第250話(3-35)悪徳貴族と七つの鍵の誕生
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「七つの鍵が創造された日から始まった――って、千年前には、第一位級契約神器は無かったのか?」
クロードが三白眼を驚きで見開きながら問いかけると、テルは喉を鳴らして頷いた。
「そうダ。オレが
あるいは、とテルは心の隅で独白する。
原初神話によれば、この世界は
第一位級契約神器もまた、『旧文明以前の滅亡世界』には、存在していたのかも知れない。だが、そんなことは考えても栓無いことだ。
「そうダ。クロオド、お前は
「正義の勇者が邪悪な魔女をやっつけた、と聞いている」
クロードの直球な返答に、テルは耳を垂らして頭を抱えた。
「あまりのプロパガンダぶりニ、言葉もないナ。チンドン勇者やあのジャーナリストが
テルは水晶玉と色とりどりの宝石を爪で弾きながら、停止していた動画を再生させる。
「当時の状況から話そう。かつてこの世界は神族や妖精族を自称する文明国と、彼らが支配する小人族や人間族といった植民地、そして文明国に逆らって
水晶球が映し出す――
神族の住む国々は、巨大な城が空を飛び、見目麗しい宝石によって飾り立てられた威厳ある世界だった。
妖精族の住む国々は、樹木や花々、自然と調和した建造物が立ち並ぶ幻想的な世界だった。
一方で、小人族や人間族の住む国々は、
最後に、巨人族の住む国は……。
「うぷっ」
クロードは吐き気を催した。
映し出されたものは、
ぼろをまとい首輪をつけられて労働に従事する骨と皮だけの男女。
身体も入らない小さな棚に手足と背を丸めて眠る子供たち。
放置されてネズミや蟲にかじられる病人。
何かの処置を受けるガラス瓶に入れられた手足の無い身体や、壺に詰められた内臓。
家畜小屋だってもっと清潔で人道的な、地獄のような場所だった。
「なんだこれは。戦場だってもっと人間的だぞ。なんて場所に住んでるんだよっ」
「押し込められたんだヨ。自分たちは尊い存在ダと狂信した神族や妖精族に、罪深い存在である巨人族には何をしてもいいってナ。クロオドは知らないだろうガ、連中は人間と契約神器をかけ合わせタ危険な融合体の試作実験トカ、めちゃくちゃなコトをやっていたンダ」
「融合体なら知ってるよ……」
クロードは、水筒からコーヒーを紙コップに注いで一気にあおった。
「ファヴニルか! あの馬鹿野郎ハ加減を知らン。おおかた爆発で自滅したんだろガ、どれだけ被害が出タ?」
「多くのひとが死んだよ。今でもよく倒せたものだと思っている」
「そうカ。って、爆発じゃなくて倒しタア!?」
テルは動揺のあまりテーブルの上でジタバタと転がって、『オレを倒せタんだから融合体くらいイケるって』と己に言い聞かせ始めた。
彼にとっても直視したい映像ではなかったのだろう。宝石を爪弾きながら、次の動画を探し始める。
「話を戻すゾ。そンな感じで神や妖精を自称するモノたちは愉快に過ごしていタ。だが、ある問題が生じたンダ。ササクラは知っていたガ、ひょっとしてクロオド、お前も気づいタんじゃないか?」
「資源がなくなったのか?」
この世界は、クロードの知る地球と比較しても極端に資源の産出量が少ない。遺跡のモンスターを解体したり、魔法や錬金術で変化させてやりくりしているのが実情だ。
「そうダ。よくわかっタな! 連中は浪費に浪費を重ねテ、金ぴかの生活を維持できなくなっタ。だが、人間っテのは存外しぶといものダ」
テルの言葉に、クロードは頷いた。
地球史において、森林資源を使い果たしたイギリスは石炭を代用して産業革命を起こし、百年の後にアメリカは石炭からより安価で使い道の多い石油へと切り替えて爆発的に成長した。
いずれ化石資源は尽きるだろう。だが、人類は執念のように新しいエネルギーや資源を求め続けるに違いない。
「資源が無ければ他所からとってくればイイ。資源に恵まれタ国、邪魔な国を潰して植民地に変え、民草ヲ巨人族として虐げタ。それも叶わなくなっタ時、別の新しい”何か”を使えばイイと決断しタ。だが連中はやり過ぎタ」
「やり過ぎた?」
ぞくり、とクロードの背筋に冷たい何かが走った。
「偉大なる七柱国と呼ばれタ国々は、深刻なエネルギー問題解決の為に、世界各国をまとめあげて一大魔道プロジェクト”七鍵計画”をでっちあげタんだ。詳しい内容は知らないガ、おおよその見当はついてル。契約神器を共食いさせテ、七本の強大無比ナ神器を創り上げたンだ」
「……」
クロードにだって、旧文明の指導者たちが目指したことは予想できる。
おそらく可能な限り穏便に、ファヴニルが為そうとしていることをやり遂げた。
しかし、心情として納得できるかは別問題だ。
「オレたち契約神器は、地脈から抽出されタ魔力核に意志と魂ガ宿ったモノだ。それらを尋常でなくかき集めれバ、宇宙の根源――『世界樹』へと至る虹の門が開くんだヨ」
「すまない、テル。よくわからない」
「俗っぽく言えバ、神様になれるってコトだ。古イ世界を望んダ新しい世界で握りつぶすんダ。最初に扉を開いタ神器は、第一位級契約神器ギャラルホルンだっタと言われてル。扉が開いた日、広大な砂漠は緑の山に、密林は平野に姿を変えテ、一〇をこえる国が突然の天災で消し飛んダ」
もはやテルの昔がたりは、クロードの想像と理解を越えていた。
「やり過ぎタってのはこういうコトさ。連中にとっても第一位級契約神器だけデ充分だったンダロ。世界ヲ根幹から変えようなんてきっと思っちゃいなかっタ。だが、七つの鍵が生まれて、世界ノ終わりはこうやって始まっタ」
テルは紙コップを両の前肢で器用に掴んで、コーヒーで喉を湿らせた。
「当然計画は御破算ダ。第六位級まで弱体化しタ最初の鍵、ギャラルホルンを厳重に封印しテ、各国の代表は自国へ帰っタ。そこからガ地獄の幕開けダ。鍵は七本揃う必要ハなかったのサ。翌日、九つあった大陸のひとつガ綺麗さっぱり消えタ」
神ならぬ人間が、万能の願望機を手にした時どうなるか?
「状況を把握した各国は暴走しタ。願いを叶えてマタ一本の鍵が失われ、残る鍵ハ五本ダ。どう使うか、どうすればいいのカ。神を騙る連中のうち最大の国は早々に決断しタ。自分たち以外の国をすべて消しちまえッてナ。願いを叶えるには条件があっタ。盟約者と契約神器が地脈の吹き溜まりに出現する虹の門に触れる必要があるのサ。だからその前に、オレたち巨人族はその国から第一位級契約神器ガングニールを奪い取っタ。真の平和と平等を実現するタメに」
待て。と、テルに圧倒されていたクロードの脳裏に危険信号が灯った。
彼の話はあまりに一方的だ。世の中には、まったく存在しないデタラメを、別の有った事実にこじつけて利権を求める国や集団が存在する。
さすがにそこまででなくとも、テルの話は
「テル。お前たちは、いったいどんな願いを叶えようとしたんだ」
「いと高きところに栄光を。大地に平和を。時を逆回して、人々を慈しみ見守る人間を神様にしようとしたンダ」
「それも駄目じゃないか!」
クロード
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