第318話(4-47)喜びと悲しみと

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 クロードたちは、緋色革命軍から奪還した炭鉱町エグネで上へ下への大歓迎を受けた。

 町人達は、中央広場にあった一の同志ダヴィッド・リードホルムの像を蹴り倒し、処刑台に使われていた演台を叩き割って薪に変え、奪われていた食料を使って大宴会を始めた。

 クロードは、マルグリットと共に同席することを決めた。町人達の雰囲気が目を離せないほどに危うかったからだ。


「辺境伯様。いいのですか?」

「大丈夫です。領民を慰撫いぶするのも、解放軍の務めです」


 ある夫は、嬲り殺しにされた妻を偲んでいた。

 ある婦人は、野犬のエサにされた赤子を悼んでいた。

 ある子供は、火あぶりにされた両親の冥福を祈っていた。


 誰もがビールを浴びるように飲み、パンやソーセージを頬張りながら泣いていた。

 親衛隊の乱行は、およそ畜生じみたものだった。

 もしもクロードたちが目を離せば、町人達は解放を喜ぶ祭りではなく、復讐を果たす血祭りへと発展しかねなかった。


「解放軍の皆様、よくぞ町を助けてくださいました。後生です。この老いぼれの命と引き換えに、ひとつだけワガママをお許しください」

「長老。この町を支配していたテロリストには、法の下で然るべき罰がくだされます。我々も協力を惜しみません」

「そうではない。そうではないのです。わしが、直接この手で……」


 クロードは、長老をはじめとする町人達の懇願を聞いて、それでもなお諫め続けた。

 マルグリットは集合予定地だった砦に通信用の水晶で連絡を入れて、シェルクヴィスト男爵家の応援を呼んだ。

 日が暮れる前には、ある程度の兵士がこの町に集まるだろう。一〇人だけでは、拠点の攻略こそ叶っても、維持することは不可能だ。だからこそ、クロード達はこの町に残っている。


「……ラーシュ。わたしは、貴方に会っていいのかな?」


 マルグリットにとって、宴会場は良心を咎める針のむしろだった。

 彼女と、シェルクヴィスト男爵家の一同は、なし崩し的にユーツ領解放軍に組み込まれた。

 大同盟の主であるクロードが認めた以上、もはや覆ることはないだろう。

 けれどほんの数日前まで、マルグリットたちは町人に恨まれる鬼畜外道に与していたのだ。


「わたしの手は、どれだけの血で汚れているの」

「こんなところで、どうかされましたか?」


 クレーター跡で立ちすくむマルグリットに、青い髪の侍女が声をかけた。

 共に飛行自転車に乗ったが故だろうか?

 仮にも一貴族家を切り盛りしてきた女男爵が、自分よりも年下の少女に甘えてしまったのは。

 気がつけば、マルグリットは不安をレアに吐き出していた。

 よしよしと優しく髪を梳られて、彼女はようやく落ち着きを取り戻した。


「ありがとう。ごめんなさい。わたしの方がずっと年上なのに、なんだか貴女が亡くなったお母様のように感じられたの」


 申し訳なさそうに赤面するマルグリットに、レアはただ優しく微笑むだけだった。

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