第358話(4-86)現状把握と三つの条件
358
討伐作戦開始前に、具体的な計画を練るにあたって、セイは告げた。
『棟梁殿、聞いて欲しい。邪竜の玩具だったダヴィッドと、
クロードも彼女に同意して頷いた。
『わかってる。僕たちヴォルノー島大同盟には、マラヤ半島じゃ、ユーツ領南西部以外に根拠地がないからな』
クロードが、亡きアンドルー・チョーカーらと共に奪回した高山都市アクリア。
かの町を中心とする山岳地方は、守るに易く攻めるに難い
参謀長ヨアヒムが立案した当初の計画では……。
大同盟は、東のユーツ領に緋色革命軍を引きつけた上で、艦隊を派遣してユングヴィ領を西側から攻略し、緋色革命軍を南北に分断する予定だった。
『……僕は、焦っていたのか』
ブロル・ハリアンが第三勢力ネオジェネシスを旗揚げして、大同盟は彼らとユーツ領を分割することになった。
計算違いではあったものの、ここまでは予定の範囲内だった。
その後、大同盟はユングヴィ領沖で大勝をおさめるも、緋色革命軍がマラヤ半島で非道の限りを尽くしているのを知り、〝肝心要のユングヴィ領攻略が終わる前に〟同胞救援の為に戦線を拡大した。
クロードは、救援活動に追われるあまり各隊が分散するのを知りながらも、これを見過ごしていた。
『棟梁殿、別段、誰かのせいというわけではない。ゴルト・トイフェルがやり手だっただけだ。目の前に苦しんでいる仲間がいれば、助けたいと思うのが人情だろう。おそらく、我が軍が国主を救出するところまでゴルトの掌の中だろう。緋色革命軍ダヴィッド派は軟弱にすぎて、士気高揚した我が軍は破竹の快進撃を続け、……奴の罠へと招き寄せられた』
突出した大同盟の部隊は、ゴルトの神業めいた電撃戦で各個撃破され、レーベンヒェルム領軍を中心とした首都攻略部隊とチョーカーが遺した部隊以外は、作戦行動が不可能になっている。
『ゴルトは鮮やかに勝ちすぎた。ダヴィッドが敷いた恐怖政治で、民衆は怯えきっている。我々という救いの手が見えたかと思いきや、連戦連敗だ。人間が死を恐れるのは当たり前だろう? このままでは、民衆は嘆きながらも緋色革命軍になびくだろう』
セイという少女は、クロードと出会う以前、戦場における
彼女は、民衆が望む姫将軍という役柄を演じ、幾度裏切られてもその理想を体現するという、強迫観念にも似た生き方を貫いていた。
かつての少女は、それが信念であり、己の強さだと……思い込んでいた。けれど、今の彼女は弱さを受け容れた。誰よりも弱かった
だからこそ、セイは人間の心が、強くも脆くもあることを知っている。
『ゴルトの目的は、最終的にはネオジェネシスとの合流と見ていいだろう。常勝不敗の伝説を築かれたままブロル・ハリアンの元へ辿り着かれた場合、下手をするとマラヤ半島全体が再び敵の手に落ちる』
大同盟の戦況は、大局的には、そう悪いものでは無いのだ。
もはや緋色革命軍に艦隊は無く、兵力も全盛期から見れば微々たるもの。ネオジェネシスと組んだとしても、ヴォルノー島に攻め寄せる力はないだろう。
ただし、時間制限付きだ。ほんの少し前のように、海を挟んで膠着状態に陥ってしまった場合、クロード達大同盟は完全回復したファヴニルに
『ゴルトの行方は、ハサネ刑務所長が公安情報部の全力を尽くして追っている。具体的な勝つための策も、ヨアヒム達参謀部が考えてくれたよ』
討伐作戦は、極めて危険性の高い博打じみた代物だった。
そのため大前提として、三つの条件を達成する必要があり、不可能ならば作戦自体を中止するよう但し書きがついていた。
ひとつは、奇襲を仕掛けること。
ひとつは、クロードがゴルトをひきつけること。
『最後のひとつは、ソフィ殿とアリス殿が鍵だ』
『わたし?』
『たぬっ!?』
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます