第306話(4-35)完全なる生命、ネオジェネシス
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クロードはもはや隠す意味もなくなったと飛行自転車を降りて、ウジたちを率いる白い女に勧告した。
「バレてしまった以上、しようがない。僕はクローディアス・レーベンヒェルムだ。こちらの目的は、シェルクヴィスト男爵の保護だ。貴方が領都ユテスに引き返すというのなら、これ以上の戦闘は望まない」
クロードたちの強襲で、女が率いたウジの群れはすでに全滅していた。
視点を広げて戦況全体を
そのため、クロードは捕虜一人を取るよりも、彼女を見逃すことで交渉の窓口を得ようと考えたのだ。
しかし、彼の言葉を聞いた白い女は、整った顔を大きく歪めた。
「やはり劣等種は救いがたい。もう勝利したつもりですか? 我々"
ガルムが蹴り倒したウジが、テルが殴り飛ばしたウジが、レアが祓ったウジが、黄金色に輝く。傷が埋まり、肉が生まれ、地に伏した怪物達は再び立ち上がった。
「バウ!?」
「この反応は、まさカっ」
「……っ」
銀色の犬が、勇敢なカワウソが、お淑やかな侍女が警戒も露わに再び防戦の構えをとる。
ウジたちの挙動は、再生したばかりのせいか目に見えてぎこちなかった。けれど、その無機質な一挙一動が、相対する者の恐怖を一層駆り立てる。
「さあ、おののきなさい。畏れなさい。旧き人類よ」
白い女がの目と口が裂け鼻が割れた。彼女は人面の崩れ去った顔で高々と笑う。が――。
「たぬ? 動かないたぬよ」
「あの、卵みたいに固まってるんだけど」
アリスが肉球でのしたウジは、ペチャンコに潰れたままだった。
クロードが自転車で轢き倒したウジは、球体状に溶けて固まって全く反応がなかった。
「え?」
「え?」
お互いに、想定外だったのだろう。
クロードと白い女はこれは一体どうしたことかと、揃って顔を見合わせた。
そして、その隙を見逃す侍女ではない。
「領主さま、お手をこちらに」
「お、おうっ」
レアが、頬を紅く染めながらクロードに抱きついた。彼女は彼の手を引いて、二人に迫る触手をはたきで払った。
白い体が動きを止める。触手は枯れ枝のように折れ、本体もまた卵の殻のように脆く砕け散った。
「ああっ、レアちゃんズルいたぬっ」
「バウ!」
「むうん。ガッちゃん、わかったぬ。いっせーのーせっ」
アリスは一瞬へそを曲げたものの、ガルムと手を取り合って空中高く跳躍した。
二人は、大口を開けてマルグリットたちに迫るウジを蹴飛ばした。ダブルキックの威力は絶大だ、白長い身体は砂の如く崩れて消え去った。
「こんな、こんなことはあり得ない。我々はネオジェネシス。まったく新しい完全なる生命なのに」
「いいヤ。嘘ダネ。先刻の反応ハ、一〇〇〇年前に飽きるほど見た光景ダ。お前達の正体は、第一位級契約神器イドゥンの林檎の残骸と、ドクター・ビーストとやらが持ち込んだ異世界技術をかけあわせタ、ただの融合体ダロ?」
そして、推理小説の名探偵の如く格好つけたポーズを決めたカワウソが、狂乱する白い女に対し真相を告げていた。
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