第七部/第四章 ひと と ひとならざるモノの絆
第549話(7-32) クロードとガルム、推参す
549
復興暦一一一二年/共和国暦一〇〇六年 晩樹の月(一二月)一二日午後。
三白眼の細身青年クロードは全長二mの銀犬ガルムの背に乗って、疾風の如き速さで山を越え川を渡り、ヴァリン領の南北を結ぶ中継都市パダルを目指した。
「そんな、街が全滅してるだなんて……。〝
「ワウッ」
そうして辿り着いた目的地は、毒々しい青い花、茶色い蔦、紫色の蜘蛛糸、橙色の蛇、赤黒い水溜まり、蛍光色に光るキノコといった劇物に覆われて、生きている住民はどこにも見当たらなかった。
「擬似鋳造――蛇の目、蛇の耳」
クロードが奥歯を噛みしめながら指を走らせると、目と耳に輝く文字が浮かび上がる。
(蛇にはピット機関と呼ばれる、熱を把握する能力がある。ファヴニルにも類似の、魔力を感知する力がある。領主館の初陣で使った力、使わせてもらう!)
クロードの視界は広がり耳の可聴域が拡大し、レーダーやソナーを視覚化したかのように、パダル市の様子を一望できた。
「アリスやイザボーさん達は南だ。ガルムちゃん、周囲は全て罠と思ってくれ。鋳造――
もっとも、範囲こそ広くともあくまで魔力感知であり、詳細は判別不能だ。
クロードは何かしらの仕掛けがあると直感、右手に雷を帯びた打刀を、左手には炎を噴く脇差しを作り出して備える。
「ウウウー、バウワウ!」
ガルムもまた銀色の毛を逆立てながら、尻尾と前後の足を器用に使って、背負った大袋から器用に爆薬を取り出した。
「AAA……」
「UUU……」
間一髪で、判断が間に合った。
二人が臨戦態勢を整えた直後、事切れた民衆のの遺体が一斉に立ち上がったからだ。
つい先ほどまで日常を過ごしていたはずの真新しい遺体が、毒の花や糸、菌類に操られ、ホラー映画のゾンビのごとく襲いかかってくる。
「すまない。仇は必ず取る! だから、眠ってくれ」
「アオオーン」
クロードが二刀から放つ雷と炎、ガルムが投げる爆薬が反応し、轟音と共に街の一角が
「AAA……」
「UUU……」
操られた人々の遺体も浄化され、どこか安らいだ顔で雷火の中へ消えていった。
「ガルムちゃん。まずアリス達の退路を確保しよう。パダルを汚す呪いは僕達で祓うぞ」
「ワオーン!」
銀の閃光が走り、赤い爆炎が舞う。
クロードとアリスは人馬一体ならぬ人犬一体の連携で、操られた死者の軍勢を瞬く間に
しかし罠を突破した二人を狙い、街の陰から色鮮やかな毒が飛来し、石畳が敷かれた道路に穴を空ける。
「
「ワウっ!」
クロードとガルムは問いただしたものの、街一つを滅ぼす虐殺者達と、まっとうな会話が成立するはずもない。
「へへっ、戦う力の有無なんて知ったことか。この世界にオレ達の恨みを、毒を示すんだよおおっ」
民家の屋根に立つ陰気でやせた男は、無数のキノコがうねうねと蠢く生体鎧から、蛍光色の胞子を吹きつけ――。
「ぎぎぎ。みんな、苦しめ。アタイの毒で、もっともっと苦しむ顔を見せておくれ」
道路に陣取る下半身が蛇の尾となった女は、しゅーしゅーと異音を立てる生体鎧から、橙色の小蛇をけしかけ――。
「ふはは。ボクたちは毒の専門家さ。生きている奴は、誰も彼も死に果てればいいっ」
イモリのように四つん這いで石塀に張り付く男は、びしゃびしゃに濡れた鱗の生体鎧から、赤黒い毒液を射出した。
「「「我ら三人の連携技。至高の毒撃を、果たして耐えられるかな?」」」
色とりどりの毒は重なりあい、より重篤な毒に成長して空と大地を汚す。
家々が泡立つように崩れ、生垣や土塀がドロドロと溶け、道路が波打つように歪む。
毒の渦は、大口を開けた大蛇のように障害物を食い散らしながら、クロードとガルムに迫った。
「ガルムちゃん、あわせてくれ。鋳造――鎖!」
「
恐るべき毒尸鬼隊の連携攻撃に対し、クロードは即座に鎖を作って囲い、ガルムが広大な布を編み上げて被せた。
「攻めるばかりが連携じゃない。雷切、火車切、最大火力だ!」
「バッフーン!」
たとえ一瞬でも構わない。
毒を閉じ込めてしまえは、後は雷と炎、爆薬で焼却処理するだけ。
ガルムは鋳造魔術の使い手オズバルトと長年共闘した経験があり、クロードとの連携はあたかも水を得た魚のようだった。
「「成敗っ!/アオーンっ!」」
クロードの刀とガルムの爪があたかも竜巻の如く閃いて、茸男と蛇女、イモリ男をずんばらりと切り伏せる。
「「「うわあああああっ」」」
一人と一匹は毒尸鬼隊の先鋒を塵に還し、街を蝕む毒を片端から焼き払った。
「
そうして風通しのよくなった街で、二人は遂に探し求めていた姿を見出した。
「アリス。イザボーさん、助けに来たぞ!」
革のブルゾンとジーンズを身につけた虎耳の少女がぶんぶんと手を振って、トンボに似た甲冑を着た女隊長が鋼鉄の扇子を掲げる。
「やっぱり来たぬ!」
「あははっ、最高のタイミングだ。愛ってのもまんざらじゃないねえ」
―― ―― ―― ――
あとがき
お読みいただきありがとうございました。
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