第313話(4-42)特別ということ

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「アリスさんもガルムさんも凄い。無敵の親衛隊兵をこうもたやすく打ち破るなんて」


 シェルクヴィスト男爵家の家臣である頬髭の濃い若兵士は、遠見の魔術で街道の様子を目撃して感激のあまり涙を流した。


「ドクター・ビーストとやらが作った本物の装甲服ならいざ知らず、模造品のアリ型には魔法攻撃が通じるからナ。連中にゃア、お嬢ちゃん達は天敵ダ」


 異界の精霊の末裔たるアリスと、第五位級契約神器たるガルム。どちらも息を吸うように魔力を乗せて敵に叩きつけている。対物理防御に特化した理性の鎧パワードスーツとやらも、これでは形無しだろう。

 テルは、落ち葉を重ねたベッドに寝転びながら我がことのように胸をそらして偉ぶった。


「テルさん。我々は本当に勝てるのでしょうか。緋色革命軍親衛隊の鎧には剣も銃弾も効かないんです。そりゃあ、魔力を付与した御守りはいただきましたが、装備の差は歴然としています。彼らは"特別"な存在なんです」


 若い兵士は怯えていた。

 否、彼だけではない。主人から離れたことで、他のシェルクヴィスト家の家臣達もまた浮き足立っていた。


「アリスさんとガルムさんは確かに強いです。しかし、それは彼女たちが特別な存在だからです」


 シェルクヴィスト男爵家は、緋色革命軍に協力して、ユーツ侯爵家が無惨に敗れる様を見てきたのだ。

 同じように"特別"な緋色革命軍親衛隊には、平凡な自分たちでは叶わないのではないかと怖れずにはいられなかった。


「ナア、若造。何を勘違いしているのカ知らンが、銃弾が効かないっテ、そンなに特別なことカ?」


 テルはベッドから立ち上がり、不思議そうに指摘した。

 この世界には、矢避けの加護や障壁といった対抗魔術が存在し、攻防に秀でた契約神器は弾丸の雨を容易く消滅させる。

 クロードたちレーベンヒェルム領が作り出したレ式魔銃ことライフル、それを緋色革命軍が模倣して簡易量産したマスケット銃は、製造コストにこそ優れているが、別段際立った兵器というわけではないのだ。


「で、ですが、レーベンヒェルム辺境伯は銃の開発以後、脅威的な早さでヴォルノー島を平定したと聞きます。ユーツ侯爵家だって、緋色革命軍のゴルト・トイフェルには手も足も出ずに滅ぼされました」

「それは単にクロオドと、ゴルトやらの使い方が上手いんだヨ。マルグリットのネエチャンも、相手の動きを"重く"鈍くした上で、"重い"強い銃弾を一斉に撃ち込むダロウ? ああいう"特別"な戦い方をすりゃア、並の防御手段なんて薄紙を裂くようなもんダ」

「マルグリット様。確かにそうです……」


 テルの説明を受けて、年若い兵士は黒々とした頬髭を思わずかいて納得した。

 固唾をのんで見守っていた他の兵士達の顔にも、血の気が戻ってゆく。


「ナア、若造。お前はさっきから"特別"って言葉を使っているが。強い装備を持っていたら特別なのか? 強い力があったら特別なのか? お前達はマルグリットのネエチャンが強くて力があるから従っているのか?」

「違います!」

「そういうことだヨ」


 テルは遙かに遠い、一〇〇〇年前に世界を変えようと挑んだ少女と仲間達を思い出す。

 強者が弱者を踏みにじる停滞した世界で、新世界創造という目的を掲げて抗った彼女たちは、間違いなく"特別"だった。

 そしてそれを阻んだ神剣の勇者。一度滅んだ世界でなお、人々を救い続けた男。彼の意思と誓いもまた特別なものだろう。


(クロオド)


 最後に、テルは友を思う。

 もはや墜ち果てた弟分、ファヴニルを止めるために、邪竜が引き起こす悲劇を終わらせるために戦い続けた平凡な少年。

 誰が認めずともテルは叫ぼう。あいつは一等特別なダチだ。


「"特別"ってのはナ、強い武器を持っていることでも、強い力があることでもナイ。特別ナことをやるから、"特別"なんだヨ。一〇人と一匹で一〇〇の兵を相手に大喧嘩。こいつはちょいと燃えるだろウ?」

「はい!」


 テルの叱咤激励によって、シェルクヴィスト家の兵士達に闘志が灯った。


「サア、大逆転を見せてやろうじゃないカ!」

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