、棟梁殿」


 セイは、はやる気持ちを抑えつけようとでもするかのように深呼吸して、クロードと視線を合わせた。


「ブロル・ハリアンは、本日、復興暦一一一一年/共和国暦一〇〇五年 涼風の月(九月)二七日正午をもって、緋色革命軍からの独立を宣言した。これに応じて、旧ユングヴィ大公領、旧グェンロック方伯領で、彼に同調する軍団員が一斉に蜂起した」

「はい?」


 セイの言葉に、クロードは二の句が継げなかった。

 たった今、喉元に、ユーツ領都ユテスに解放軍が迫る状況で、ブロル・ハリアンは独立し、しかもそれに賛同した軍団員がいるらしい。


「棟梁殿、我々の作戦は半ば成功した。こちらが手を下すまでも無く、緋色革命軍勢力圏は二つに分断された。ここからは三つ巴になる」

「セイ、連中は馬鹿か?」

「今更何を言っている? 赤い導家士(どうけし)や、楽園使徒(アパスル)がそうであったように、緋色革命軍もまた妄執の中で生きている」


 納得の道理だった。


「棟梁殿が交戦して情報を得られたのは幸運だった。こちらも動くに動けぬ。過剰な評価だろうが、物見からの連絡ではネオジェネシスを名乗る異形の軍団は……不死身らしい」 

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