第163話(2-117)悪徳貴族と晴れ着

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 クロードは、先代ほんものの辺境伯が愛用した、フリルとレースと貴金属と宝石をふんだんに使ったロココ調のコートや半ズボン、ストッキングを再利用するか売り払い、妖精大陸を中心に流行中の乗馬服から発展したモーニングスーツか、テールコートを礼服として使用していた。

 しかしながら、正装は雰囲気が重く、公安情報副部長のハサネ・イスマイールや共和国企業連会長パウル・カーンほどの威厳や風貌があるならともかく、顔が十人並みでもやしのクロードが着るとどうにも服に着られているというか、コスプレのように見えてしまう。

 更に言うと、常夏の国、マラヤディヴァ国は暑かったため、クロードは礼服そのものを敬遠していた。


「お忍びだから、これでいいよなっ」


 というわけで、クロードが一月三日の外出着として選んだのは、領都レーフォンの仕立屋から贈られたアリスをデフォルメした気ぐるみだった。黒色タイプと黄色タイプの二つがあって、どちらも町の子供たちに大人気だそうだ。


「僕も流行に乗り遅れないようにしないと。どっちにしようかな……」

「領主さま」


 が、侍女のレアがハンガーを手にとって、とてもイイ笑顔を浮かべながら衣装室の扉の前に立ちふさがったのを見て諦めた。


「冗談、冗談。さて礼服は……」


 何かの間違いでハンガーが凶器になってはたまらない。クロードはいそいそとテールコートを手にとって。


「今は日の昇る時間です」


 すかさずレアの指摘を受けたため、誤魔化し笑いを浮かべてモーニングスーツに着替えた。

 わざわざ朝と夜で礼服を変えろとかエコじゃない、ネクタイなんて肩がこるだけと内心涙を流しつつも、立場が立場ゆえに仕方がない。 


「棟梁殿、こちらの準備も整ったぞ」

「たぬったぬー♪」


 クロードがようやく衣服を身に付けて一階広間に出ると、淡い菜の花色をベースに大輪の薔薇ばらをあしらった振り袖を着たセイと、若葉色の地に毬や鳳凰を描いて遠目からはぬいぐるみ姿の柄を連想させる晴れ着姿のアリスが降りてきた。

 クロードは、二人の華やいだ姿に思わず目を奪われて立ち尽くしてしまう。


「驚かせたか? 城下の仕立屋に新調させた甲斐があった」

「アリスも可愛いたぬ? たぬたぬ?」

「二人とも似合ってるよ。セイはいつも以上に凛として、アリスも愛らしい」


 両手に花を得て、頬を林檎のように真っ赤に染めたクロードを、レアが急かす。


「領主さま、それでは参りましょう。まだ時間はありますが、早めの行動を心がけるに越したことはありません」

「何を言っている。レア殿の着替えがまだではないか? まだあと何着か残っているだろう。ソフィ殿の分も持って行こう」

「皆でお揃いたぬぅ」

「私はメイドですから。あ、あれ? あれぇ……?」


 さしものレアも、セイとアリスの二人がかりでは抵抗もままならず、しばらくして薄桃色の生地に白桜をあしらった晴れ着姿で戻ってきた。

 さすがはセイの見立てというべきか、青い髪に緋色の瞳とやや幻想じみた彼女の容姿に、やや地味ながらも驚くほど似合って、クロードの目は釘づけになる。


「きれい、だ。ごほん、さ、さあ行こう。ボー爺さんも待ってる」

「はい」


 見目麗しい女の子三人と遠出だ。

 クロードは思った。自分の人生はどうやら長くなさそうだ、と。


「みたいなことを考えていそうな顔たぬ」

「確かに」

「気のせいだっ」

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