第591話(7-84)悪徳貴族の白竜将軍撃墜
591
復興暦一一一二年/共和国暦一〇〇六年 晩樹の月(一二月)一三日。
薄い灰色雲に隠れた陽光が、西に傾く頃――。
クロードを代表とする大同盟軍と、エカルド・ベックが指揮する〝
「セイ。世界を滅ぼす〝
「棟梁殿、任せてくれ。まだゴルト隊とチョーカー隊が到着していないが、私達とベータ殿の隊だけでも要塞を落としてみせるとも」
「一気に陥落まで狙わなくていいよ。まずは敵の空戦部隊をそぎ落としたい」
最後の塔を巡る戦い。
大同盟軍は、グェンロック領を囲む東西南北の領から一斉に攻め寄せている。
されど、東のエングホルム領から出発したゴルト隊と、南のユーツ領から珍道中を繰り広げるチョーカー隊は、いまだ戦場に到着していない。
これは、決戦の地となったキャメル平原が、北のメーレンブルク領と西のユングヴィ領に近かったことも理由の一つだが……。
「ハハハ、大同盟め。前のめりになって戦端を開くとは都合が良い。白竜将軍ハインリヒ、黒龍将軍ギュンター。役立たずの
エカルド・ベックが、〝植物を操る弱体化に長じた蒼竜将軍〟の部隊を東に、〝火砲による破壊力に特化した橙竜将軍〟の部隊を南に、捨て駒としてぶつけて足止めし、時間を稼いだことも大きな原因だろう。
「ウヒヒ。同じ四将軍といえ、このハインリヒ、陰気な
「フハハ。彼奴等は所詮、末席を汚す
ベックの命令に従い、白竜将軍ハインリヒと黒竜将軍ギュンターが部下の人型
いずれも目鼻の欠けたしゃれこうべの如き仮面顔ながら、両将軍が率いる部隊の外見は極めて対照的だった。
「ウヒっ。人間の限界を超えるニーズヘッグの高速飛行戦に耐えられるかな?」
ハインリヒの配下は白く
「軟弱な肉体を捨て、ニーズヘッグという新たな生で得た、絶対無敵の防御力と破壊力を見せてやろう!」
ギュンターの手勢は黒く丸まった重装甲冑を着込み、陸亀のような巨体から吹雪の翼を広げて、北の大地をドンドンと踏み
「「さあ旧人類よ、ネオジェネシスよ。
一体で街一つを滅ぼす〝
最後の合戦は、セイ隊と白竜将軍隊が西部で向かい合い、ベータ隊と黒竜将軍隊が北部で対峙する形で始まった。
「棟梁殿は〝ニーズヘッグを一匹も残せない〟と言った。ならば、ここで打つ手はこれだ!」
「セイ司令より連絡か。面白いっ」
そして開戦直後、セイとベータは綿密な打ち合わせによって、意外な動きを見せた。
「マルグリット&ラーシュ隊は北に向かい、黒の軍勢を挟撃してくれ」
「「わかりましたっ」」
西のユングヴィ領から進入した部隊は、セイが率いる本隊とマルグリットとラーシュが導く別働隊の二手に分かれ。
「デルタとチャーリーの部隊は西に行き、セイ司令を援護してくれ」
「「まかせて兄さんっ」」
同様に、北のメーレンブルク領から南下した白髪白眼のネオジェネシス兵も、ベータが担う本隊と、デルタらが指揮する別働隊に分かれた。
二部隊は四部隊に分かれることで、以下のように……。
【北】
▽
黒
△
【西】
> 白 <
黒と白の敵部隊を、挟みうちにしようと試みたのだ。
「ふひひ。弱い人間とネオジェネシスがわざわざ部隊を手薄にするとは、愚か愚か愚かなりいいいいっ」
白竜将軍ハインリヒと部下達は、セイが判断を誤ったと見て歓喜し、全速力で突っ込んできた。
「どうやって釣り出そうか悩んでいたら、空戦部隊の方から飛んできてくれたよ。セイ、まずはあの白蛇から落とそうか。呼吸を合わせてくれ」
「ああっ、棟梁殿と走る空は素敵だ。」
クロードとセイが二人乗りした白馬は緑の大地を蹴り、いななき一つあげて軍勢の先頭に立ち、
「うひっ。なぜだ、なぜ空を飛ぶ? 我々ニーズヘッグは、他者の魔力を喰らい、安全圏から一方的に攻撃できるはずなのに!?」
「覚えておけ。
「魔力喰らいの力は結界で無効化してある。ソフィ殿の研究成果を、その目に焼き付けて、
クロードは愛刀、
「うひいいいっ。〝村潰し〟と恐れられた偉大なる我が、かくもたやすくうっ」
クロードとセイの連続攻撃で、ハインリヒはくるくると
「「しょ、しょーぐぅん!? われわれは、これからどうすれば?」」
白竜将軍の部隊は前線指揮官を失って混乱。大同盟の西部隊は、隙ありと見てすぐさま追撃をかける。
「辺境伯様とセイ司令に続け! 飛行自転車隊は空戦始めっ。騎馬隊は射撃支援をお願いしますっ」
リヌス兄さん、一緒の作戦に参加できて嬉しいよ。
そう最後に呟いたロビン少年ら飛行自転車隊が、車体の前後左右に四枚の
「弟と一緒に戦うって、いいものだね。辺境伯様、機会をくれて。ニーダルさん、命を救ってくれて、感謝します」
車椅子型神器に乗ったリヌスは鉄砲騎馬隊を先導、対空砲火を浴びせかける。
東と南の戦場がそうであったように、キャメル平原の決戦もまた、大同盟がニーズヘッグの軍勢を押していた。
――――――――――――――――――
あとがき
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