第357話(4-85)クロード 対 ゴルト・トイフェル
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ゴルト・トイフェルは、クロードが自身と同様に額から血を流すのを見て。
「こいつは驚いた。辺境伯は、物理攻撃を無力化すると聞いていたが、意外にもおいの石頭は効くらしい」
「そうだね。あんたは、頑固過ぎて困ってしまうよ」
ゴルトが叩きつける大斧と、クロードが逸らそうとする二刀が噛み合って、火花が散った。
「なあ、辺境伯。鎧の手品にもタネがあるのだろう? 銃といい、農園といい、貴様がやってきたことは奇跡でもなんでもない。この世界ではありふれた技術を、ちょっと変わった角度で使っただけだ」
「そうとも、ゴルト・トイフェル。僕はただ仲間に恵まれただけの俗物だ。何処にでもいる悪徳貴族さ」
クロードは、力任せに押し潰そうとする巨漢の胸板を蹴りつけた。
足先で魔術文字を刻んで爆発させるが、ゴルトにはまるで効いていないようだ。逆にショルダータックルを浴びせられ、吹き飛ばされる。
クロードが身につけた
「ハッ、笑わせるなよ」
ゴルトは大斧をかかげ、泥地へと跳ね飛ばされたクロードを追撃した。
「もしも奇跡なんぞというものがあるとしたら、それはただひとつ、
ゴルトの顔は修羅の如き闘争心に満ちている。
傍目にも軽くない負傷だが、高揚のせいか何の
彼は血のたぎりに酔うかのように奥の手を切った。
「術式――〝
鬼神めいた偉丈夫の全身を、紫色に染まった雷が覆う。
紫電は盟約者の傷を焼きながら
「こうやって戦える日を、一日千秋の思いで待っていたっ」
ゴルトが渾身の力で振り下ろした得物は、衝撃のあまり湿地にクレーター状の穴を創り出し、巻き上げた泥すらも一瞬で焼き尽くした。
しかし、クロードもまた寸前に地を蹴って、空を駆けるようにして回避して見せた。
「力を得たはいいが、大振りになっているぞ」
「ハッ! 全力で殴り合い、斬り合うのが男の
「……っ。そういうノリは、苦手なんだよっ」
クロードが空中から切り下ろす二刀と、ゴルトが斬りあげた大斧が再び交差する。
痩せぎすの青年は独楽のように回って首を狙い、牛の如き巨漢は斧を竜巻の如き勢いで振り回す。
もはや他の者が割りいる余地はなかった。数千もの兵士が殺し合う戦場で、二人は協奏に浸るかのように剣戟を重ねた。血が巡り、息を吐き、汗が滴る。
(強い。オズバルトさんほど怖いわけじゃない。でも、パワーとスタミナが段違いだ。大斧をハリセンみたいに振り回して息も切れないって、いったいどんな馬鹿力だよ!)
ゴルト・トイフェルは、魔術塔で戦った剣客、オズバルト・ダールマンのように極まった達人ではない。
けれど、間違いなく、英雄や豪傑と呼ばれるに足る強さと、生命の輝きがあった。
加えて契約神器との相性も良好のようだ。反射や無力化といった小細工を挟む隙なんて全くない。
(でも、これでいい)
クロードには重大な役目があった。
それは、敵総大将であるゴルトをひきつけることだ。
(戦場を見渡して、緋色革命軍の総指揮を取れる統率者がいなくなれば……)
愛すべき姫将軍セイが、必ずや勝利をもぎとってくれることだろう。そして――。
「僕も男だ。勝ちたいんだよっ!」
「よくぞ言った。共に楽しもうぜ辺境伯。戦ってやつをなっ」
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