第83話(2-41)色惚け隊長の登場

83


 クロードが門番を蹴り飛ばし、キジーが赤子を殺めようとした兵士にヘッドショットを決めて、義勇軍による商業都市ティノー解放作戦が始まった。

 同時刻、緋色革命軍マラヤ・エカルラートの責任者が何をしていたかというと――。

 駐屯部隊の隊長であったアンドルー・チョーカーは、この時、高台にある神殿を改装した奴隷市場の舞台下で、オークションに参加していた。

 警備兵が慌てて報告に飛び込んできたものの、薄絹をまとった少女たちに見惚れていたチョーカーは、邪魔だとばかりに彼を手にした杖で殴り倒した。

 

「物知らずな警備員が粗相そそうを見せたようです。高度の柔軟性を維持しつつ臨機応変に対処するよう、すでに部下たちへ命じています。反乱分子が騒ぎを起こしたところで、たちどころに制圧してみせましょう」

「さすがは亡き名将イェルハルド殿の御子息、チョーカー隊長だ。その若さで不動のいわおを思わせる落ち着きぶり。名将の気風とはかくあるべきです」

「フフ。父は優れた軍人でしたが、一兵卒からの叩き上げゆえに、仕える相手を間違った。しかし、領都エンガの士官学校を首席で卒業した小生は違います。革命成就の為にあらゆる敵を打ち破り、あのゴルト・トイフェルすらも追い抜いて、いずれは緋色革命軍総司令官になって見せましょう」

「素晴らしい。未来の総司令官に乾杯!」


 二〇代の若手隊長に過ぎないチョーカーは、野心と性欲に脂ぎった商人たちに媚びへつらわれて、天狗のように鼻を高々と伸ばして悦に入っていた。

 彼の士官学校首席卒業という肩書きは、実家の金と圧力で有無を言わせず買い取ったものだったが、チョーカー自身はそれこそが自分の力であると信じて疑っていなかった。


「ただいまより、オークションを再開します。ここに並んだ奴隷は、ユーツ領から届いたばかりの見目麗しい生娘ばかり。目玉は勿論、かのユーツ侯爵家の末子、ローズマリーです。彼女に祝福の焼き印を刻むのは誰か? 皆様、どうぞふるってご参加ください!」

「ローズマリー・ユーツ。我が薔薇よ、小生が新雪の如き汝の肌に、赤い血の烙印を刻んで差し上げましょう」


 チョーカーや緋色革命軍の男たちから、よだれをこぼさんばかりの悪意ある視線を向けられて、多くの美しい少女たちに混じり、酒場の踊り子が着るような露出の多い服を着せられた黒髪の令嬢ローズマリー・ユーツは、毅然と背を伸ばしたまま、赤く泣きはらした目をわずかに伏せた。


「マクシミリアン兄様。信じています」


 少女たちの前へ、肩に山羊と蝙蝠を組み合わせた紋章、焼き印を押された屈強な男たちが、真っ赤に熱せられた石と焼鏝やきごてが入ったドラム缶を運んでくる。

 その焼鏝こそは、紋章を焼きつけたものに無条件の服従を強いる、ドクター・ビーストが製作した異世界由来の魔法道具のひとつであった。

 司会のマイクパフォーマンスは、集められた少女たちにとって死刑宣告も同然で、彼女たちは震えながら絶望の時を待っていた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます