第290話(4-19)伏せられていた奥の手

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 エカルド・ベックは、第六位級契約神器ルーンオーブをスカーフから引き抜いて、水滴のように小さな宝珠から五本のエネルギー光線を発射した。

 クロードは焔をまとった脇差し、火車切で四本を斬り散らしたものの、残る一本は砦内に入りこんだ同盟軍の主力部隊に着弾、爆音と悲鳴があがった。


「アンセルや火竜テルと同じ砲撃型、それも数で押すタイプか!」


 クロードは地を蹴り、間合いを一気に詰めて斬りかかった。

 ベックの神器は危険だ。彼を放置しておけば、友軍にどれだけ被害が出るかわからない。


「盟約者が相手でも、この距離ならっ」

奥の手エースを切らせてもらう。特殊武装を開帳ターンアップする」


 ベックの着た上着が裂けて、灰色の軍服が露わになる。服は魔術文字が刻まれて、装甲を重ねた強化服へと変貌した。

 特徴的なのは、表面装甲を埋め尽くすように花弁や枝葉が覆っていることだろうか。


「やった。辺境伯様の勝ちだ」


 二人の激突を間近で見たラーシュは、クロードの勝利を疑わなかった。

 緋色革命軍親衛隊が用いる異界の兵器は、物理攻撃に強い耐性をもつ反面、魔術には比較的弱い。たとえベックが腕利きの戦士だとしても、この事実は変わらないはずだった。


「……っ!?」


 しかし、クロードが敵指揮官の右胸に突き立てた火車切は、強化服に咲いた色とりどりの花々によって弾かれた。接触の瞬間、炎がほとばしるも、まるで水を吸い込むが如く花枝に喰われた。

 同時にベックの右手首から、鞭のようにしなる蔦がカウンターのように飛び、細身の青年が足先から生み出した土の盾を両断する。


「驚いたね、今の反撃を避けるか。さすがは大同盟を率いる首魁といったところか」

「お褒めに与り光栄だよ。鋳造――雷切らいきり


 クロードは左手に打刀を生みだし、右手の脇差しと共に二刀流の構えをとった。

 彼はすでにエカルド・ベックを容易ならざる敵と認識していた。


「亡くなったドクター・ビーストは天才だ。惜しむべくは博士の残した技術の大半が、今の我々では再現不可能なものであり、模倣品は勿論のこと、遺品でさえ満足に使いこなすことはできていない」


 ベックもまた悲しそうに呟きながら、強化服に花を咲かせてゆく。フリージア、アザレア、シクラメン、コスモス。それらは、どこにでもある花に似ながら、奇怪な模様が刻まれたり、平常では有り得ないような配色であったり、美しさ以上に恐怖や違和感を呼び起こすものだった。


「そこで私は考えたのだ。であれば、”使いこなせるもので補えばいい”とね。我が第六位契約神器ルーンオーブと、ドクター・ビーストが残した理性の鎧パワードスーツ、”異形の花庭ストレンジガーデン”を組み合わせた我が手札、名高い辺境伯相手にどれほど通じるか、試させてもらおうか!」

   

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