第592話(7-85)ミツバチ作戦と真の功績者
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三白眼の細身青年クロードと彼の恋人セイは、キャメル平原の戦いが始まるや白馬で空を駆けて、敵空軍を指揮する白竜将軍ハインリヒを撃墜。
大同盟軍は、邪竜ファヴニルが蘇らせた死者の軍勢、〝
「ハインリヒの馬鹿蛇めっ、クローディアス・レーベンヒェルムと〝
黒竜将軍ギュンターは同僚に呆れつつも――プロトタイプであるネオジェネシスから受け継いだ――ニーズヘッグの
「辺境伯の軍勢は、別働隊も動いている。このままでは北も西も、挟み撃ちにされるぞ。オレ様は要塞のエカルド・ベックと協力して立て直す。ハインリヒ隊の残存戦力も合流しろ!」
ギュンターの判断は、前線指揮官として当然のものであり、的確だったろう。
クロードら大同盟は北と西の部隊を二つにわけて、黒竜将軍の部隊と白竜将軍の部隊を、以下のように挟み撃ちにしようとしていたからだ。
【北】
▽
黒
△
【西】
> 白 <
しかし、ギュンターの指示がいかに正しくとも、欲に溺れた怪物達が従うとは限らない。
「わ、我々ハインリヒ隊のニーズヘッグには、自由な裁量権が与えられている」
「だから、こっちの部隊に入ったんだよ。自由に略奪もできないギュンター将軍の指示になんて従えないっ!」
「この馬鹿蛇どもがあああっ」
ハインリヒ隊残党はギュンターの命令を拒絶し、部隊行動すらとれぬままに交戦を続けた。
「セイ、これはチャンスだっ」
「ああっ。黒い陸戦部隊はベータ殿やマルグリット殿に任せ、我々はデルタ達と白い飛行部隊を包囲殲滅する!」
「「うおおおっ、邪竜なにするものぞ! ぶっ飛ばす!!」」
クロードはこれまで幾度もの激戦を潜り抜け、〝
同様に、彼の仲間達も同じ試練を乗り越えてきたのだと、傲慢な蛇たちはついぞとして理解できなかった。
「リヌスさん、ロビン君。北から来たデルタ殿とチャーリー殿の部隊が援護してくれる。空飛ぶニーズヘッグは速くて強いが、数は少ない。かくかくしかじかのミツバチ作戦でいくぞ!」
「何をする気か知らんが、我々の吐息を受ければ無事では……って速すぎるっ」
「深呼吸などしている場合か、斬り殺されるぞっ」
白馬の手綱を握るクロードと太刀をかざすセイは、即興の作戦を伝えたのち、敵部隊にバッサバッサと斬り込んでドラゴンブレスの砲撃を中止させた。
「弱いミツバチが力に勝るスズメバチを倒す、ですって。そんなやり方があるのですか? お任せあれ」
更に車椅子型神器に乗ったリヌスの指揮する騎馬隊が、草萌ゆる大地を高速で移動しつつ、
ブレスが駄目なら吹雪の翼だと、空を舞う〝
「辺境伯様と兄さんが動きを止めてくれた。皆っ、今こそソフィ様が作られた飛行自転車の防御力を見せるときだぞっ」
続いてロビンが指揮する飛行自転車隊が、車体を中心に不可視の球状盾を展開。
圧倒的な魔法防御力を生かして、顔なし竜の周囲を狭めて、おしくらまんじゅうの如くに圧殺を図る。
「思いあがるんじゃねえ。オレ達のスピードは風より速い。吐息や翼のような大技に頼らずとも、鈍足オモチャなんて壊してやるよっ」
指揮官を失ったことでバラバラになったものの……。
ハインリヒ隊残党は、目にも止まらない速さで剣ほどもある爪を振るい、鱗の弾丸を射出し、吹雪の翼を叩きつけて、飛行自転車隊に襲いかかった。
「第六位級契約神器ルーンスプール、力を貸して。術式――〝
されど、二房に分けた白髪と丸々した白瞳が愛らしい、ネオジェネシスの少女チャーリーが契約神器を使用。
「「モモモ!」」
タコとコウモリ、トカゲをデフォルメしたようなキモ可愛い? 人間大のぬいぐるみが数千体、飛行自転車隊を守るべく空中に出現した。
ぬいぐるみ達はニーズヘッグにまとわりつき、散発的な攻撃をもこもこした肉体で受け止める。
「この、くそがあっ」
「飛ぶのに邪魔なんだよっ」
ハインリヒ隊残党は、防御に特化したぬいぐるみに手こずるうちに、恐ろしい事実に気がついた。
「え、おい、まさか、こいつら」
「おれ達の飛ぶ場所を無くすつもりか」
外側に飛行自転車隊の球状結界、内側にぬいぐるみ。
今や
「チャーリー姉さん、ナイスサポート! 兄弟たち、ここまで来れば難しいことを考える必要はない。仲間と己のきんにく、じゃない、心を信じるんだ!」
更に、彼女の弟デルタが父親ブロルの形見である、眼鏡の神器を長い柄の大鎌に変えて棒高跳びの要領でジャンプ。
ぬいぐるみと結界でぎゅうぎゅう詰めになった、ニーズヘッグの翼を切断して空から叩き落とす。
「「うおおおっ。辺境伯様万歳! セイ司令万歳! 人間とネオジェネシスの絆を見せてやるぜ」」
部下のネオジェシス達もまた人間以上の身体能力を十全にいかして、白竜将軍残党を叩き落としていった。
「なんの冗談だっ。第六位級の契約神器なんかに、どうしておし負けるっ」
「魔力を喰らうニーズヘッグの特性が、これっぽっちも機能していないっ」
デルタ&チャーリーとロビン隊が、竜を叩き落とした後は、地上の見せ場だ。
「辺境伯様のミツバチ作戦が鮮やかに決まり、ロビンたち飛行自転車隊が最高のアシストしてくれた。最後は我ら鉄砲騎馬隊の底力で、勝敗を決めようじゃないか」
リヌスが率いる人馬の軍団は、踏んで切って突いて潰して、妄念に囚われた死者を灰と塵に還す。
「お、俺はニーズヘッグが無敵と聞いたから蘇ったんだぞ。こんなのってない」
「ふざけるなばかやろー。これじゃあ、いったい何の為に生き返ったんだあっ」
クロードとセイは、仲間達の奮戦を見て安堵した。
「セイ、後輩達が頼りになるね。今日の勝利の立役者はあの子達かな」
「棟梁殿」
セイが、クロードの手をそっと拳を握りしめる。わかっている、彼だって本当はわかっているのだ。
真の功績者は、ファヴニルに攫われた……。
「うん。ソフィの、おかげだね」
「そうとも。棟梁殿、必ずあの子を取り戻そう」
ソフィが、ファヴニルとニーズヘッグに対して国家一円に及ぶ結界を構築、対抗装備を調えたことで、クロード達は初めて敵と同じ土俵に立てたのだ。
「セイ。今ヴォルノー島でイルヴァさんとカロリナさんが、救出作戦を準備してくれている。僕達はまずこの氷の要塞を落とそう。城門破壊は急がなくていいよ。そろそろ
クロードはセイに片目を瞑り、黄金色が深まる南東の空を指して、白い歯を見せた。
――――――――――――――――――
あとがき
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